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プレスリリース

2021年11月11日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所

分布の中心で、メスジカを捕らえる
―個体群の分布域周辺部にはオスが、中央部にはメスが多い―

ポイント

  • ニホンジカの性比は分布の周辺部と中央部で異なることがわかりました。
  • 一定の生息密度に達するまでは、生息密度が高くなるほど角なしシカ(メスと1歳未満のオス)の比率が高くなりました。
  • シカの個体群管理には、子を生むメスを駆除して次世代を減らすことが有効であり、メスが多い地域の特定は効率的な個体群管理に役立つことが期待されます。

概要

熊本県が収集しているニホンジカ(以下シカ)の捕獲個体情報を解析し、角を持たないシカ(角なし:成獣メスと子)と角を持つシカ(角あり:成獣オス)の比率が県内でも地域によって異なることを明らかにしました。さらに同県が収集しているシカの生息密度情報を基に地域ごとのシカの生息密度指標*1算出し、角あり、角なしのシカの比率と比較したところ、生息密度指標が3程度に達するまでは生息密度指標が高い地域ほど角なしシカの割合が高いことがわかりました。
生息数増加と分布拡大に伴い日本各地でシカによる農林業被害が深刻化していることから、効率的、効果的な個体群管理手法の確立は喫緊の課題となっています。メス(角なしシカのほとんどを占める)の捕獲、駆除はその有効な手段と指摘されてきましたが、メスを選択的に捕獲することはこれまであまりうまくいっていませんでした。本研究の結果は、生息密度が高い地域において捕獲圧を高めることによってメス捕獲を促進できる可能性を示すものであり、個体群管理手法の進展に役立つと考えられます。
本研究成果は、2021年10月13日にJournal of Forestry Research誌でオンライン公開されました。

背景

シカによる農林業被害は深刻で全国の被害総額は年間100億円以上と見積もられており、生息数増加と分布拡大阻止への対策は喫緊の課題となっています。特にメスの駆除は個体群の縮小に効果的と言われており、個体群管理では効率的にメスジカを駆除していくことが重要です。では、メスジカは一体どこに多く生息しているのでしょうか?
シカでは、まず一部の若いオスが分布の最前線に定着し、その後にメスがやってくると言われています。それが正しいとすれば、分布域となっているエリアの外周部は生息密度が低くてオスが多く、分布域の中心部では生息密度が高くメスが多くなるはずです。そこで、熊本県が収集した捕獲個体の情報と定期的な生息密度調査結果を用いて、地域ごとの捕獲個体の性比(メスとオスの比)と生息密度指標を比較しました。

内容

熊本県では捕獲にくくりわなが広く用いられており、この方法では雌雄を選択して捕獲することはできません。捕獲個体の情報としては、角の有無を基準にして雌雄が記されていますが、メスと記載されているものの中にオスの子が含まれている可能性があったため、角なし(成獣メスと子)と角あり(成獣オス)として取り扱いました。捕獲された個体の情報を角あり、角なしに着目して地域ごとにみると、県の北部よりも中央部から南東部で角なしシカの割合が高い傾向がありました(図1左)。一方、生息密度指標も同様に、県北部よりも中央部から南東部で高い傾向にありました(図1右)。
両者の関係を見ると、生息密度指標が3程度に達するまでは生息密度指標が増加するにつれて、角なしシカの割合が増加することがわかりました(図2)。このことは、分布域の中心部となる生息密度が高い地域にはメスが多く生息し、その外側にはオスが多く生息していることと考えられます(図3)。

図1.熊本県内における角なしシカの割合と生息密度を示すグラフ
図1. 左の図は熊本県で捕獲されたシカの角なし割合が5割以上の地域(緑)と5割未満の地域(青)。右の図はシカの生息密度指標が1以上の地域(緑)と1未満の地域(青)。各メッシュは約5km四方です。

図2.シカの生息密度指標と角なしシカの割合の関係を示すグラフ

図2. シカ生息密度指標と角なしシカ(メスと1歳未満のオス)の割合の関係(実線は回帰線、破線はその95%信頼区間)。密度の増加に伴って、角なしシカの割合は増加しました。

図3.性別毎に分布している生息密度を端と中心で示したグラフ
図3. シカの分布と性別ごとの個体数の模式図。分布の中心に近いほどオスよりもメスが多く、分布の端ではその逆になることが推察されます。

今後の展開

分布域の中で生息密度が高い地域ではメスとの遭遇率が高くなることが予測されます。本研究の結果は、分布域の端ではなく中心部で捕獲を行うことで、メスを効率的に捕獲できる可能性を示すものであり、個体群管理の効率を高めることに役立つと考えられます。各都道府県が管理計画の中に示している分布状況や生息密度情報をもとにその中心部を特定して捕獲を実施し、雌雄別に集計、比較し、その有効性を確認する必要があるでしょう。

論文

タイトル:Spatiotemporal changes in antlerless proportion of culled Sika deer in relation to deer density

著者:Kei K. Suzuki, Teruki Oka, Masatoshi Yasuda

掲載誌:Journal of Forestry Research(2021年10月13日オンライン公開)

DOI:https://doi.org/10.1007/s11676-021-01405-w

用語解説

*1 生息密度指標
生息密度を相対的に表す指標値です。生息密度指標が1の時、九州のシカの平均生息密度と一致するように調整されています。(元に戻る

 

 

お問い合わせ

研究担当者:
森林総合研究所 九州支所森林動物研究グループ 研究員 鈴木 圭

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

 

 

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所属課室:企画部広報普及科

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