研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2023年 > 地域住民の参加が熱帯林の減少・劣化を抑制する ただし、新設された地域では効果は低い
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2023年10月23日
九州大学
森林総合研究所
ポイント
熱帯林の面積の減少と品質の劣化を抑制する方法として地域住民が積極的に参加する森林管理に注目が集まっています。住民参加型の森林管理が熱帯林の面積の減少を抑制することは知られていましたが、森林の品質劣化を抑制できるかまでは不明のままでした。カンボジア全域を対象とした研究により、住民参加型の森林管理が熱帯林の品質の低下をも抑制することを明らかにしました。
九州大学大学院生物資源環境科学府・大学院生(当時)太田みわ、九州大学農研究院の太田徹志准教授、溝上展也教授、森林総合研究所東北支所の御田成顕主任研究員、四国支所の志水克人研究員、およびカンボジア森林局らの研究グループは、カンボジア全域を対象とする分析により住民参加型森林管理実施地域の内外で森林面積や森林の質の変化量に差があるか検証しました。その結果、住民参加型森林管理を行う地域内では地域外と比べて森林面積の減少および森林の質の劣化を抑制することがわかりました。ただし、これらの効果は住民参加型森林管理を始めた年よって異なり、新しくできた住民参加型森林管理実施地域ほど森林の減少や劣化の抑制効果が低いこともわかりました。今回の発見は熱帯林を保全するための適切な森林管理の提言に役立つことが期待されます。
本研究成果は米国のオンライン科学誌「PNAS Nexus」に2023年9月28日(木曜日)に速報版が掲載されました。
(参考図)住民参加型森林管理の地域内外での森林の質の推移
研究者からひとこと.:参考図上部は住民参加型森林管理地域内外の森林の質の推移です。縦軸の値が高いほど質が高いことを意味します。両者の差分を取ると(参考図の下部)、設立後は地域内の値が上回ることがわかります。
熱帯林は地球温暖化の抑制や生物多様性保全の観点で重要な役割を果たす一方で、その面積は年々減少しています。また、残された熱帯林もその品質劣化(森林劣化※1)が進行しています。特に近年では、森林劣化により排出される二酸化炭素量がとても多い可能性が指摘されています。それゆえ森林の面積の減少だけでなく、森林劣化も抑制する森林管理が求められています。
住民参加型森林管理は、地域住民が積極的に携わる森林管理の形態です。森林保全と地域住民の生計向上を両立する手段と期待され、その実施面積は世界的にも増加傾向にあり、2016年時点で、ASEAN地域における住民参加型森林管理の実施面積は1000万 haを超えています。この住民参加型森林管理について、実際に期待される効果を発揮できるのか科学的な評価が世界各国で進んでいます。しかしながら、多くの研究は主に森林面積の減少を抑制できるかに注目しており、住民参加型森林管理が森林劣化を抑制できるのか十分にわかっていませんでした。そこで本研究では、住民参加型森林管理が森林減少および劣化の両方抑制できるのか分析を行いました。
本研究では、カンボジア王国内に2010年までに設立されたおよそ400か所の住民参加型森林管理実施地域を対象としました。カンボジア王国全土の森林面積および森林の質に関する約30年間分のデータセットと住民参加型森林管理の実施地域に関する位置情報などを重ね合わせて、住民参加型森林管理実施地域の内外で森林面積の変化量や森林の質の変化量に差があるか検証しました。実施地域内外での比較をフェアに行うため、傾斜角など森林伐採のしやすさに関わる条件に違いが出ないよう工夫をしました。その結果、住民参加型森林管理の実施地域内では実施地域外と比べて、毎年当たりの森林面積の減少量と森林の質の劣化量が少ないことがわかりました。つまり、住民参加型森林管理の実施により、森林の面積の減少だけでなく、森林劣化を抑制できると言えます。
住民参加型森林管理の有効性を示すことができた一方で、住民参加型森林管理の抱える課題も見えてきました。まず、住民参加型森林管理を実施している地域でも森林の面積と質いずれも低下していました。つまり、住民参加型森林管理は、森林の減少や森林劣化を緩和する一方で完全に防ぐことはできないと言えます。また、次に住民参加型森林管理を開始した年によって効果は異なり、新しくできた住民参加型森林管理実施地域ほど森林の減少や劣化の抑制効果が低いこともわかりました。
今回の研究結果は、住民参加型森林管理に対する希望と懸念を示すものです。住民参加型森林管理はその期待通りに森林面積の減少と森林劣化を抑制することがわかりました。つまり住民参加型森林管理は有効であり、その増加は熱帯林の保全に貢献できると考えられます。しかしながら、近年設立された住民参加型森林管理実施地域では森林保全効果が低い可能性があります。開始した年によって効果が異なる理由は不明です。今後は効果が異なる要因を特定し、よりその効果を高める方策を検討する必要があります。
【参考図】
図1 分析で対象としたカンボジア王国全土における住民参加型森林管理地域
赤いしずくが住民参加型森林管理地域のおおよその位置を示します。背景の緑色は2010年時点で森林だった場所です。
(※1) 森林劣化
森林の品質の低下を意味しています。森林の品質を定義する基準は様々あり、それゆえに森林劣化の定義も多様です。本研究では森林の品質を樹冠(樹木の葉っぱの部分)が地面を覆う面積割合で定義し、この面積割合の変化量で森林劣化を評価しました。
本研究はJSPS科研費(JP19H04339)の助成を受けたものです。
掲載誌:PNAS Nexus
タイトル:Forest conservation effectiveness of community forests may decline in the future: Evidence from Cambodia
著者名:Miwa Ota, Tetsuji Ota, Katsuto Shimizu, Nariaki Onda, Vuthy Ma, Heng Sokh and Nobuya Mizoue
DOI:10.1093/pnasnexus/pgad320
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