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プレスリリース

2025年4月8日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
札幌東徳洲会病院

高致命率のマダニ媒介性感染症SFTSの感染が発生しやすい環境を解明
野生動物と人間の活動域が交わる境界では特に注意が必要

ポイント

  • マダニ媒介性感染症の一種であるSFTSが発生しやすい環境条件は未解明でした
  • SFTSの感染は人間と野生動物の接点である林縁や温暖な地域で発生しやすいことを解明しました
  • SFTSの感染にかかわる環境条件を知ることで、感染リスクを正しく恐れることに貢献します

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、札幌東徳洲会病院の研究グループは、マダニ媒介性感染症の患者の発生が林縁や温暖な場所で多いことを明らかにしました。
近年、SFTSというマダニ媒介性感染症に感染する事例が増加しています。SFTSに限らずマダニ媒介性感染症についてはワクチン等による予防体制が整っていないため、感染を避けることが重要です。感染を避けるためにはSFTSに感染しやすい環境条件を明らかにする必要がありますが、そのような環境条件は未解明でした。本研究では、SFTSの患者の発生地点とその周辺の環境条件を調べ、統計モデルによる解析を行いました。その結果、SFTSの患者は、人間と野生動物の接点となる林縁が多く、気候が温暖な場所で多く発生していたことを明らかにしました。
本研究成果は、どんな環境条件でSFTSの感染が発生しやすいかを示すことで、感染リスクを正しく恐れながら野外活動を行うことを可能にし、地域の感染症リスクを緩和させるための土地利用や生態系管理の検討に役立つ知見を提供するものです。
本研究成果は、2025年1月26日にEcoHealth誌でオンライン公開されました。

背景

近年、マダニに咬まれて病気になったというニュースが増えました。しかしマダニが媒介する病気(マダニ媒介性感染症)のほとんどは、ワクチン等による予防体制が整っていません。そのため、マダニ媒介性感染症については、出来る限り感染しないことが重要です。2013年に国内で初めて発生した新興感染症の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、厚生労働省によれば、致命率は27%とされており(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html)、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスによる感染症の致命率より遥かに高く、危険なマダニ媒介性感染症と言えます。
SFTSについてはこれまで、マダニや動物から病原体であるウイルスが検出されるか、それに加えて動物については感染したことを示す抗体を保有しているかについて調査が行われてきました。しかし、SFTSの感染を避けるためには、どのような場所でSFTSの患者が発生しているのかを特定し、場所ごとのリスクに応じた対策を行う必要がありますが、日本を含めSFTSの感染が生じている東アジア各国においてもSFTSの患者が多くなる環境条件は未解明です。

内容

そこで本研究では、SFTSの患者の推定感染地点が得られている地域で、患者がSFTSに感染したと推定される地点の環境条件を調べました。SFTSの患者発生に影響する環境条件として、1.森林と開けた場所の境界(林縁)の長さ(動物と人間が出合いやすくマダニも多い)、2.気象条件(暖かい場所や湿潤な場所では野生動物やマダニが増えやすい)、3.人間の活動の活発さ(観光地の数、農地の割合、人口)、4.野生動物の多様性(過去の研究で、野生動物種の多様性が高い方が特定の種類のウイルスが増えにくい仮説が提唱されていることから)を調べました。これらの複数の要因とSFTSの患者数との関係を、統計モデルで解析しました。
解析の結果、SFTSの患者は林縁が長く(図)、気候が温暖な場所ほど多いことが明らかになりました。一方、降水量や人間の活動の活発さ、野生動物の多様性は、明確な影響が検出されませんでした。これらの結果から、野生動物やマダニと人間の活動域が重なりやすい林縁は、特にSFTSに感染するリスクが高いことが示されました。

マダニ媒介性感染症に関する危険性が高い場所を示した図
図 本研究で示されたSFTSに感染しやすい環境のイメージ(赤の太い線)

今後の展開

SFTSは注意を要する感染症ですが、感染症対策のためにあらゆる野外活動を行わないことは現実的ではありません。例えば、林業は木材を得るために必要不可欠ですし、登山やハイキングは余暇活動として健康増進や地域の経済振興に欠かせない存在です。本研究の知見によって、野外活動をしようとする方が、活動場所のリスクを判断することが可能になります。事前の判断によってリスクに応じた対策(例えば、高リスクの林縁などで活動する時はマダニに効果がある虫除け剤を使用したり、長袖、長ズボン、長靴を着用したりするなど)を促すことができます。また、感染が生じやすい環境条件を理解することで、感染症リスクを踏まえた土地利用や野生動物対策の方針の検討も可能になります。例えば、林縁を増やさない森林管理(森林を分断化させるのではなく、まとまった森林が残るような管理)や、頻繁な草刈りによってマダニに好適な環境を増やさないといった取り組みによって、地域の感染リスクを下げられる可能性があります。
近年、人と動物と生態系の健康が互いに関係しあっているというワンヘルスの考え方が世界的に注目されていますが、生態系における感染リスクが十分には解明されていない現状もあり、ワンヘルスに基づいた対策の実践には課題がありました。このような中、本研究の成果は、私たちが野外の人獣共通感染症リスクを下げるために重要なヒントを提供するものです。これにより、ワンヘルスに基づく対策の計画策定も可能とし、今後の実践の推進に貢献します。

論文

論文名:Forest fragmentation and warmer climate increase tick-borne disease infection

著者名:IIJIMA Hayato, WATARI Yuya, DOI Kandai, YASUO Kazuhiro, OKABE Kimiko

掲載誌:EcoHealth

DOI:10.1007/s10393-025-01702-4

研究費:文部科学省科学研究費補助金(20H0065、24K22372)、環境研究総合推進費(JPMEERF20204005)、総合地球環境学研究所実践プロジェクトFS(14200158)

共同研究機関

札幌東徳洲会病院

 

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 主任研究員 飯島勇人

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

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