研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2020年 > 植物に振動を与えて害虫が減少!~難防除害虫の新たな防除法の開発~
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2020年12月8日
琉球大学
森林総合研究所
琉球大学農学部 柳澤隆平さん、諏訪竜一 准教授、立田晴記 教授、及び国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 高梨琢磨 主任研究員らの研究チームによる研究成果が、「Applied Entomology and Zoology」(日本応用動物昆虫学会英文誌)に掲載されます。
(写真)農業害虫タバココナジラミ
(撮影:柳澤隆平、協力:金野俊洋)
(1)今回の成果について
(2)研究内容
1)研究の背景・先行研究における問題点
タバココナジラミによる被害と課題 : タバココナジラミ(図1)は多くの野菜・花き類に深刻な被害を与える世界的な農業害虫です。幼虫、成虫ともに植物の栄養を直接吸汁して奪うだけでなく、甘露(病原菌が好む栄養素を含む排泄物)を排泄することで、すす病という病気を引き起こし、植物を枯らしたり作物の商品価値を下げてしまいます。またトマトの収量を著しく減らすトマト黄化葉巻病ウイルス (TYLCV)やウリ科野菜の葉に激しい黄化を引き起こすウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)など多くの植物ウイルスを媒介します。また本種は40以上にもおよぶ形態的に区別不能な「隠蔽種(バイオタイプ)」が存在します(Vyskočilová et al. 2018など)。それらの中で最も深刻な侵略的外来種であるMiddle East-Asia Minor 1 (MEAM1、またはバイオタイプB) や Mediterranean (MED、またはバイオタイプQ) といったタバココナジラミは宿主とする植物種の範囲が非常に広く、様々な殺虫剤に対して強い耐性を示すことから、化学農薬のみに依存した防除法では対処できない問題が生じています。このような背景から化学農薬のみに頼らない効果的な防除法の開発が希求されています。
振動と昆虫について : ほとんどの昆虫には環境中の振動を検知する感覚器官があり、植物や樹木などを介した振動を感知して様々な行動を起こすことが知られています。たとえば、カンキツ類の害虫として知られるミカンキジラミの求愛に用いられる振動(Wenninger et al. 2009)や、天敵からの振動を感知して回避行動をとるカミキリムシ(Takanashi et al. 2016)などがあげられます。こうした振動に対する感受性を利用することで、昆虫の行動を制御する手法が注目され始めています (Takanashi et al. 2019)。この手法は化学農薬が効かない害虫や、化学農薬を散布できない場面にも適用できることから、様々な農業現場で活用できる可能性を秘めています。
図1.農業害虫のタバココナジラミ(左がオス、右がメス:撮影 柳澤隆平)
2)研究の内容
実験の概要 : 2棟のビニールハウスにトマトを12株ずつ用意し、トマトを振動させる「加振区」と対照区としてトマトを振動させない「無加振区」を設置しました (図2 左上)。加振区では振動を発生させる加振器 (図2 右上) を設置し、加振器から直接伸ばした樹脂製の横棒を各トマトの支柱と垂直に接続することで、植物体に振動を与えられるようにしました (図2 下)。
実験開始前にあらかじめタバココナジラミを一株あたり30匹放飼しました。植物に100Hzの振動を毎日7時00分から18時00分まで、30分おきに1秒加振、9秒休止という刺激を1分間与えました。振動を与えた日から5日ごとに各トマトの葉上に定着したコナジラミの成虫数と幼虫数を調査しました。
図2.実験の配置。左上 : 実験ビニールハウス全体図、右上 : 加振器 (湘南メタルテック製)、下 : 加振区を横から見た図
加振区の成虫と幼虫の密度はどちらも無加振区とくらべて減少していました。特に幼虫では無加振区のおよそ40%もコナジラミが減少していました(図3: 一般化線形混合モデル、成虫: β = -0.33、z = -2.147、p = 0.032、幼虫: β = -0.62、z = -2.271、p = 0.023)。この結果は植物体を介した振動により、タバココナジラミの植物への定着が阻害されていることが示唆されました。
図3.葉上に定着したタバココナジラミの密度。左: 成虫 右: 幼虫 無加振区とくらべ、加振区のコナジラミの数が減少した。
(3)社会的意義・今後の予定
本研究では植物体に振動を与えることで、植物上のタバココナジラミの個体数を減少させられることが明らかになりました。今後は加振器の改良を行い、振動の伝達方法やタイミングを工夫することで防除効果を一層高めるとともに、植物に対するプラスの効果についても追究していきます。物理的な防除技術は、化学農薬の利用頻度を低減し、有効な防除策が打てなかった害虫に対しても利用可能であることから、SDGs(持続可能な開発目標)の2. 飢餓をゼロに(飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する)へも貢献しうると考えています。
Takanashi T et al. 2016. Substrate vibrations mediate behavioral responses via femoral chordotonal organs in a cerambycid beetle. Zool Lett 2:18. https://doi.org/10.1186/s40851-016-0053-4
Takanashi T et al. 2019. Vibrations in hemipteran and coleopteran insects: behaviors and application in pest management. Appl Entomol Zool 54:21-29. https://doi.org/10.1007/s13355-018-00603-z
Vyskočilová S et al. 2018. An integrative approach to discovering cryptic species within the Bemisia tabaci whitefly species complex. Sci Rep 8:10886. https://doi.org/10.1038/s41598-018-29305-w
Wenninger EJ et al. 2009 Vibrational communication between sexes in Diaphorina citri (Hemiptera: Psyllidae). Ann Entomol Soc Am 102: 547–555. https://doi.org/10.1603/008.102.0327
論文タイトル:Substrate-borne vibrations reduced the density of tobacco whitefly Bemisia tabaci (Hemiptera: Aleyrodidae) infestations on tomato, Solanum lycopersicum: an experimental assessment
(基質振動はタバココナジラミが蔓延したトマトにおける寄生密度を低下させた:実験的評価)
掲載誌:Applied Entomology and Zoology
著者:Ryuhei Yanagisawa、Ryuichi Suwa、Takuma Takanashi、Haruki Tatsuta
DOI番号:10.1007/s13355-020-00711-9
アブストラクトURL: https://doi. org/10.1007/s13355-020-00711-9
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