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更新日:2012年7月18日
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構造利用研究領域 | 強度性能評価チーム長 | 長尾 博文 |
材料接合研究室 | 井道 裕史、加藤 英雄 |
木材は生物材料であるため、物理的性質や強度的性質にバラツキをもっている。しかし、建築などで構造材料として利用する場合、強度のバラツキは小さいことが望ましい。そこで、従来から節の位置や大きさなどの欠点や実測したヤング係数に基づいて仕分ける方法(前者を目視等級区分法、後者を機械等級区分法と呼ぶ)がとられている。
しかし、これらは最終製品である製材品の仕分けであり、今後、さらに効率的に木材を利用していくためには、原木丸太の段階で、生産される製材品や集成材ラミナ等の構造材料としての品質をあらかじめ予測することは極めて合理的であると考えられる。本研究では、原木丸太の段階で、丸太から採材されるそれぞれの製材品の強度性能を推定することを目的とした。
一般に、スギ等の丸太内部において、ヤング係数は髄から樹皮側に向かってある一定の年輪あるいは距離まで増加し、その後ほぼ安定した値を示すことが知られている。図1はこの傾向を模式化したものであり、前者を未成熟材部、後者を成熟材部という。まず、実用性を考慮し、髄から一定距離を未成熟材部と成熟材部との境界とし、2つの直線にモデル化した。次に、平均直径が約33cmのスギ供試丸太から採取した無欠点小試験体のヤング係数を測定し、図2に示したように、ヤング係数と髄からの距離との関係を導いた。その結果、未成熟材部の直線の傾きとして0.028が得られ、未成熟材部と成熟材部との境界は髄から80mmの位置であった。一方、丸太のヤング係数については、固有振動数と密度から簡便にヤング係数が測定できる縦振動法(写真1)を適用することが有効であり、この方法で得られる値は横断面内に分布するヤング係数の平均値を表すことが知られている。そこで、これらを基に、丸太内半径方向におけるヤング係数の分布を表す推定式を作成した。すなわち、図3に示したように、丸太の半径(R)およびヤング係数(EfrLog)から髄から任意の距離(r)に位置する製材品のヤング係数 (EfrTimber)を求めることができる。
これらの推定式の精度を検証するため、製材品のヤング係数推定値と実際にスギ丸太から採材した製材品(断面寸法:30mm×110mm)のヤング係数実測値とを比較した(図4)。なお、一般に原木丸太は生材状態であるのに対して、製材品は気乾状態で測定されることになるので、まずスギ製材品のヤング係数に及ぼす含水率の影響を明らかにし、その結果を基に、製材品のヤング係数推定値は上記の式から得られた値を含水率15%に補正している。その結果、図4に示したように、製材品のヤング係数の推定値と実測値とはほぼ一致しており、本式を用いることによって、原木丸太の段階で、丸太内部の各位置から採材される製材品のヤング係数を高精度に推定できることがわかった。
また、これと同様に、原木丸太段階で縦引張り強度を推定することの可能性についても検討した。その際、製材品のヤング係数推定値から縦引張り強度推定値を算出する式として、「製材品の強度性能に関するデータベース」データ集〈5〉(強度性能研究会、2001.5)に収められているヤング係数(Efr)と縦引張り強度(σt)との回帰式(3)を用いた。
式(1)、(2)で算出された製材品のヤング係数推定値を式(3)に代入して得られた縦引張り強度推定値と、実測した製材品の縦引張り強度との関係を図5に示した。図5は図4よりも予測精度が低いが、ここで用いた式(3)の回帰直線の相関係数が0.62程度であることを考慮すれば、製材品のヤング係数によって推定するのとほぼ同等の精度で、原木丸太段階で製材品の縦引張り強度を推定できる可能性が認められた。
なお、本研究は本所交付金プロジェクト「スギ材の革新的高速乾燥システムの開発」で実施した。
図1 丸太横断面におけるヤング係数分布の模式図
図2 丸太横断面内におけるヤング係数の変動
写真1 縦振動法による丸太のヤング係数測定の様子
図3 ヤング係数推定法の概略図
図4 製材品のヤング係数の推定値と実測値との比較
図5 製材品の縦引張り強度の推定値と実測値との比較
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