研究紹介 > 刊行物 > 研究成果選集 > 平成14年度 研究成果選集 2002 > 里山ブナ林の景観にみる地域住民と都市住民の意識の違い
更新日:2012年7月18日
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関西支所 | 森林資源管理研究グループ | 深町加津枝、奥 敬一 |
ランドスケープ保全チーム長 | 大住 克博 |
原生林としてとらえられることの多いブナ林だが、日本海側を中心に村人たちによって長く利用され続けてきた「里山ブナ林」も広汎に存在する。そうした里山ブナ林は、1960年代頃まで薪炭原木林や家屋の構造材を供給する用材林などとして管理、利用されてきた。しかし今日では、大部分が利用されずに放棄され、生物多様性や地域文化の保全の上での問題をかかえている。このようなブナ林を保全していくためには、地域住民が生活を通して培ってきたブナ林に対する意識を基礎に、将来の利用者である都市住民などの意識も考慮した、長期的な計画が必要である。そこで、本研究では、京都府北部丹後半島の里山ブナ林を対象として、景観写真による評価やブナ林を将来にわたって残したいという気持ち(以下、継承意識とする)を地域の住民と京都市に住む都市住民との間で聞き取り等によって比較した。
調査では、地域住民と都市住民に対し、林齢や利用、管理の仕方の違いなどを考慮した12ヶ所の里山ブナ林の景観写真を提示し、8つの評価項目について7段階評価を行った。伐採跡地を含んだり、山頂付近の屈曲した樹木の景観は全体的に評価が低くなった(図1)。特に低いのは、地域住民では「生活資源」や「身近さ」といった評価項目、都市住民では「生活資源」「美しさ」などであった。
地域住民による評価では、薪炭材収穫後に一斉に更新した比較的高齢の林分(写真6、7)や、用材林として管理されてきた林分(写真10)、繰り返し採取され幹の途中から萌芽した「あがりこ状」の林分(写真11)の景観に対して、「生活資源」「美しさ」「身近さ」などの評価が高かった。一方、どの里山ブナ林に対しても「生物多様性」の評価は低かった。
都市住民では、地域住民と同様に高齢の里山ブナ林を景観的に好ましいと評価した一方、用材林やあがりこ状林分の評価が低かった。また、全体として高い評価の里山ブナ林であっても、「生活資源」や「身近さ」の評価は低い傾向がみられた。
次に、里山ブナ林の継承意識を「愛惜(ブナ林がなくなることが寂しいという気持ち)」と、「大切さ(ブナ林を今後も大切に残したいとする気持ち)」の2つの評価項目の合計と定義し、それら以外の6つの評価項目との関係について重回帰分析した。
地域住民の場合、里山ブナ林に対する継承意識に強く関わっていたのは、「水土保全」「好ましさ」「身近さ」「美しさ」であった(表1)。男性では、「身近さ」と「水土保全」との関連が強かったが、女性では「水土保全」「好ましさ」「美しさ」の順に関連が強かった。
都市住民全体でみると、継承意識に強く関連していた評価項目は、「好ましさ」「美しさ」「生物多様性」であった。男性の継承意識は「好ましさ」が特に強く、女性では「好ましさ」とともに、「美しさ」「生物多様性」も関連していた。
このように、継承意識の向上にとっては、地域住民、都市住民双方にとって、「景観としての好ましさ」が共通して重要であった。そして、地域住民にとっては水土保全など生活環境の維持・向上のために里山ブナ林が発揮する機能や、身近に感じられるかどうかが重要であった。生物多様性は、都市住民の場合には継承意識につながる重要な尺度であったが、地域住民にとっての重要性は低かった。
里山林の保全計画策定では地域住民の経験と認識を取り入れ、かつ外部からの利用者にとっての価値も満たすことが求められるようになってきた。本研究で明らかにしたような関係者間の意識の違いを調整し、共通の認識として計画に反映させる仕組みを取り入れることが必要である。
図1 里山ブナ林の景観に対する地域住民と都市住民の評価(一部)
(それぞれの評価項目に対する評価段階の平均値を示す)
1 | 2 | 3 | ||
---|---|---|---|---|
地域住民 | 全体 | 水土保全 | 好ましさ | 身近さ |
女性 | 水土保全 | 好ましさ | 美しさ | |
男性 | 身近さ | 水土保全 | 生活資源 | |
都市住民 | 全体 | 好ましさ | 美しさ | 水土保全 |
女性 | 好ましさ | 美しさ | 生物多様性 | |
男性 | 好ましさ | 美しさ | 生物多様性 |
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