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更新日:2012年7月18日

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育林活動の衰退要因をさぐる

九州支所 森林資源管理研究グループ 林 雅秀、野田 巌

背景と目的

間伐の遅れや皆伐後の再造林の放棄が目立つなど、育林活動が低下してきている。人々が森林の手入れのために費やす時間が少なくなってきているのである。育林活動が低下している理由について、従来は主にケーススタディを通じて地域の活性度や地域社会における林業への経済的な依存度などの要因が指摘されるに留まっていて、それぞれの要因がどの程度影響しているかに関しては論じられていなかった。

しかし、育林活動の活発さに関連する要因構造を数理モデル等で計量的に明らかにすることができれば、政策評価のためのシミュレーションモデルの構築を可能にし、事前の政策効果の評価に貢献することから、森林・林業政策の効果的かつ適切な実施に役立てることができる。そこで筆者らは、これまで指摘されていた要因と育林活動との関係を、新たなアプローチによって計量化することができないかと考えた。

成果

育林活動とそれに関連しそうな要因を数値化、すなわち観測可能な量的データに置き換える必要がある。このようなデータとして本研究では、既存の市町村別統計を用いることにした。市町村別データの入手可能性などから、今回は育林活動に関連する要因として、地域の林業への依存度、地域の活性度(過疎度)、森林資源の成熟度および不在村者保有面積割合の4つを扱うことにし、育林活動を合わせた5つを数値化するためにそれぞれに相応しい複数の観測データを抽出した(表1)。育林活動と要因間の分析は表1の要因別モデルごとに共分散構造分析*という方法で行った。分析の対象エリアは、地域によって育林活動が低下しているといわれている熊本県内の中山間地域(58市町村)である。

図1〜4が分析結果で、パス図と呼ばれる因果関係のモデルを視覚的に表現した図式によって示されている。なお、各モデルで要因から育林活動に向かうパス係数とその統計的な有意性を検討した結果、今回取り上げた各要因と育林活動との間に因果関係が認められた。つまり依存度モデルの結果からは林業生産や林業就業者の割合、林野率で示される林業への林業依存度が高い地域ほど、森林の施業実施水準が高い傾向がある (図1)。同様に、地域における過疎度が低いほど、あるいは森林資源の成熟度が高いほど、森林の施業実施水準が高いといえる(図2、3)。不在村者保有面積割合については、先行研究で、その割合が高いほど施業実施水準は低いと考えられていた、すなわち係数は負になると予想されたにもかかわらず、今回の結果では絶対値は小さいものの係数は正の値となった(図4)。これについて、不在村者の割合が高い地域では林業への依存度も高い傾向があることなどがその理由と考えられる。

このように、共分散構造分析を採用することにより複数の観測データから、育林活動とその要因という2つの概念間の単純な関係を量的に把握することができた。このアプローチは緒についた段階で、今後は今回の分析結果の現実的妥当性を検証するとともに、3つ以上の概念間の量的な関係を表すような、より総合的なモデルに発展させることが課題といえる。

*社会・自然現象の性質や因果関係を明らかにするための統計的手法で、潜在変数と呼ばれる複数の観測データに共通した要因を仮定することによって要因間の因果関係を定量的に分析できる特徴を持つ。行動計量学の分野等で活用されている。

表1 要因とそれを示す観測データ
要因 要因の区分 モデル名称 要因を示す観測データ データの算出式
育林活動 被説明変数 間伐実施水準 民有林間伐面積÷民有林人工林要間伐面積(4〜8齢級)
下刈りなど実施林家率 下刈り等を実施した林家数÷林家数
間伐実施林家率 間伐を実施した林家数÷林家数
林業への依存度 説明変数 依存度モデル 林業生産割合 林業生産額÷総生産額
林業就業者割合 林業就業者数÷就業者数
林野率 林野面積÷土地総面積
地域の過疎度(活性度) 説明変数 過疎度モデル 生産年齢人口割合 生産年齢人口÷総人口
高齢単身世帯割合 高齢単身世帯数÷一般世帯総数
財政力指数 財政力指数
森林資源の成熟度 説明変数 資源成熟度モデル 1ha当たり森林蓄積 民有人工林蓄積÷民有人工林面積
9齢級以上森林面積割合 民有人工林9齢級以上面積÷民有人工林面積
民有人工林率 民有人工林面積÷民有林面積
不在村者保有面積割合 説明変数 不在村モデル 不在村者保有面積割合 不在村者保有面積÷民有林面積
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図1 依存度モデルのパス図

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図2 過疎度モデルのパス図

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図3 資源成熟度モデルのパス図

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図4 不在村モデルのパス図

凡例

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パス図の見方

パス図では潜在変数(要因)が楕円で,観測されたデータが長方形で示されている。因果関係を示すのが単方向の矢印とその係数でそれぞれパス,パス係数と呼ばれる。ここでは標準化されたパス係数を示しており,関係の強さを読み取ることができる。

注)実際の推計モデルには誤差変数を含んでいるが、読み易さを重視してパス図中で省略した。

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