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プレスリリース

2023年3月30日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
九州大学

漆生産量は樹と葉の大きさがポイント
漆生産量の多い個体を選抜し、国産漆増産に貢献

ポイント

  • 国宝・重要文化財の修理には国産漆の使用が求められています。
  • 漆生産量の多いウルシは樹が太く、葉が大きいことを明らかにしました。
  • 本成果は、今後の国産漆の増産や安定供給に役立ちます。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と九州大学の研究グループは、漆生産量の多い個体は樹が太く、葉が大きいことを明らかにしました。
国宝・重要文化財の修理に欠かせない国産漆の増産は、我が国の伝統文化の継承に不可欠です。漆増産に向けて漆生産量の多い個体を選抜することは重要ですが、どのような個体において漆生産量が多くなるのかよく分かっていませんでした。そこで本研究では、DNA情報からウルシ林の構成を調査するとともに、各個体の胸高直径、樹高、葉のサイズを調査し、漆生産量の指標となる漆滲出長(ウルシの幹に付けた傷から下方向に滲出した漆液の最大の垂下長)との相関を評価しました。DNA分析の結果、7林分で10種類のクローンが見つかりました。これらのクローン間で胸高直径や葉が大きいクローンは漆滲出長が最も短いものに比べて約2~9倍長いことが分かりました。また、葉のサイズは胸高直径よりも漆滲出長と高い相関を示し、胸高直径に比べ漆生産量の早期判定指標になる可能性が高いことも分かりました。
現在、本研究で明らかになった漆生産量の多いウルシ苗の生産に取り組んでおり、今後の国産漆の増産や安定供給に役立つと考えられます。
本研究成果は、2023年3月29日に日本森林学会誌でオンライン掲載されました。

背景

ウルシの幹に傷を付けて採取する漆(写真a)は、縄文時代から塗料や接着剤等として用いられてきました。漆は内樹皮で生産される樹脂と木部樹液の混合物であり、漆器の製作や国宝・重要文化財の修理等に現在も用いられ、日本の伝統文化の継承に貢献しています。しかし、近年、伝統文化を支える国産漆の供給が危機的状況にあります。現在、日本で使用される漆のおよそ9割が中国産で占められ、国産漆はわずか1割程度しか生産されていません。
国宝や重要文化財は、本来の資材、手法で修理することが文化の継承につながります。漆は日本の伝統文化の象徴的な資材であることから、文化庁は2015年に国宝・重要文化財
(建造物)の保存修理事業で使用する漆は原則として下地も含め、国産漆を使用する旨を通知しました。その後、長期需要予測調査によって国宝・重要文化財の修理に年間約2.2トンの国産漆の生産が必要であることを報告しています。通知発出以降、国産漆の生産量は年々増加していますが、2021年の生産量は約2トンであり、国宝・重要文化財以外の修理や漆器の製作等にも漆が使用されることを考慮すると今後も国産漆の供給不足が懸念されるため、国産漆を増産する必要があります。
日本のウルシ林は、主に種子に由来する実生苗と根に由来する分根苗の植栽によって造成されています。日本の漆生産量の約8割を占める岩手県では実生苗が使われています。一方、国内の漆生産第二位で約1割を生産する茨城県では主に分根苗が使用されており、分根苗由来のクローン林が造成されています。今まではウルシクローン林でどのようなクローンにおいて漆生産量が多くなるのかよく分かっていませんでした。

内容

本研究では、茨城県の同一林齢ウルシ林で遺伝的組成や漆生産量の指標となる因子を解明するため、7林分におけるウルシ546個体のDNA調査を行い、胸高直径、樹高、葉(頂小葉、写真b)のサイズ及び漆生産量の指標とした漆滲出長(ウルシの幹に付けた傷から下方向に滲出した漆液の最大の垂下長)を調査し、それらの相関を解析しました。
その結果、7林分で10種類のクローンが見つかりました。これらクローン間で漆滲出長が異なり、胸高直径が大きいクローンの漆滲出長は、最も短いものに比べて約2~9倍長いことが分かりました(写真c)。また、葉のサイズと漆滲出長の間には高い相関が認められました(図)。それらのうち、葉のサイズの方が胸高直径より漆滲出長と高い相関を示していました。ウルシは当年生から着葉するため、葉のサイズは胸高直径に比べ漆生産量の早期判定指標になる可能性が高いことも分かりました。

写真a:採取された漆の写真、写真b:ウルシの葉の写真、写真c:漆が滲みだしている様子の写真
写真a: ウルシの幹に傷を付けて採取された漆
b: 頂小葉(矢印)、ウルシの葉は奇数羽状複葉で頂端の小葉は頂小葉です。
c: 漆生産量が多いウルシ、漆が滲出し、長く垂れています。

葉のサイズと漆滲出長の間に高い創刊が認められたことを示す図
図. 調査地における胸高直径、樹高、葉のサイズ及び漆滲出長の関係。
葉のサイズ(長さと幅)と漆滲出長は高い相関を示しています。
DBH:胸高直径、TH:樹高、LL:葉長、LW:葉幅、REL1, 2:漆滲出長、図の数値:相関係数

波及効果、今後の展開

茨城県では本研究で明らかになった漆生産量の多いウルシ苗の造成に取り組んでおり、今後の国産漆の増産や安定供給につながるものと期待されています。一方、茨城県で作られたウルシ苗が茨城県以外でも植栽されており、今後、造成されたウルシ林での個体調査を行い、個体の成長や漆生産量等の評価が必要です。その他に、全国漆生産量が第一位の岩手県において漆生産量が多いウルシ個体の選抜やその苗の育成等技術開発も重要です。

研究プロジェクトについて

本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(現イノベーション創出強化研究推進事業、課題番号:28027C「課題名:日本の漆文化を継承する国産漆の増産 改質・利用技術の開発」)及び日本学術振興会(JSPS)科学研究費(課題番号:19H00551、課題名:「シグナル物質の作用機序とラッカーゼの構造解析による高品質漆生成技術の開発」)の助成を受けて実施されました。

論文

論文名:漆滲出長と成長・葉特性を用いた漆滲出量の多いクローンの簡易判別

著者名:田端雅進、井城泰一、田村美帆、渡辺敦史

掲載誌:日本森林学会誌

DOI:https://doi.org/10.4005/jjfs.105.87

用語解説

クローン
無性繁殖によって育成された個体で同じ遺伝子を持ちます。茨城県や京都府などでは、親木から採取した根を切り分けて育てる分根苗を利用しています。分根によって作られた苗は同じ遺伝子を持つクローンであるため、分根苗で造成した林をウルシクローン林と呼んでいます。(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 東北支所生物被害研究グループ 研究専門員 田端雅進

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

 

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