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更新日:2012年8月24日

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樹木ファイトプラズマ病の遺伝子診断法

研究問題名: III.森林生物の生態系における特性及び機能の解明と生物管理技術の高度化

森林生物部 樹病研究室 河辺 祐嗣・楠木 学(現九州支所)
宮下 俊一郎(現関西支所)・菊地 泰生

背景と目的

樹木ファイトプラズマ病には,キリてんぐ巣病をはじめとする萎黄症状や萎凋枯死を引き起こす病害が多数ある。しかし,病原体のファイトプラズマ(以前はマイコプラズマ様微生物)は,細菌の分類群に属すものの細胞壁を欠いて多形性を示すため形態的特徴が乏しく,また人工培養が出来ないため一般細菌で行われる形態分類や生理学的性質による分類手法が適用できない。そこで遺伝子技術を応用し,ファイトプラズマの検出と識別による遺伝子診断法を開発した。また,その方法で新樹木ファイトプラズマ病の探索およびファイトプラズマの媒介昆虫の検討を行った。

成果

ファイトプラズマに特異的な16SrDNA部位をPCR増幅し,増幅されたDNAを電気泳動像で確認する方法で,ファイトプラズマが検出された。罹病組織からの核酸抽出法はCTAB法,PCRは2組のプライマーセットで2回増幅する方法で安定した結果が得られた。次に,検出されたファイトプラズマの16SrDNA部位を制限酵素で処理し,得られた電気泳動像を解析するRFLP法で,ファイトプラズマの種類が識別された。これらの方法によりファイトプラズマ病の遺伝子診断が可能になった。

ホルトノキの緑化木では10数年前から衰弱枯死被害の発生が知られるが,その原因は不明とされていた。遺伝子診断によりその被害木の葉脈部からファイトプラズマが検出され(図1),また透過型電子顕微鏡観察でも葉脈師管部にファイトプラズマ粒子の存在が確認された。ファイトプラズマによる新病害と診断され,ホルトノキ萎黄病(写真1,2)と命名した。また,検出されたファイトプラズマは2種類に識別され(図2),衰弱枯死被害には2種のファイトプラズマが関連していることが明らかになった。

ナツメてんぐ巣病の罹病木からファイトプラズマを獲得吸汁させたヒシモンヨコバイをニチニチソウ健全苗へ接種すると,ファイトプラズマ病の病徴である葉脈透明症状が再現された。また,その感染ニチニチソウから獲得吸汁させたヒシモンヨコバイをケケンポナシ健全苗へ接種すると,ケケンポナシてんぐ巣病の症状が再現された。ナツメてんぐ巣病の罹病木,症状が再現されたニチニチソウとケケンポナシから検出されたファイトプラズマは同種であった。ナツメてんぐ巣病とケケンポナシてんぐ巣病のファイトプラズマはヒシモンヨコバイによりお互いに媒介されることが明らかになった。

なお,本研究は農林水産技術会議先端技術開発研究「病原微生物の遺伝子解析と利用技術の開発」による。

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写真1 ホルトノキ萎黄病による約200年生天然木の衰弱被害

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写真2 ホルトノキ萎黄病により衰弱し異常落葉や枝枯れした緑化木の樹冠部

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図1 ホルトノキ衰弱被害木からのファイトプラズマの検出

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図2 ホルトノキから検出されたファイトプラズマを2種に識別(赤と青数字)

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