研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2024年紹介分 > 文化遺産としての価値を認識することが草原の保全につながる
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掲載日:2024年3月7日
森林などの優れた自然環境を保全するための中核的な地域である自然公園注1) で、半自然草原注2) (以下、草原)を保全するには、文化遺産としての価値を認識することが重要であることが分かりました(写真1)。これは全国各地で減り続ける草原を保全するための新たな指針づくりにつながる知見です。
草原は、その特有の環境を好む希少動植物のすみかとなっており、かつては国土の10%以上を占めていました。しかし、放牧や採草といった利用が減少した現在、国土の1%程度にまで減っています。そうした草原の一部は、自然公園に指定されていますが、自然公園内でも減少が食い止められず、草原が消滅の危機にあります(写真2)。そこで、富士箱根伊豆国立公園にある仙石原草原注3) を詳しく調査するとともに、他の草原に関する過去の研究成果をもとに、草原の変遷過程を分析しました。
その結果、仙石原草原が国立公園に指定された当初、眺望が良くその開放的な風景が文化的な価値として評価された一方、生態系としての重要性は注目されませんでした。この状況は他の草原でも同様で、各地で草原が減少する要因となったことが明らかとなりました。しかしながら、生態系を守るという理由だけで多くの費用や人手をかけ草原を維持するのは難しいのも事実です。生態系としての重要性に加えて、草原と森林が織りなす美しい風景が生み出す価値や、自然環境と融合した地域の文化遺産としての価値を認識し、保全活動につなげていくことが重要となります。
注1) 自然公園:優れた自然の風景の保護と利用を目的として指定される地域で、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の3種類がある。
注2) 半自然草原:自然の状態で成立している自然草原に対して、人為が継続的に及ぶことによって草原の状態を保っているもの。
注3) 仙石原草原:箱根山のカルデラ内に位置し、台ヶ岳の斜面に群生するススキが有名な観光地。毎年3月に草原維持のための山焼きが行われる。
(本研究は、Forests誌において2023年7月に公開されました。)
写真1:眺望が良く開放的な仙石原草原は、「映え」スポットとして来訪者に人気。
出典:神奈川縣(1930)大箱根國立公園、神奈川縣廳都市計畫課
写真2:山麓に広がる白い部分が以前の仙石原草原(撮影年不詳)。現存している草原は点線で囲まれた左端の地域
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