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更新日:2012年8月24日
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研究問題名: XII.先進開発地域の森林機能特性の解明とその総合的利用手法の確立
関西支所 | 鳥獣研究室 | 日野 輝明 |
春に樹木の新葉が展開し始めると,食葉性のかやハバチの幼虫(いわゆるイモムシ)が現れ,昆虫食の鳥たちにとっては春から夏にかけての最も重要な餌資源となる。それでは,鳥は虫を食べることで樹木の成長にどのような影響をもたらしているであろうか。これは森林生態系の中で鳥が果たす役割を知る上で欠かすことのできない情報である。本研究の目的は,森林内の樹木に網掛けによる鳥除去区と対照区を設けて,イモムシの数,葉の被食量,葉とシュート(当年生枝)の成長量を比較することで,鳥による虫の捕食が樹木にもたらす間接的な影響を明らかにすることである(図1)。
奈良県大台ヶ原の森林の優占樹種であるブナとオオイタヤメイゲツの低木に対して,鳥除去区と対照区を5本ずつ設置した。調査を行った5年間のうち1997年と1998年にブナでハバチの幼虫が大発生したが(図2),樹冠で昆虫をとる鳥(おもにシジュウカラ科)の密度は,餌量の変化にかかわらずほぼ一定であった。この原因として,巣場所となる樹洞による制限が考えられた。
鳥による捕食の効果の有無は,ハバチが大発生したかどうかで異なる結果が得られた(表1)。通常の年には,対照区よりも鳥除去区で,イモムシ密度が高い,葉の被食量が大きい,翌年度の新生シュートと葉の長さが短いという関係が,両樹種で得られた(図1,表1)。一方,大発生のあった年にはそのような効果はなかった。これは鳥の個体数が餌条件にかかわらず一定で,鳥による捕食量のイモムシ全体の量に占める割合が,大発生時には小さくなったためである。また,ブナでのハバチの大発生にともなう捕食効果の消失は,オオイタヤメイゲツでも同じように生じた。つまり,ブナのハバチは,その個体数の変動によって他の樹種につく虫の密度や枝葉の成長にも影響をおよぼしていた。しかしながら,ブナでのハバチの大発生頻度は10年に1回程度であるため,通常時の鳥による食葉性昆虫の捕食が樹木の枝葉の成長を促進する効果は十分に大きいと考えられる。
さらに,鳥による捕食の効果はブナよりもオオイタヤメイゲツで大きかった。これは鳥がブナよりもオオイタヤメイゲツを好んで利用していたためである(図2)。葉が水平方向に出て葉柄の短いブナよりも葉が垂直方向に出て葉柄の長いオオイタヤメイゲツのほうが,鳥にとって虫を探したり採ったりしゃすいのだと考えられる。つまり,樹種間の枝葉の形状の違いが,鳥による選好性と,それにともなう捕食効果の違いをもたらしていた。
図1 鳥除去区と対照区におけるイモムシ個体数,葉の被食量,枝葉の成長の違い
図2 ブナとオオイタヤメイゲツにおけるイモムシ乾重とシジュウカラ科3種による樹種選好性の年変化
1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 | |||||
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ブナ | |||||||||
イモムシ | *** | ns | ns | ns | * | ||||
葉の被食 | *** | ns | ns | ns | ** | ||||
葉の成長 | – | ns | ns | ns | ? | ||||
シュートの成長 | – | ns | ns | *** | ? | ||||
オオイタヤメイゲツ | |||||||||
イモムシ | *** | ns | ns | * | ** | ||||
葉の被食 | *** | ** | ns | ** | ** | ||||
葉の成長 | – | ns | ns | *** | ? | ||||
シュートの成長 | – | ns | ns | ** | ? | ||||
*** p<0.001, ** p<0.05, * p<0.1, ns p>0.1, – 未調査,? 2001年に調査予定 |
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