令和4年版 研究成果選集 2022

森林総合研究所では、森林・林業・林産業という幅広い分野から、毎年数多くの研究成果を挙げています。その中から、今後、利活用が期待されるテーマを選び、このたび「令和4年版 研究成果集 2022」として発行、掲載しています。         令和4年版 研究成果選集 2022を一括ダウンロード（PDF：10,971KB）

 

重点課題1 環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発

ア 気候変動影響の緩和及び適応に向けた研究開発

• 土地利用が変化した場合の土壌炭素蓄積量変化を解明（PDF：795KB）
  土地利用が変化した時の土壌炭素蓄積量の変化を調べ、森林から農地への変化時には減少し、農地から森林への変化時には増加することを明らかにしました。
• 衛星画像と機械学習モデルを用いた土地利用変遷の推定手法の開発（PDF：644KB）
  山岳地での土砂災害のリスクを評価するため、ベトナム北部の山岳地を対象に衛星画像と機械学習モデルを用いて、過去30年間の森林撹乱と土地利用の変遷を推定する手法を開発しました。

イ 森林生物の多様性と機能解明に基づく持続可能性に資する研究開発

• 土壌動物の多くは落葉分解者として機能していない？ ―トビムシの餌炭素年齢から従来の常識が覆る―（PDF：670KB）
  放射性炭素同位体分析により微小な土壌動物であるトビムシの餌炭素年齢を測定し、トビムシのほとんどの種とその捕食者の体が枯死有機物よりも新しい炭素からできていることを発見しました。
• 不定胚に由来する無花粉スギ苗の効率的な生産法（PDF：785KB）
  スギのMS1雄性不稔遺伝子を簡易に判定する技術と、組織培養により植物体を効率的に増殖させる手法とを組み合わせることで、無花粉スギ個体を数か月で選び出し、その苗だけを大量生産する技術を確立しました。
• 沖縄島北部「やんばるの森」の生物多様性を保全・回復させる（PDF：1,125KB）
  世界自然遺産に登録された「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」において希少な固有種の分布や外来種の動物による固有種の捕食状況を調査し、遺産登録地の生物多様性保全のための森林管理手法を提案しました。

ウ 森林保全と防災・減災に向けた研究開発

• 樹木の成長と大気CO₂濃度の上昇が過去80年間の蒸散量に及ぼした影響を解明（PDF：942KB）
  スギ年輪の炭素安定同位体比を使って、大気中のCO₂濃度が上昇すると樹木は成長に必要な水をより効率的に使うようになる一方、単木当たりの蒸散量は樹木の成長とともに増えていたことを明らかにしました。

• 無人航空機を用いた高精度な地形測量により山地源流域の土砂量を計測する（PDF：779KB）
  無人航空機を用いた写真測量によって、土石流の規模の推定において重要な山地源流域の土砂量を高精度に計測する手法を開発しました。

重点課題2 森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発

ア 林産物の安定供給と多様な森林空間利用の促進に資する研究開発

• 地がきカンバ林の施業適地を予測しマップ化する（PDF：801KB）
  針葉樹人工林主伐後の再造林の低コスト化を図るため、需要が高まっているカンバ類を天然更新により成林させる、地がきカンバ林施業の可能性を提示しました。
• 森林内での測位精度向上に2周波GNSS受信機とRTK測位手法を活用する技術を開発（PDF：644KB）
  森林内の測量業務や自動走行林業機械の開発を念頭に、2周波GNSS受信機を用いて自前の固定基準局と移動局を特定小電力無線機通信で繋いだRTK測位による、GNSS-RTK測位技術の活用手法を開発しました。
• 測量用無人航空機による森林調査の省力化（PDF：959KB）
  森林調査における無人航空機空撮の活用に向けて、高精度GNSSを搭載した測量用無人航空機を利用することで、従来の標識設置等の追加作業を省略しても、位置精度を確保しながら現場作業を大幅に省力化できることを明らかにしました。
• 地域材の利用促進に向けて−中小木造住宅工務店の利用実態から得たヒント−（PDF：1,307KB）
  中小木造住宅工務店における地域材利用を促進するためには、地域材の安定供給体制を構築するとともに、地域材のイメージの良さ等の感性的な評価を活かしつつ、品質面と価格面での優位性を高めることが重要です。

イ 生物特性を活用した防除技術ときのこ等微生物利用技術の開発

• 待望のクビアカツヤカミキリ防除マニュアルをお届け（PDF：805KB）
  特定外来生物クビアカツヤカミキリはサクラやウメ・モモを加害し、本州と四国の12都府県で深刻な被害を引き起こしています。11団体で協働して対策方針を整え、その成果をとりまとめた防除マニュアルを発行しました。
• スギ花粉飛散防止剤の空中散布技術を開発（PDF：794KB）
  菌類を利用した即効性のあるスギ花粉飛散防止剤をヘリコプターで空中散布する手法を開発しました。空中散布による森林生態系への影響がないことを確認するとともに、大規模散布に向けて大量培養法を確立しました。

ウ 木材利用技術の高度化と需要拡大に向けた研究開発

• コナラ立木におけるミネラルの幹半径方向移動の実態を細胞レベルで解明（PDF：1,141KB）
  木材の材質に影響する木材成分の蓄積機構を解明するために、コナラ幹の半径方向のミネラル移動の実態を、できるだけ立木の状態をそのまま解析する手法で明らかにしました。

• マイクロフィンガージョイントをCLT（直交集成板）用ラミナに適用可能であることを明らかに（PDF：1,168KB）
  長さ15mm程度のフィンガージョイントに比べて歩留まり向上、加工時の消費エネルギー低減が期待できる長さ6mmのマイクロフィンガージョイントがCLT用ラミナの製造に適用可能なことを明らかにしました。

エ 木質新素材と木質バイオマスエネルギーの社会実装拡大に向けた研究開発

• 中山間地域への展開が期待される改質リグニン製造のモデル工場（PDF：928KB）
  森林総合研究所で開発した木材由来の新素材「改質リグニン」の製造を林業・林産業の現場で実証するプラントが竣工しました。改質リグニンの製造を本格化する世界初の試みで、全国の中山間地域への展開が期待されています。
• 木と草を適度に混合したバイオマス燃料はガス化利用における変換効率が向上し、相乗効果が見られる（PDF：813KB）
  木質に草本を混合したバイオマス燃料のガス化特性において混合率がガス化効率に与える影響を調べた結果、30%までの草本混合率ならばガス化効率が低下せず、その原因がカリウム成分の影響であることを解明しました。

重点課題3 多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種

ア 林木育種基盤の充実による多様な優良品種の開発

• 漢方薬原料「カギカズラ」の苗木の増やし方の改善と葉からお茶を作る試み（PDF：1,002KB）
  漢方薬原料である「カギカズラ」の組織培養による増殖効率をこれまでの1.5倍以上に効率化し、また、健全な苗木を作製する技術を開発しました。さらに、葉をお茶に加工し、加工処理方法別に香味を評価しました。
• DNA情報からスギの表現型を予測するモデルの開発と改良（PDF：699KB）
  スギの表現型をDNA情報から予測する技術の開発を進め、対象個体の遺伝的な類似性を考慮することで予測モデルの精度を高められる場合があることを明らかにしました。

イ 林木育種技術の高度化・拡張と特定母樹等の普及強化

• 無人航空機と深層学習モデルを用いたトドマツの着果量評価技術を開発（PDF：930KB）
  無人航空機を用いて撮影したトドマツの画像から、人工知能(AI)の一種である深層学習モデルを用いて球果を検出・定量する技術を開発し、採種園の豊凶調査で実用化しました。

• 特定母樹等の普及のための取組 ―原種苗木の生産配布と技術指導―（PDF：914KB）
  特定母樹（間伐等特措法に基づき農林水産大臣が指定した樹木）の原種苗木の配布や、配布先である都道府県等に対する採種園・採穂園の造成等にかかる技術の指導について紹介します。