研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2020年 > ナラ枯れを起こす昆虫 北海道で初めて発見 ―道南での調査 ナラ枯れ被害木は確認されず―
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2020年12月25日
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
北海道立総合研究機構林業試験場
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、北海道⽴総合研究機構林業試験場と共同で、ナラの⽊を枯死させるナラ菌を運ぶ昆⾍であるカシノナガキクイムシを北海道で初めて、道南の福島町、松前町で捕獲しました。国内では、これまでに本州以南に⽣息することが知られていましたが、北海道での⽣息は確認されていませんでした。今回、北海道の最南端地域でフェロモントラップを使ってカシノナガキクイムシの⽣息状況を調べたところ、松前町と福島町の4カ所の森林で5個体(雄2個体、雌3個体)が捕獲されました。現在のところ、北海道内でナラ枯れは確認されていませんが、カシノナガキクイムシの⽣息状況を継続的に調査し、ナラ枯れが発⽣した場合は早期発⾒、防除する体制を整えておくことが重要となります。
本研究成果は、2020年12月25日にJournal of Forest Research誌でオンライン公開されました。
カシノナガキクイムシは、ナラやカシの木を枯死させるカビ「ナラ菌」を運ぶ昆⾍(甲⾍)の⼀種です。この⾍がナラ・カシ類の幹に侵⼊すると、ナラ菌の増殖により樹⽊が通水
機能を失う「ナラ枯れ」が起こり、⽊が枯れてしまいます。国内では、これまで本州以南に⽣息していることが知られていましたが、北海道での⽣息は確認されていませんでした。
ナラ枯れは最近、本州、四国、九州に広がっており、特に東北地⽅では被害地域が北上しています。令和元年には⻘森県でナラ枯れ被害が急増したことから、カシノナガキクイムシの北海道への侵⼊が危惧されました。そこで、北海道の最南端地域でフェロモントラップを使ってカシノナガキクイムシの⽣息状況を調べました。
北海道最南端に位置する松前町、福島町、知内町にある20 カ所の森林に、カシノナガキクイムシが誘引される匂いのするフェロモン剤をいれた捕獲器(フェロモントラップ)を1 基ずつ設置しました。設置は2020年7⽉初旬に⾏い、1ヶ⽉後に回収して捕獲状況を調べました。
その結果、20カ所のうち松前町と福島町の4カ所で5個体(雄2 個体、雌3 個体)が捕獲されました(写真1)。捕獲個体のうちの3個体は海岸から約1〜2km離れた森林で捕獲されましたが、残りの2個体は海岸から約5km離れた森林で捕獲されました。これは、北海道でのカシノナガキクイムシの初記録となります。
写真1 北海道で捕獲されたカシノナガキクイムシ 左:オス 右:メス
北海道でフェロモントラップを使った⽣息状況調査が⾏われたのは今回が初めてのため、カシノナガキクイムシが北海道に侵⼊した時期は不明です。また、もともと北海道には低密度で⽣息していたが、これまで確認されていなかった可能性もあります。今後、調査地域を広げ、遺伝解析などの⽅法によって、北海道のカシノナガキクイムシの由来を調べる必要があります。
北海道に生育するナラ類はミズナラ、コナラ、カシワですが、いずれもナラ枯れに弱い樹種です。特にミズナラは現存量が多い上に枯死しやすいので、今後ナラ枯れの発⽣が危惧されます。
現在のところ北海道でナラ枯れは確認されていませんが、カシノナガキクイムシの⽣息状況を継続的に調査し、ナラ枯れが発⽣した場合は早期に発⾒し、防除する体制を整えておくことが重要となります。
タイトル:First report of an ambrosia beetle, Platypus quercivorus, vector of Japanese oak wilt, in Hokkaido, northern Japan(ナラ枯れを起こす甲虫、カシノナガキクイムシの北海道における初記録)
著者:尾崎研一(森林総合研究所)、上田明良(森林総合研究所)、徳田佐和子(北海道立総合研究機構林業試験場)、和田尚之(北海道立総合研究機構林業試験場)、北島博(森林総合研究所)
掲載誌:Journal of Forest Research、2020年12月25日オンライン掲載
論文URL(DOI):https://doi.org/10.1080/13416979.2020.1860453
研究費:文部科学省科学研究費補助金(JP18K05735)
北海道立総合研究機構林業試験場
*カシノナガキクイムシ
体長約5ミリ。ミズナラやコナラの木の幹に孔を掘って侵入し、幼虫を育てる。成虫の体にナラ菌が付着していて、樹体内にナラ菌が持ち込まれる。ナラ菌に感染した木は通水機能を失い、急速にしおれて枯れていく。
カシノナガキクイムシが侵入した木は、幹に直径1.5~2ミリの孔が多数あり(写真2)、根元には大量のフラス(木くずと虫糞が混じった粉状のもの)が見られるため(写真3)、被害木と判定できる。
被害木の中で育った成虫は6~8月に羽化し、健全なナラの木に飛来して侵入し、被害を拡大させる。
写真2 カシノナガキクイムシが侵入したミズナラの幹(青森県で撮影)
幹に直径1.5~2ミリの孔が多数ある。
写真3 カシノナガキクイムシが侵入したミズナラの根元(青森県で撮影)
根元には大量のフラス(木くずと虫糞が混じった粉状のもの)が見られる。
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