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高いところの葉を食べたければシカは幹を折る

2020年8月7日掲載

論文名

キュウシュウジカによるスギ幼齢木の折損被害の特徴

著者(所属)

野宮 治人(九州支所)、山川 博美(森林植生研究領域)、重永 英年(植物生態研究領域)、伊藤 哲・平田 令子(宮崎大学)、引地 修一(大分森林管理署)

掲載誌

日本森林学会誌、102巻3号、202-206、日本森林学会、2020年6月 DOI:10.4005/jjfs.102.202(外部サイトへリンク)

内容紹介

林業では下草よりも早く苗木を大きくするために、大苗と言われる150cm以上の苗を植えることがあります。こうした苗木を植えた場合、シカは高さ100cm前後の枝や葉を良く食べることが知られています。ところがシカはそれ以上の高さの部分を食べたいとき、幹(主軸)を折ってから食べることも観察されています。そこでこのような被害が起こる苗木の状態について調査しました。

平均160cmというとても大きなスギ苗を500本植栽したところ、主軸を折って先端を食べる折損被害が2年間で70本発生していました。折られた部位の高さは100cmから130cmの高さに集中し(図1)、折損部の最大直径は16mm(平均12mm)でした(図2)。この植栽地では植栽してから1年目と2年目に主軸の折損被害が発生しており、被害を受けたスギの樹高成長は著しく遅れました(図3)。また、130cmの高さの直径が16mmとは樹高200cm程度の苗木に相当しますので、その高さに成長するまでは折損被害の発生リスクがあると考えられます。このことから、160cmの大苗を植えたとしても、今しばらく危険な時期が続くと考えられます。

この研究では、シカによる食害とスギ苗木サイズの関係を定量的に示すことができ、被害対策を講じる期間など、シカ対策を施業計画に組み込む際に重要な情報となります。

(本研究は2020年8月に日本森林学会誌で公表されました。)

 

図1 主軸折りの様子と折損高の本数分布

図1 主軸折りの様子(左写真)と、折られた高さ(折損高)の本数分布(右図)
右図の黄色背景はシカが枝先を食害しやすい高さの範囲を示す。(この詳細は、研究成果「シカはスギの苗木をどの高さまで食べられるか」を参照下さい。)

図2 折損部位の様子と折損部の直径の本数分布

図2 折損部位の様子(左写真)と、折損部の直径の本数分布(右図)

図3 植栽から4年目までの樹高成長

図3 植栽から4年目までの樹高成長
主軸を折られると樹高成長が著しく遅れ、4年目でも無被害の個体に比べて有意に小さくなった。バーは標準偏差。

お問い合わせ先

【研究推進責任者】
森林総合研究所 研究ディレクター 宇都木 玄
【研究担当者】
森林総合研究所 九州支所 野宮 治人
【広報担当者】
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