研究紹介 > 刊行物 > 研究成果選集 > 平成14年度 研究成果選集 2002 > 木質系廃棄物を徹底的に分解して有用化学原料を調製する
更新日:2012年7月18日
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成分利用研究領域 | 木材化学研究室 | 山田 竜彦 |
東京大学 | 小野 拡邦 | |
秋田県立大学 | 栗本 康司 |
現在発生している木質系の廃棄物には様々な種類が存在する。そのうち、木質としての性質が比較的保たれているもの、例えば材中の繊維がしっかり残っている廃棄物は、再生ボードや再生紙としてリサイクルすることができる。しかしながら再資源化の難しい廃棄物も多々あり、これらは焼却もしくは投棄されることも多い。我々は、これら未利用な廃棄物を含む、すべての木質系廃棄物に応用できる化学変換技術として「加溶媒分解システム」を開発した。当システムでは、木質系物質を「徹底的に」分解することを特徴としているので、廃棄物に木質としての質の高さは要求されない。加溶媒分解システムは、木質系廃棄物中のセルロース成分を徹底的に分解し、有用化合物・レブリン酸に変換する点を特徴としている。レブリン酸は、燃料添加剤、除草剤、ポリマー等の原料として供給可能であり、将来的に多量の需要が予想される有用化合物である(図1)。当システムではこの有用化合物・レブリン酸を廃棄物から製造することにより、バイオマスの有効利用に寄与することができる。
図2に本年度開発した当システムの工程図を示す。既存の加溶媒分解法がセルロースの取得(パルプ化)を主目的としているのに対し、当システムではセルロースに至るまで徹底的に加溶媒分解し、有用化合物を得ることを目的としている。この加溶媒分解システムはExhaustive(完全な、徹底的な)Solvolysis(加溶媒分解)という意味で、完全加溶媒分解ESシステムと呼んでいる。セルロースまで加溶媒分解するので、パルプ化の困難な廃棄物にも応用可能であり、廃棄物の有効利用法として期待される。
当システムにおける主目的化合物はレブリン酸である。図3に加溶媒分解システムにおけるセルロースからのレブリン酸の生成機構を示す。通常、レブリン酸はセルロース系物質の酸加水分解法で製造されている。しかしながら酸加水分解を木質系物質に応用した場合、利用の困難な高度に酸縮合したリグニンが副生される。これらのリグニン由来物は、燃焼して熱源とする以外の利用はなされていない。一方、当システムでは、リグニンフラクションは加溶媒分解試薬(ES試薬)により変性された制御可能な樹脂原料物質として副生された。ES試薬としてポリオール系物質を用いた場合は多数の活性水酸基が導入され、それを反応基点として利用した樹脂化を行うことができた。このように当システムでは廃棄物全体を総合利用することが可能となった。また、当システムは樹脂原料製造のための加溶媒分解(木材液化)と異なり、試薬の回収工程をもち、回収した試薬を用いても十分な加溶媒分解が可能であることが確認された。
当システムはバイオマス総合利用のため、有用化学原料であるレブリン酸を、酸加水分解反応ではなく加溶媒分解反応で調製することを達成した初めての技術である。
図1 レブリン酸から誘導される代表的有用ケミカルス
図2 加溶媒分解システムの工程図
図3 セルロースからのレブリン酸の生成機構
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