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有機物へのセシウムのくっつきやすさは「落葉・材・樹皮」で違う

2021年7月5日掲載

論文名

Sorption and desorption experiments using stable cesium: Considerations for radiocesium retention by fresh plant residues in Fukushima forest soils (安定セシウムを用いた吸脱着実験: 福島の森林土壌における新鮮有機物による放射性セシウム保持に関する考察)

著者(所属)

眞中 卓也(立地環境研究領域)、大橋 伸太(木材加工・特性研究領域)、小河 澄香(きのこ・森林微生物研究領域)、大塚 祐一郎(森林資源化学研究領域)、古澤 仁美(立地環境研究領域)

掲載誌

Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry、2021年5月 DOI:10.1007/s10967-021-07749-1(外部サイトへリンク)

内容紹介

福島第一原発事故で森林に放出された放射性セシウム(137Cs)の大部分は、現在は土壌に存在しています。このうち最表層の落葉層には、樹木の根や微生物に吸収されやすい形態のセシウム(注1)が多く、森林内での今後の循環を考える上で重要です。しかし、落葉層の放射性セシウム濃度は、場所によって大きく変動するため、その予測が困難です。

その原因として、落葉層の有機物は分解の程度が異なる葉や樹皮など様々な種類のものが混じりあって存在し、それぞれで放射性セシウムの吸着特性が異なることがあります。そこで、それぞれの有機物が放射性セシウムをどれくらい・どのような形態で吸着するのかを模擬実験で調べました。

今回の実験では、放射性セシウムの指標として安定セシウム(注2)を使い、その水溶液とスギの新鮮落葉、材、樹皮(注3)の粉砕試料をそれぞれ混合し、セシウム吸着率を調べました。その結果、有機物の吸着率は種類によって異なり、樹皮で高く、材で低く、落葉はその中間でした(図)。一方で一旦吸着したセシウムは、種類によらず、水で簡単に洗い流され、吸着した大部分が回収できました。そのため、これらの有機物に吸着する放射性セシウムは、比較的動きやすい形態であると考えられます。今回の結果は放射性セシウムの循環プロセスやその空間変動を理解する上で、重要な知見となります。

ただし実際の落葉層の有機物は、土壌鉱物と混ざり合っている上に、土壌動物や微生物の動きも加わり複雑です。今後はそのような実際の状態を再現した実験などから、落葉層での放射性セシウムの変動の要因やその将来の予測につながる成果を得る必要があります。

(注1)過去の研究成果の記事も参照してください。

「植物に吸収されやすい放射性セシウムは土壌から急速に減少していた」

 https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2019/20190624-01.html

(注2)質量数が133である、セシウムの安定同位体のことです。放射性セシウムと同じ化学的性質(例:水和のしやすさ)を示す上に、放射線を放出しないため取り扱いが容易です。

(注3)今回は有機物そのものがもつセシウムの吸着特性を知るため、林床に落ちる前にネット(リタートラップ)を使って空中で採取された落葉、生立木の樹皮と材を採取したものを実験材料に使用しました。

(本研究は、2021年5月にJournal of Radioanalytical and Nuclear Chemistryにおいてオンライン公表されました。)

 

図:セシウムの吸着実験の結果

図:セシウムの吸着実験の結果(初期セシウム濃度 1.00×10-5 mol kg-1、24時間振とうの場合)

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