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更新日:2012年8月24日

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菌根性食用きのこショウロの共生栽培に向けた感染苗作成技術の開発

研究問題名: XIV.暖温帯・亜熱帯地域の森林管理技術の高度化

九州支所 特用林産研究室 明間 民央・根田 仁・宮崎 和弘

背景と目的

海岸マツ林に発生する菌根性きのこの一種ショウロ(写真1)は,かつて地域の食材として利用されていたが,近年は森林の利用形態の変化と共にその発生林分が著しく減少している。しかし一部では根強い人気と希少価値から高値で取り引きされ,また採集者による発生地の環境整備が行われ海岸林がアグロフォレストリー的に利用されている例もある。それを発展させ共生栽培へ至る最初の段階として,ショウロをクロマツ苗に感染させる簡便で低コストな手法の開発を行った。

成果

純粋培養した菌糸体とクロマツ無菌実生を用いた二者培養によるショウロの接種は,播種後1ヶ月のクロマツ実生に旺盛に生長しているショウロ菌糸体を直接接触させる方法で可能であった(写真2)。しかしこの手法は無菌操作を要し簡便さに欠けるため,子実体を同量の水と摩砕して得た胞子懸濁液による開放系での接種を行ったところ,新鮮子実体摩砕液をそのまま施用すると各種害菌が発生して宿主実生が悪影響を受け,菌根は形成されなかった。10倍希釈胞子液を用いて低濃度寒天とティッシュペーパーによって胞子の保持を試みると菌根が形成された。

野外ではショウロは成熟した後に腐敗液化する。そこで人為的に子実体を腐敗させてから胞子懸濁液(77万個/mm3)を作成し,その10倍希釈液をアルギン酸ナトリウムで粘度を高め胞子ゾルとして施用したところ,害菌は発生せず,高率で菌根が形成された。さらに,実生の根を胞子ゾルに浸した直後に0.INの希塩酸に浸すことでゾルを固化させて胞子を保持する方法で取扱いを容易にしても,充分に良好な菌根形成が見られた(表1)。また,接種実生の保育培土について二者培養系で検討したところ,菌根菌を接種したマツ属実生の保育によく用いられる5%(v/v)ピートモスを添加したバーミキュライトでは菌根化が抑制され,25%籾殻燻炭を添加すると最も菌根化が促進された(表2)。2年生裸苗の根を胞子ゾルに浸してからゲル化させる方法で接種すると,供試10個体中半数に菌根形成が見られた(写真3)。

今後この手法をコンテナ苗に応用し,実用技術へと発展させたい。

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写真1 ショウロ子実体

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写真2 二者培養系での接種苗

表1 接種法の違いによる実生の生長と菌根形成の差(重量はmg)
接種法 ゲル ゾル
実生平均重量 183±9 218±19
総供試個体数 24 21
菌根形成
0 0
± 0 0
+ 15 13
++ 7 8
+++ 2 0

–: まったく菌根が見られない
±: 菌根かどうか判断しにくい短根がある
+: 明らかに菌根とわかる根が少数ある
++: 根系の半分以下が菌根化している
+++: 根系の半分以上が菌根化している

表2 接種法の違いによる実生の生長と菌根形成の差(重量はmg)
添加物 なし ピートモス5% 籾殻燻炭5% 同25% 同50%
供試個体数 24 21 24 25 10
生長量 44.1±1.8 43.7±3.1 35.7±3.2 44.2±2.1 63.1±4.8
地上/地下比 1.65±0.07 2.03±0.31 1.74±0.09 1.62±0.11 1.49±0.10
菌根形成個体数 4 2 7 6 3
菌根化個体率 16.7% 9.5% 29.2% 24.0% 30.0%
総菌根数 26 3 36 75 23
定着個体平均菌根数 6.5 1.5 5.1 12.5 7.7
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写真3 2年生苗の根に形成された菌根

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