森林総研における国際共
同研究と国際協力の歩み
はじめに
1.マレーシア
2.インドネシア
3.タイ
4.中国
5.フィリピン
6.ブラジル
7.韓国
8.ロシア
9.パプアニューギニア
10.ベトナム
11.ブルネイ
12.ペルー
13.ミャンマー
14.ミクロネシア
15.その他の国
はじめに
こ
れまでは、当所職員による海外関連の研究および技術協力は、1970年
設立の熱帯農業研究センター(TARC、現:国際農林水産
業研究センター(JIRCAS))と1974年発足の国際協力事業団(JICA、現:国際協力機構)による派遣により主に行われてきた。近年で
は、国際農業研究協議グループ(CGIAR)の傘下である
国際林業研究センター(CIFOR)に研究員を外務省経由
で派遣していることが特筆される。
一方、1980年
代以降は科学技術庁(現:文部科学省)などによる海外研究課題によっても推進されるようになった。なかでも、森林総合研究所が主査を務めタイで行われた大
型研究プロジェクト「熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究」は1990年
度に開始された。また、ほぼ同じ時期に閣議決定予算で環境庁(現:
環境省)が担当している“地球環境研究総合推進費”によるマレーシアを対象とした研究プロジェクトが加わった。これらの海外
研究プロジェクトによって、その後の当所における海外研究の著しい増加の先鞭がつけられた。

図 森林総合研究所におけ
る海外渡航件数の変遷の概要
各年度の年報の資料から作成。基本的にJICAミッション派遣、海外研究集会参加、および長期留学・派遣などの数
を含むが、年度ごとの年報で統一されていないため、過小値になっている年度もある。なお、1977年
度は年報に資料の記載が無かった。
上図に1970年
度からの海外派遣職員数を示す。当所からの延べ派遣者数は1970年
代は各年度30名程度以下であったが、最近では250名を超えている。一方、JICAに
よる派遣は1995年度をピークに減少傾向にある。1995年度から2000年
度までの科学技術庁予算での派遣数の急増は、二国間型および多国間型の海外共同研究が行われたことも見逃せないが、同庁予算による国際研究集会参加が毎年
度100名程度行われ、海外における研究発表の機会が急増
したためである。2001年度の省庁再編により科学技術庁
予算は文部科学省や科学技術振興事業団へと引継がれた。国際研究集会参加に関しては、当所の独立行政法人化により当所の運営交付金からまかなわれるように
なった。運営費交付金による所内研究プロジェクト(交付金プロ)での海外研究は、2001年
度の渡航者数が数名であったが、現在、増加傾向にある。また、2001年
度以降、科研費申請が独法からも可能になったことで当所の海外研究も増加傾向にある。
このように、当所はJIRCAS、JICA、およびCIFORに
よる研究・技術協力に職員を短期・長期の出張・派遣を続けているが、最近では、当所職員の発案による海外研究も増加傾向にある。ここでは、当所の職員がこ
れまでに関与した、主な海外研究および技術協力に関して国ごとにその概要を紹介する。
1)国際生物学事業計画への参加:
科学研究助成金(文部省)、(以下、科研費)(1966~1974)
マレーシアの森林研究所(FRI、FRIMの前身)の協力を得て、国際生物学事業計画(IBP)に
おけるマレーシアでの研究に当所の2名の研究員が森林班の一員として参加した。マレー半島のパソー保護林で熱帯雨林の一次生産力推定のために伐倒調査を行
い、その研究成果は東南アジア熱帯林の現存量と一次生産力に関する最も基本的な研究成果となっている。なお、パソー保護林は、現在も当所職員を含む日本の
研究者の研究フィールドとして利用されている。
2)マレーシアの森林研究所(FRI、FRIMの
前身)との共同研究:
TARC(1971~1981)
フ
タバガキ科の開花結実を気象要因や海抜高との関係から検討する一方で、種子の貯蔵は困難であるが北方まで分布する樹種では低温耐性が高く数ヶ月間は貯蔵が
可能なこと、マメ科やラタンの種子発芽促進法を見いだした。フタバガキ科、マメ科、およびラタンの苗木の成長特性の解明などにより各種の造林技術を高め
た。また、有用樹種の分布が土壌・地形・地質や気候に密接に関係していることを明らかにし、大縮尺の立地区分図作成、およびチークと南洋スギの造林適地区
分などを行った。
3)マレーシア林産研究協力計画:
JICA(1985.3~1990.3)
マレーシア森林研究所(FRIM)
における林産研究技術の向上を図るため、わが国の林産研究に関する技術移転を行った。木材集成加工、木材抽出成分、木材分析、木質パネル製品、木材保存、
木材乾燥に関して幅広い研究協力を行った。
4)アセアン諸国とのリモートセンシング技術の高度化とその応用に関する研究:
科学技術振興調整費(科学技術庁)、(以下、科振調)(1986~1990)
マレーシア森林研究所(FRIM)
の協力を得て、熱帯林の広域環境特性把握手法の開発を目的に、時系列的衛星リモートセンシングデータを用いて、森林伐採等の森林資源の変化を効率的に把握
する手法を開発した。森林型やその樹種構成と温度・水分等の環境条件との対応を地上調査と地上観測で調べるとともに、主な構成種の環境特性を明らかにし
た。また、熱帯林の区分手法及び森林地帯の生態的なゾーニング手法の開発を目的とし、森林モニタリング手法の研究、熱帯林の森林区分と環境特性の解明、リ
モートセンシング技術による広域的な環境情報の収集法の開発などの研究を行った。
5)マイクロ波センサデータ利用等によるリモートセンシング高度化のための基
盤技術開発:
科振調(1992~1996)
マレーシア森林研究所(FRIM)
の協力を得て、森林地帯の環境変動把握手法の開発を目的に、マレーシアの熱帯湿地林を対象地として、日本の人工衛星JERSの合成開口レーダー(SAR)
とランドサットTMデータの特性などを解析した。
6)複層林経営、早生樹育成に関する技術協力:
JICA(1991~2002)
マレーシア連邦森林局(FDPM)、ペラ州森林局(PSFD)
を相手機関としたJICAプロジェクト「複層林経営プロ
ジェクト(MSFM、1991~1999)」
とアフターケア的な「小規模短伐期植林プロジェクト(1999~2002)」が実施された。両プロジェクトではチクス(ペラ州ビドー町)が
共通のサイトとして使われた。アカシア・マンギウム林を列状伐採した場所に有用樹種を植える方法は成功し、現在立派な森林になりつつある(下図)。一方、早生樹と有用樹を同時に裸地に植栽する
方法は、成林の見込みが得られなかった。当所から造林、土壌、樹病、経営、機械などの広範な分野から10数
名が技術協力に参加した。

図 JICAの複層林経営プロジェクトで植栽されたショレア・
レプロースラ(Shorea leprosula)
マンギウムアカシア(Acacia magium)林
内に1991年11月に植栽された約13年
後の状況。(写真:松本陽介)
7)熱帯林生態系の環境・構造・機能に関する研
究:
地球環境研究総合推進費(環境庁)、(以下、環境総合)(1990~1992、1993~1995、1996~1998、1999~2001、2002~現在)
マレーシア森林研究所(FRIM)と共同で、熱帯林の環境および構造解析に関する研究(1990~1992)
をはじめ、多くの一連の研究プロジェクトを行った。マレー半島のパソー保護林とセマンコック保護林(下図)に
6ヘクタールの試験地を設定し、熱帯林の主要な構成樹種のサイズ構造・空間分布と群落動態、択伐後の回復過程や小面積皆伐後の種組成の変化、マイクロサテ
ライトマーカーの開発などによりフタバガキ科樹種の遺伝的差異、親子関係解析による遺伝子多様性保全、および、苗木~小経木サイズにおける多数の熱帯樹種
の葉の光合成、蒸散、水分特性などを明らかにした。これらの成果を、「Paso:
Ecology of a Lowland Rain Forest in Southeast Asia(2003)」とし
て発刊した。なお、以下の8)~9)と同様に、わが国の国
立環境研究所(NIES)とマレーシア森林研究所(FRIM)を主体とする共同研究覚書(MOU)のもと、同じ枠組みにおける総合的な研究が行われ、一部は2005年現在も継続している。

図 丘陵フタバガキ林に設
置したリタートラップ
林冠はセラヤ(Shorea curtisii)が
優占し、林床はパームが多い。(写真:新
山馨)
8)熱帯林の熱・水収支に関する研究:
環境総合(1990~1992、1993~1995、1996~1998、1999~2001、2002~
現在)
マレーシア森林研究所(FRIM)
と共同で、マレー半島ブキタレ水文試験地やパソー保護林において水文・気象観測・土壌調査を実施し、降雨特性、選択的水みち経路と土壌物理特性、土壌貯留
量の季節変動、降雨流出応答に対する土壌水分の役割、自然のダムとしての熱帯降雨林の機能、短期水収支法を用いた蒸発散量の推定、浮流土砂流出特性などに
ついて明らかにした。なお、ブキタレ水文試験地では森林伐採による水流出や土壌変化研究、パソー保護林では渦相関法などによるフラックス観測研究を現在も
継続中である(下
図)。

図 パソー保護林に建てた53mタワー
FRIMの協力を得て日本の国立環
境研究所と共同で建てた。約40mのタワー2基と上部で連
結されている。フェノロジー観測、昆虫採集、気象観測、フラックス観測などに利用している。(写真:松本陽介)
9)熱帯林の微生物・昆虫・動物に関する研究:
環境総合(1990~1992、1993~1995、1996~1998)
マレーシア森林研究所(FRIM)と共同で、パソー保護林を中心として腐朽菌、昆虫、哺乳類などの
センサスを行った。その結果、熱帯林では数ha内
に、ヨーロッパ全土に分布する種数に匹敵するサルノコシカケ類が分布していること、フタバガキ科樹木を特異的に寄主とする木材腐朽菌が多いこと、強度の森
林伐採を行うとその数十年後においても木材腐朽菌の種多様性が回復しないことを明らかにした。昆虫研究では、原生林で訪花性コガネムシが多く二次林では森
林性チョウ類が少ないこと、キクイムシやコガネムシの森林内垂直分布などを明らかにした。さらに、原生林と二次林での哺乳類相の違いを明らかにした。
10)キナバル山における熱帯林の種多様性と生態系機能の解明:
環境総合(1995、1996~1998、1999~2001、2002~2004)、
科振調(1996~1999)
環境総合では、熱帯山岳地における調査研究(1995)など、科振調では、安定同位体を用いた熱帯雨林の種多様性機能
の解明(1996)などのプロジェクト研究を行った。樹木
の成長の経年変化測定と2週間毎のリター(落葉落枝)量の
測定を継続し、温度(標高)と土壌栄養塩が森林生態系の機能(特に純一次生産と分解)に与える相互作用について、地上部純一次生産、炭素貯留量、栄養塩利
用の面で知見を得た。なお、このプロジェクトの成果は米国の科学雑誌Science誌
(22 March, 2002号)で取り上げられた。
11)熱帯林修復に関する研究:
環境総合(2002~2004)
マレーシア・プトラ大学(UPM)、マレーシア森林研究所(FRIM)、タイ・カセサート大学、インドネシア科学院(LIPI)、国際林業研究所(CIFOR)
などとの共同研究で、荒廃化した熱帯林の修復に関する生態、造林、社会経済、および情報交換ネットワークに関する研究を行った。研究の成果は国際ワーク
ショップを毎年度開催し、“Rehabilitation of degraded
tropical forest, Southeast Asia”として合計3冊刊行した。
2.インドネシア
1)南スマトラ森林造成技術協力計画:
JICA(1979.4~1984.3、1984.4~1986.3、
フォローアップ:1986.4~1988.3、アフターケア:1994~1995)
州都パレンバンから西約180km
の地域において苗木生産事業、造林事業、林道開設、および森林保護に関する技術協力を行った。3,100haの
人工造林を行った。50ha以上を植栽した樹種は14種であった。防火対策には十分な配慮を行い、防火帯、防火線を高密度に
配置して消防隊を組織した。アグロフォレストリーを導入して収入が得られるようにと企画したが、その継続は困難であった。造林成果をインドネシア国から高
く評価され、1984年から南スマトラ造林技術開発セン
ターとして林業省造林総局直属の組織に組込まれた。
2)インドネシア熱帯降雨林研究計画:
JICA(1984.12~1989.11、1990.01~1994.12、1995.01~1999.12)
東カリマンタン・サマリンダのムラワルマン大学に、ガジャマダ大学とボゴール
農科大学を加えた3大学共同利用施設として熱帯降雨林研究センター(PUSREHUT)
がJICAに
よって設立された。この研究センターを活用して、大学教育充実国家プロジェクトの一環として、熱帯造林のための人材養成を図るべく研究プロジェクトが開始
された。林地利用、天然林管理、人工林管理、地位級区分、およびアグロフォレストリー研究を行った。第2フェーズでは、熱帯林の修復及び再生に貢献しつつ
インドネシアにおける森林研究を支援した。プロジェクトサイトの土壌は熱帯地域の標識土壌の一つになった。さらに同州に分布している蛇紋岩や火山灰由来の
土壌の理化学的性質を明らかにし、熱帯林の2次林化・荒廃草地化に伴う土壌の理化学性の変化、および焼畑・火災など人為的撹乱に伴う植生変化に関する知見
を得た。また、フタバガキ科樹木の開花結実に関する記録を集積し、モミガラ薫炭を利用した苗木への菌根菌の実用的な接種法を確立した。第3フェーズでは、森林生態系の長期モニタ
リング研究および造林技術の高度化に関する研究を実施した。同フェーズ中、1997年
から1998年
にかけて非常に強いエルニーニョの影響により東カリマンタン州は異常乾燥と森林火災の異常乾燥および火災という災害に見舞われたが、それ以前から継続して
森林生態系に関する情報を蓄積していたことにより、乾燥および火災の影響およびその後の生態系回復過程を詳細に記録することができた(下図)。また第1フェーズからの15年に渡る研究協力により蓄積した知見をGuhardja 他編著(2000)「Rainforest ecosystem of East Kalimantan: El Niño,
drought, fire and human impact」として取りまとめ、Springer社から出版した。森林総研は、原稿の内容に関する査読や編
集作業を担当した。

図 伐採(左)と森林火災
(右)の影響を受けた低地フタバガキ林
ムラワルマン大学ブキットスハルト演習林(インドネシア東カリマンタン州)にJICAの第3フェーズ基盤整備費で設置した観測タワーより同じ林を撮影。
右の写真は伐採とその後の火災の影響を受けている。(写
真:藤
間剛)
3)インドネシア国マングローブ林資源保全開発現地実証調査:
JICA(1991~2004、
フォローアップ:2004~2006)
バリ島南部ブヌア湾で、1992年
から1997年
には育苗、育林技術開発、生態研究、および施業体系確立に向けての活動を行った。東部インドネシアでのマングローブ天然林の生産力を明らかにするととも
に、主要樹種の開花から種子成熟までの発達過程を明らかにした。苗畑技術についても潅水頻度やハードニング手法に関する情報を蓄積し、マニュアルを作成し
た。造林技術では、地盤高を数段階に調整した場所への植栽と成長観測により、樹種毎に必要な冠水頻度の範囲を明らかにし、サイト毎の植栽樹種選定を容易に
した。経営分野ではRhizophora apiculataの
収穫表を作成した。
4)インドネシア・森林火災予防計画:
JICA(1996~2000,
2001~2006)
スマトラとカリマンタンを主な対象地として、第1期では森林火災早期発見・警戒システムの導入、住民参加と教育・訓練、火災に強い森林の造成・管理の3つ
を柱とする活動を行った。第2期では衛星情報による森林火災の早期警戒・発見システムの改善と、森林火災予防に係る普及・啓蒙活動の推進を行っている。森
林総研では短期派遣により、衛星データ直接受信システムを導入した森林火災早期発見・警戒システムの開発などの協力を行った。この成果を、「地球観測衛星
を利用したアジア太平洋地域農林災害ネットワーク研究(科学技術振興事業団:1998-2001)」
に引き継ぎ、タイで受信された衛星データを高速ネットワークを介してリアルタイムで入手して、東南アジアの森林火災を発見・通報するシステムに発展させ
た。このシステムは完全自動で、農林水産省研究計算センターで運用している。
5)熱帯アジア陸域生態系からの温室効果ガスの発生・吸収量に関する研究:
環境省推進費(1997~2002)
BIOTROP/ICSEAとボゴール農科大との共同研究によって、熱帯林における温室効果ガスの発生・
吸収の制御要因を研究した。スマトラ島中央部において、温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、およびN2Oの
3種類の地表面フラックスの継続調査を行い、土地利用変化が温室効果ガスの発生に与える影響として、森林伐採時のインパクトが大きいこと、そのインパクト
継続期間は1年から2年程度であること、森林伐採後はなんらかの植栽が行われれば土壌の生産力は回復し、温暖化ガスの収支に与える影響は少なくなることな
どを明らかにした。また、硝化過程がN2O生成の主過程であるという推論が支持され、硝化速度とN2Oフラックスの間の関係を見いだした。

図 インドネシアのジャン
ビ州Bangko市のゴム林にて地表面から出てくるガスを
採取している様子(写真:石塚成宏)
6)陸域生態系の吸収源機能評価に関する研究:
環境総合(1999~2001)
ムラワルマン大学林学部(インドネシア)と BIOMA(インドネシア)を共同研究機関とし、インドネシアの産業造林
事業地を事例として、大規模造林活動が地域社会に与える影響および造林活動がもたらすリーケージ/ポジティブ・スピルオーバー(Leakage / Positive Spillover)を明らかにし
た。そのため、社会構造や周辺地域の経済状況、自然状況なども調査し、地域住民の生活のリアリティ(「文化生態的複合」)を把握した。
7)森林火災による自然資源への影響とその回復評価に関する研究:
環境総合(2001~2003)
1997~1998年
に発生したインドネシアの大規模森林火災が熱帯林の森林環境や生物多様性に与えた影響を、リモートセンシング手法や現地調査により解析し、被害林の回復過
程を評価するための指標を提示した。当所では衛星データ解析による影響地域の解析、腐生菌類、菌根菌、および昆虫類への影響に関する調査研究を実施した。
天然林の被災地では、葉面積指数と植生指数は負の相関を示すことが明らかになり、植生指数を介して広域での被災の評価を行うことが可能となった。重度被害
林、軽度被害林、無被害林において生物相や微気象の調査を行った。腐生菌類に関しては、各調査区の3箇所の小プロットで子実体を採集し、子実体や腐朽材か
ら菌株を分離し特性を調査した。昆虫類に関しては、3種類のトラップを用いてカミキリムシ類の捕獲調査を行った。菌根菌に関しては、調査区で菌根性きのこ
を採集するとともに、土壌試料を採取して外菌類の有無を調査した。
3.タイ
1)タイ造林研究訓練計画:
JICA(1981.7~1986.7、1986.7~1991、1991~1993)
王室林野局(RFD)
に対して、早生樹種の造林育成に関して造林、育苗、機械、土壌の各分野、1984年
からは森林生態と土壌分野の研究協力を行った。第2フェーズでは造林、森林生態、森林土壌、森林経営、林木育種、森林保護の6分野で研究協力を行った。マ
ングローブ林を含む各種森林群落の構造・機能の解明研究、および人工林の物質生産・成長解析などの天然更新・人工更新に関する基礎研究を行い、在来の有用
樹種の植栽密度と枯死率の関係、庇陰下における樹種別の成長特性や活着率、有用樹種の収量-密度効果、およびマングローブ胎生種子の生産・消長などを明ら
かにした。土壌分類を基礎とした土地利用区分、適地適木の選定技術、土地改良技術等の研究を行い、全国5カ所の土壌調査及び分類、マメ科樹種の成長と土壌
に及ぼす影響の解明、および経済樹種の適地選定技術の移転等の成果を得た。また、マングローブの更新及び植栽密度、乾性フタバガキ林における山火事防止施
業、混生落葉樹林における天然林保育の試験研究、組織培養による無菌繁殖の研究・種子のX線解析、長期種子保存技術の開発・改良研究、マツ苗畑における病
害菌の発生と分布、フタバガキ科樹木の種子貯蔵期間中の種子期限の病原菌の影響、チークを落葉させる蛾の生態と加害状況の研究、チークビーホールボーラー
の生態、飼育手順及び被害防止の研究など広範な研究・技術指導を行った。
2)熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究:
地球科学(科学技術庁)(1990~1999)
国家研究評議会(NRCT)、
王室林野局(RFD)、カセサート大学を共同研究機関とし
て、10年
間の長期観測研究として認められた研究で、森林総研を主査とし、各省庁、各大学を含めた大規模な研究プロジェクトを行った。熱帯林における植生の変動に関
する観測・解析的研究のために、衛星データを用いた広域の植生変動解析、熱帯林の植生の維持・更新機構、植生変動機構の観測研究を行った。また、土壌有機
物の分解及び物質循環に関する観測研究を行うとともに、熱帯林の変動とその影響評価のために、植生の変動の評価・予測に関する研究と熱帯林を中心とする炭
素循環・水循環の変動を評価・予測研究を行った。

図 チーク造林地における
微気象観測
チーク(Tectona grandis)の
成長に伴う林内気象の変化を追跡した。(写真:高橋正道)
3)東北タイ造林普及計画:
JICA(1992.4~1997.3)
王
室林野局と連携して、東北タイの緑化推進を目的として行われた技術協力プロジェクトである。ここでは、新たに社会林業のアプローチを採用し、地元住民が自
らの意志で植林を中心とした活動の中から自分たちの生活・福祉の向上を図ることで、森林・農地の合理的利用・保全を学び自然環境の回復に寄与しようという
ものであった。ベースラインサーベイの実施、大規模苗畑管理技術の開発、普及手法の開発・改良、および、地域住民・政府職員を対象とした訓練計画の策定・
教材開発に研究側から参加した。
4)地球科学技術研究のための基礎的データセッ
ト作成研究:
科振調(1993~1997)
国家研究評議会(NRCT)、王立林野局(RFD)、
カセサート大学、オーストラリア国立科学産業研究所(CSIRO)、
および中国林業科学院と共同で、森林被覆度データセットを作成するため、衛星データ等の収集と基準点情報のデータベース開発、森林の林相別分布状況及び立
体構造の把握研究を行った。また、森林における炭素蓄積量の算出手法を開発するため、林相別森林生態系における炭素蓄積等の算出手法や、林相別森林生態系
の炭素蓄積量の基準化、炭素貯留量評価手法などを開発した。
5)熱帯低湿地林の炭素貯留に関する研究:
環境総合(2003~2007)
タイ・チュラロンコン大学理学部、マレーシア・プトラ大学(UPM)林学部、およびインドネシア科学院(LIPI)などと共同し、泥炭湿地林、マングローブ林、淡水湿地林における
炭素貯留機能の解明研究を行っている。
4.中国
1)中国黒龍江省木材総合利用研究計画:
JICA(1984.10.14~1989.10.15、
フォローアップ:1989.10.15~1991.10.14、アフターケア:1995.9.26~1997.9.25)
黒
龍江省森林工業総局、黒龍江省林業科学院、および林産工業研究所を対象機関とし、森林資源を保全し木材資源の有効利用を図るため、木材の加工技術及び廃材
の有効利用技術の開発、改良を行うことを目的とした共同研究・技術移転を行った。当初の5年間は製材、パーティクルボード、木材材料性能、複合材、木材乾
燥、および接着・塗装の6分野、フォローアップの2年間には、製材、パーティクルボード、および木材材料性能の3分野、アフターケアの2年間には、木質複
合材料、および接着剤の2分野について技術協力を行った。移転された技術は中国の林産工業に広く普及している。
2)砂漠化機構の解明に関する国際共同研究:
科振調(1989~1994)
新彊生物土壌沙漠研究所、および蘭州沙漠研究所を共同研究機関とし、植物群落
の調査、類型化、および環境との関係解析研究を行った。タクラマカン沙漠周辺において約250の
プロットを調査した結果、約20種の群落が区分された。河
西回廊では33プ
ロットを調査した。乾燥地域に成立する植物群落に共通する特性として、立地条件に応じた分化が認められた。現地調査の結果、植生に対する最も大きな制限要
因は水条件であったため、供給される水量・期間・質(塩類濃度)によって、群落を、半固定砂地型、荒漠洪水型、地下水依存型、および塩類集積地型の4つの植生型にまとめた。
3)中国・黄土高原治山技術訓練計画:
JICA(1990.1~1994、 1995~1999)
北
京林業大学に対して、土壌侵食防止及び荒廃地復旧に関わる技術の開発及び向上を図り、黄土高原における水土保全的流域管理の推進に資することを目的とした
研究協力を行った。北京林業大学の中国黄土高原水土保持技術訓練センター、および吉県科学研究試験場の2カ所で行われた。訓練センターはプロジェクトの開
始条件として日本側の要請によって建設された。訓練の協力分野は、森林水文、水土保全計画、水土保全造林、治山工法、農地防災の5分野であった。研究・調
査分野は、森林水文、リモートセンシング、土壌科学、治山設計、農地防災の5分野であった。ローカルコスト事業では、現地セミナーの開催、中堅技術者養成
対策、モデルインフラ基盤整備、造林プロジェクト対策推進事業などを行った。
4)アジア地域の微生物研究ネットワークに関する研究:
科振調(1995~1997)
黒
竜江省において北方系の森林に生じる立木腐朽性の担子菌類を採集し、菌株を分離・収集した。結果はマレーシアのパソー保護林での成果と比較した。また、子
実体100個を収集し、北海道産の同じタイプと対峙培養し
た結果、交配可能であることを明らかにした。
5)中国人工林木材研究計画:
JICA(2000.514~2005.5.15)
中
国林業科学研究院・木材工業研究所を相手機関として、人工林からの材の需要拡大対応のために内装材を高度化する技術開発に関する技術協力を行った。木粉、
木材繊維とポリマーとの複合化技術では、最適混合率を決めた。さらに木粉の粒度により複合材料の分布が異なること、繊維方向に木粉粒度が配向していること
などを明らかにした。
5.フィリピン
1)パンタバンガン地域森林造成技術協力計画:
JICA(1976~1987、1987~1992)
JICAが二国間海外林業協力を
開始した最初のプロジェクトとして、環境天然資源省森林管理局に協力した。ルソン島中北部パンタバンガンダム流域において、土壌保全のための森林造成を通
じ、造林、森林経営、森林保全に関わる適切な技術開発と技術移転を行う事を目的とした。フェーズⅠは、
森林造成技術協力と技術訓練を主体とした治山技術協力で、約7,900haの
植林活動を通じ、熱帯草原における森林造成のための技術(苗木養成、植林、山火事防止、林道建設)の開発・改良を行った。また、森林造成と治山技術の普及
のための研修とあわせて、モデル施設の設置のため簡易工法による山腹基礎工、緑化工、渓間工の建設を行った。フェーズⅡにおいては、造林地の保育・保護及び樹種更改に関する技術の開発改良及
び、現地に適合する治山工法及び治山造林に関する技術の開発改良を柱とする技術協力に取り組んだ。約1万haに
及ぶ造林を行い、人材育成など我が国の国際林業協力のパイオニア的存在としてその後のプロジェクトの設立、運営に教材的な役割も果たした。
2)熱帯地域における早生樹種の成長解析・林分布生産量に関する研究:
JICA(1981~1986)
フ
タバガキ科樹種の更新並びに竹の造林に関する研究、熱帯地域のおける早生樹種の林分生産量に関する研究および熱帯地域における早生樹種の成長解析に関する
研究を行った。ケシアマツは瘠悪地でも直根や菌根菌の働きにより着実に更新・成長するなど幅広い立地特性を有すること、アカシア類では土壌の理化学的性質
や水分環境など立地条件の違いが成長状態に大きく影響し立地選択性が極めて高いこと、メリナでは環境条件に対する馴化適応力が大きいことなどを明らかにし
た。
3)熱帯季節林地域における森林動態と森林修復に関する研究:
TARC/JIRCAS(1993~2006)
フィリピン大学・ロスバニョス校(UPLB)林学部との共同研究で、熱帯季節林の山地林の林分構造研究と更新
研究を行った。マキリン山に設定した4haの調査区(標高500m)には、胸高直径5cm以
上で188種約5,000本が生育し種多様度が高いことを明らかにした。一方、熱帯山地林
上部に当たるバリグの調査区(標高2,000m)では、0.25ha内に胸高直径5cm以
上で、34種約4,000本の生育を確認し、東南アジア在来有用樹種の種子生産に関する現
地調査なども実施した。1999年度以降は、ルソン島南部
のバナハウ山荒廃草地に12haの植林試験地を設置し植林
プロジェクトを実施した(下
図)。
アカシア類などの早生樹と在来有用樹との混植を行う過程で、各植栽樹種の成長速度、耐乾燥性などの特性を明らかにし、降雨量が少ない土地でギンネムなどア
カシア類、レインツリーなどマメ科早生樹の定着、成長が良好であることを明らかにし、さらに、用材生産に適する在来有用樹の中から乾燥に耐え得る樹種を複
数選択した。

図 .バナハウ山の有用樹植林試験地
熱帯山地林の下部(標高約1,200m)にあるため霧が多い。 早生樹のギンネム(Leucaena lecocephala、右側)、
用材樹種のアクレ(Albizia akle、
左側)の混植区。(写真:高橋和規)
6.ブラジル
1)ブラジル・サンパウロ林業研究協力計画:
JICA(1979~1986、
アフターケア:1989~1991)
サ
ンパウロ州森林科学院を対象に、流域管理、伐出技術研究、リモートセンシング、および小径木利用について研究協力を行った。クーニャ森林水文試験より海岸
山脈は水源地帯として重要であることの実証、代表的な造林木であるエリオッテイ・マツの材積表を改良、および山岳林における伐出工程を明らかにした。アフ
ターケアでは流域管理およびリモートセンシングの研究協力を行った。海岸山脈では年間を通じて基底流量の安定化が期待できる水源林の拡大は、流域の土壌保
全のみならず水資源確保の上からも有効であることを提言した。また、ランドサット衛星データの解析・利用技術の移転を行った。
2)ブラジル・サンパウロ州森林研究計画:
JICA(2002~2003)
サンパウロ州森林科学院を対象に、上記プロジェクトで造成した各種試験林のうち、定期的に成長を測定しているものについて、データの補
完ととりまとめを行った。20数種の樹種を植裁し、大きい
ものは8年間で樹高10mを超えていた。また、表面侵食が
激しい試験流域における流出土砂量の推定方法に関する研究では、試験流域を方形メッシュに分割し、流域からの流出土砂量を推定する手法を提案した。
3)ブラジル・アマゾン森林研究計画:
JICA(1995~1997、1998~2003)
アマゾン地
域の熱帯雨林について環境保全と持続可能な森林管理モデルの確立を目指して、1995年
6月より国立アマゾン研究所(マナウス市)を対象に、リモートセンシング、荒廃地の回復、天然林の管理を主体に活動を開始した。その後、フォローアップ期
間の技術協力を経て、98年10月より森林型の分布様式、天然林の動態、立地特性、種子の生理生態特
性、および立地適応性の5つの分野でフェーズⅡを展開し
た。共同研究の成果として森林動物の生態、リモートセンシング技術を用いた森林型の類型区分、地形と林分構造の関係、主要樹種の更新機構などの解明がなさ
れ、荒廃地回復に向けた試験地の造成と植栽木の成長に関する資料の収集、蓄積が行われ、技術移転がなされた。

図 アマゾン川流域の水没
林
雨期の跡、上流からの水量
が多くなりマナウス周辺では水位が上昇し、低地では1ヶ月
以上水没した森林となる。これは、魚の繁殖・稚魚成長の場所となる。(写真:田内裕之)
7.韓国
1)東アジアにおける環境酸性化物質の物質収支解明のための大気・土壌総合化
モデルと国際共同観測に関する研究:
環境総合(1996~1998、
2000)
韓
国林業研究院との共同研究を行った。森林生態系に及ぼす環境酸性物質の影響を解析し、酸性物質の影響評価手法の開発に資するために、中国および韓国での環
境酸性化物質の森林生態系への影響の現地調査、韓国ソウル市郊外と日本の東京八王子のアカマツ林流域における物質収支の比較、人工的に酸性処理した土壌で
中国・韓国の植栽樹種を用いた苗木の成長特性の調査、土壌型や林相を異にする様々な土壌を用いた森林土壌の窒素無機化・硝酸の生成速度の解明、および土壌
酸緩衝試験などの研究を行った。その結果、中国、韓国では酸性化物質負荷量の供給が大きいこと、土壌酸性化に対する樹木の感受性は樹種によって異なるので
地域に適した臨界負荷量を評価する必要があること、および韓国の土壌は緩衝能が弱く渓流水から塩基の流亡が観測されることなどが明らかとなった。また、森
林土壌の酸性化プロセスには硝酸化成と有機酸類の影響が大きいことを明らかにした。
2)アジア地域の微生物ネットワークに関する研究:
科振調・国際研究[多国間型](1995~1999)
亜寒帯針葉樹林および熱帯林に生息するキノコ類について、種の同定と系統分類
学的検討、種の多様性の解析、および菌株の特性調査を行った。中国東北部の森林で確認した木材腐朽性担子菌類の年ごとの総出現種数はそれぞれ50種前後であった。一方、インドネシア熱帯林の菌根性及び腐生性菌類に関
しては、フタバガキ科林から菌根性きのこを中心に約400点
のきのこを採集し65種を同定した。さらに、半島マレーシ
アの低地熱帯林に分布する木材腐朽菌類の子実体700サン
プルを用いて子のう菌類2科7属30種、
担子菌類8科33属59種を同定しそれらの子実体から286菌株を分離培養し菌株リストを作成した。
8.ロシア
1)シベリア凍土地帯における温暖化フィードバックの評価に関する研究:
環境総合(1991~1996、1994~1996、1997~2000、2005~
現在)
科
学アカデミー・ヤクーツク生物学研究所(現:寒冷圏生物学研究所)、および科学アカデミー・スカチェフ森林研究所との共同研究によって、森林生態系におけ
る二酸化炭素貯留と収支の解明に関する研究、森林生態系における一次生産と二酸化炭素収支、森林火災が二酸化炭素収支に与える影響、群落レベルの炭素集積
とそのモデル化等の研究を行った。極北の永久凍土上に成立した森林生態系について、これまでの植物生態学、土壌地理学の常識とは全く異なる多くの知見を得
た。

図 永久凍土地帯のシベリ
アのカラマツ(Larix gmelinii)の
黄葉(写真:松浦陽次郎)
2)バイカル湖の湖底泥を用いる長期環境変動の解析に関する研究:
科学技術庁-総
合(1995~2000)
ロシア科学アカデミー地球化学研究所、陸水学研究所、植物生理学研究所、およ
びUSGS(米国地質調査書)との共同研究によって、古生
物情報解析に関する研究の中で植生変遷に関する研究などの一連の研究プロジェクトが実行され、当所では植生変遷および生物進化データベースの構築に関する
研究を担当した。バイカル湖底泥200m(BDP96)と600 m(BDP98)の掘削に成功し、この2本のコアの花粉分析を行った。コアは1,200万年間の連続試料であることが判明し、第三記中新世から現在まで
の植生変遷が明らかになった。また化石花粉のDNA分析に
成功し、約15万年前のモミの葉緑体DNAについて、スペーサー領域の塩基配列の復元を行った。
9.パプアニューギニア
パプアニューギニア森林研究計画:
JICA(1989.4~1994.3、1995.4~2000.3)
森
林研究所を対象に、林業研究として、人工造林、種子、土壌・肥料、および昆虫・樹病を行い、林産研究としては、木材保存・木材化学、木材組織・利用、およ
び木材加工について研究協力を行った。天然林の持続的経営分野では収穫跡地の成長及び更新に関する育林技術研究、森林伐採と水、土壌との関係に関する研究
を行った。人工造林に関する研究では人工造林用樹種の選択(高海抜地における郷土産有用樹種の造林適正に関する研究、産業造林用樹種の材積表作成)、主要
造林樹種の育種に関する研究を行い、森林生物分野ではコンピュータを用いた林木樹種の同定を行った。
10.ベトナム
ヴェトナム・メコンデルタ酸性硫酸塩土壌造林技術開発計画:
JICA(1996~1999、2000~2001)
ヴィ
エトナム森林研究所南部支所を対象に、ロンアン省タンホア地区の酸性硫酸塩土壌地帯で実用的な造林技術の開発を目指した。期間中、土壌改良、造林、および
育苗の3分野に関して協力した。メラルーカー等ロンアン省タンホア地区の酸性硫酸塩土壌地帯に適した造林樹種を選定するとともに、現場向けの育苗マニュア
ルを作成した。試験地の土壌・環境影響モニタリングを行い、造林技術ガイドラインを完成させた。
11.ブルネイ
ブルネイ林業研究計画:JICA(1985~1997、
フォローアップ1990~1992、アフターケア1995~1997)
造林、木材利用、および森林管理に関する長期林業計画の策定、適切な国家林業
計画の策定、国内外の研究活動を通じた林業研究者と技術者の育成を目的に技術協力を行った。混合フタバガキ林、泥炭湿地林、および熱帯ヒース林を中心に11ヶ
所の試験地におけるフェノロジー調査を行った。アイソザイムによる遺伝分析によるカプール山引苗の遺伝的健全性の確認、森林立地評価や苗木の生理研究によ
るフタバガキ科樹木の苗木生産への貢献、および主要樹種の材積表調整などの成果を得た。さらに、伐採によって劣化した二次林の質的向上を目指した試験地を
設定し、土壌調査、バイオマス調査、および植生調査を行い、このプロジェクトで考案したギャップ・プランティングを実施した。この手法は、後にJICAがパプアニューギニアやマレーシアで実施した林業プロジェクトにも
取り入れられた。
12.ペルー
ペルー・アマゾン林業開発現地実証調査:
JICA(1981~1990)
ペルー共和国林業動物研究所(INFOR)
を対象に、抜伐り等によって低質化した熱帯降雨林において、生態系を保全しつつ、有用樹種の多い森林に改良するための更新技術を開発し、民間資金による試
験造林事業を誘導するための技術協力を行った。天然更新試験では1,500haの
試験区域の中の560haを天然更新試験区として設定し28樹種の天然更新試験を実施した。人工更新試験では580 haの試験区に15樹
種を植栽し生育状況を調査した。苗木養成・苗畑試験では2haの
苗畑を造成し各樹種の育成技術開発を行った。このほかに種子飛散量調査、種子貯蔵試験、施肥試験、害虫防除試験、および密度試験などを実施した。熱帯低地
林および丘陵林における地形と土壌分布の関係を明らかにし、フンボルト実験林の土壌図を完成させた。また人工林対象樹種の15樹種について、植栽方法や土壌と初期成長との関係を明らかにした。ま
た、主要造林樹種であるセンダン科のセドロおよびカオバ(オオバ・マホガニー)の新芽が芯くい虫の度重なる食害を受けたため、害虫防除研究を実施しその成
果を実証試験に活用した。
13.ミャンマー
ミャンマー中央林業開発訓練計画:
JICA(1990~2000)
森
林局の中央林業開発訓練センターを対象に、中央林業開発訓練センターにおける訓練コースでの技術協力を行った。森林局職員を対象とするコースでは造林技
術、育苗技術、森林保護、林道、および林業機械を設け、一般住民を対象とする訓練コースでは地域開発のための林業一般コースとアグロフォレストリー特別訓
練コースを設け、それぞれ訓練に関する技術協力を行った。当所では短期専門家派遣による技術協力を行った。
14.ミクロネシア連邦
マングローブ林の更新機構および炭素固定機能の解明に関する研究:
科研費、環境総合(1993~
現在)
本研究は、ポナペ州におけるポンペイ島マングローブ林の保全と持続的利用技術の開発のための日米共同基礎研究(1993~)
などの一連の研究プロジェクトによって推進されている。ポンペイ島の4タイプのマングローブ林に設定した永久調査区において、立木密度、幹断面積合計、平
均直径と樹高などを調査した。ミクロネシアの他州におけるマングローブ林概況に関して、コスラエ州では大径木を備えた発達した林分が多く残っているが、住
民による収穫対象サイズはポンペイ島における場合よりも大きなものが多い。この比較的大径木の伐採が後継稚樹の定着を促進している箇所も見られた。チュー
ク州ではマングローブ林成立に適した立地はあるものの、多くの林は乱伐されゴミ捨て場化し、炭素蓄積機能を十分に発揮できていない。このように住民のマン
グローブ林利用あるいは関与の仕方にも、州間での大きな違いが目立つことを明らかにした。
15.その他の国
1)アジア地域
カンボジア森林・野生生物局(FA)
との共同で「アジアモンスーン地域における人工・自然改変に伴う水資源変化予測モデルの開発(文科省委託経費、2002~現在)」として、メコン全流域の水文・水資源シミュレーションモ
デルの構築に関わる研究を行っている。
ネパールとは、ネパール王国植物資源局との共同研究によって「アジア産マオウ科マオウ
属植物の学術的調査研究(金沢大・薬学部、2001~2003)」としてマオウ属植物の多様性、種ごとに生育地の環境要因、およ
び種間・種内における変異と生育環境との関係などを明らかにした。
インドとは、「熱帯樹種による樹木年輪解析とそれに基づく気候復元(科学技術庁)」によって熱帯モンスーン地域に生育する樹木の気候変動に対する成長応答
を年輪気候学の手法により解析するとともに、既知の気候変動に対する成長応答から過去の気候変動を復元する研究を行った。
2)オセアニア地域
オーストラリアとは、「乾燥地植林による炭素固
定システムの構築(科振調、1998~2003)」や「荒漠地でのシステム的植林のための環境適応型・土壌制御技
術の開発に関する研究(環境総合、2003~2007)」により半砂漠地での炭素貯留機能を高めるための造林研究を行っ
ている。
また、ニュージーランドでは「エ
ンジニアリングウッド利用のための統一的な性能評価法の確立(科技庁)」によって、各種エンジニアリングウッドの接着耐久性、放出ホルムアルデヒド量、お
よびせん断性能について性能水準の導出を行い、パーティクルボードのせん断性能と接着剤から放出されるホルムアルデヒドについてわが国とオーストラリアの
3カ国のISO規格案として提案し、ISO原案のためのオストラリア・ニュージーランド規格を作った。
3)その他の環太平洋地域
マダガスカルとは、チンバザザ動植物園との共同研究「マダガスカル島における
鳥類の社会進化の研究(科研費・大阪市大、1994~1996)」
により、マダガスカル島で適応放散したオオハシモズ科鳥類の系統関係の解明、および形態・採食生態・繁殖生態の比較研究を行い、オオハシモズ科の鳥がその
種間関係をとおしてマダガスカルの鳥類群集や森林生態系の安定性および生物多様性促進に大きく貢献していることを明らかにした。
メキシコとは、国立メキシコ大学と共同して「メキシコ産ステビア属における有性生殖・
無性生殖型の変異と進化(九州大学大学院、1999~2001)」によって、有性生殖型・無性生殖型を有するステビア・オリガノ
イデスの無性生殖型倍数体がどのように起源したかを明らかにするため、DNA塩
基配列の解析研究を行った。
さらに、カナダ森林局などとの共同研究「国際的基準に基
づく持続的森林管理指針に関する国際共同研究(交付金プロジェクト、1999~2004)」によって、日本国内における生物多様性の変化のモニタリングおよび評価の手法に関する研
究を行った。
4)ヨーロッパ地域
スロバキアとはタトラ国立公園研究センターへの
技術協力「森林環境影響評価(JICA個別派遣、1999~2001)」
によって、カルパチア山地西部に位置するタトラ国立公園における森林衰退研究に関して、森林植生、樹木生理生態、森林土壌、およびリモゼン・GIS分野の研究協力を行った。この協力を通じて、かつて強度の大気汚染の
ために森林衰退が進んでいた東ドイツ・ポーランド・チェコスロバキアの国境が交わるブラックトライアングルと呼ばれた地域での森林衰退は1990年代の中頃には被害が軽微になったこと、過去100年間にも数回発生している大西洋方面からの強風被害(その後のバーク
ビートルによる食害)(下
図)の
発生頻度が高まっていることの知見を得た。
ノルウェーとは「地すべり移動体の流動化に関する研究(科技庁、1994)」などを端緒に地すべりに関する研究を継続している。クイックク
レイ堆積域において、高精度・高密度な長期自動観測を1997年
から実施し、これまでに2回の地すべりイベントの詳細観測
に成功し、現在も国際電話回線によりモニタリングを継続中である。

図 強風被害を受けた後にバークビートルの食害で壊滅したドイツトウヒ(Picea abies) 天然生林
チェコのシュマバ国立公
園。チェコの林学者や林業関係者が今後の対応について現地討論を行っていた。(写真:松本陽介)
|