今月の自然探訪
更新日:2025年6月3日
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現在、日本の森林の20箇所ほどで、樹冠を遥かに超える高いタワーが建っています(写真1)。このタワーの先端にはいろいろなセンサーがたくさんついていて、様々な測定を行っています(写真2)。代表的なものとして超音波で3次元の風の動きを測定する超音波風速計と赤外線で温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)の濃度を測定する赤外線CO2ガスアナライザーの組み合わせがあります(写真3)。この2つの測定機器を組み合わせた手法は乱流変動法と呼ばれ、ある瞬間のCO2が次の時間にどこに移動したかを1秒間に10回程度測定-演算してCO2の動きを連続的に計測する手法です。この手法を用いると、森林のCO2吸収-放出量(これをCO2フラックスと呼びます)の時々刻々の変化を直接測定することが可能となり、現在世界中の森林の約600箇所で同じような観測が行われています。さらに温度、湿度、光の量などの様々な気象情報を測定するセンサー群もタワーに設置されており(写真4)、これらデータを用いて日本の森林のCO2吸収量はどのくらいの量なのかが継続的にモニタリングされています。また測定されたデータはFlux Net(https://fluxnet.org/)という研究者コミュニティーで世界中に共有され、衛星データや全球予測モデル(GCMモデル)などの基準値として用いられています。そして、最終的には地球全体の森林のCO2吸収量の推定や将来の予測に用いられます。
森林総合研究所では現在、北海道(札幌、ミズナラ林)、岩手(安比、ブナ林)、山梨(富士吉田、アカマツ林)、茨城(筑波山、スギ林)、京都(山城、コナラ林)、熊本(鹿北、スギ林)の6箇所で長期観測を行っており、長いサイトでは25年間継続した観測を行っています。私ども、研究者たちはその間、毎週のようにタワーに通い続け機材やタワーのメンテナンス、データの測定-回収などを続けています。筆者は京都のサイトで年に50回以上を21年間、合計1000回以上通い続けるというとても地道な観測を続けました。長い間の観測はいつも順調に行くわけではないので、機材の故障やタワーのトラブルなどと戦い続ける日々でもあります。ときには大きな台風で観測タワー自体が折れてしまうなどといった大事故が発生することもあります(写真5)。このような時には山の中にあるタワーの撤去や再建築に何年もの年月を要することがあり、とても地味で苦労の多い観測であるといえます。現在、温暖化の進行により、森林のCO2吸収量などのキーワードを聞く機会が増えましたが、その実態は、人知れぬ山の中にひっそりと立つタワーと、そこに通い続ける人たちの地道な努力がその一端を担っていることを知ると、少しそのキーワードが身近に感じられるのではないでしょうか。
(森林防災研究領域 小南裕志)
写真3:CO2フラックスを測定する超音波風速計と赤外線CO2
ガスアナライザー
写真1:京都、山城サイトのフラックスタワー
写真2:タワーの上部に設置されたセンサー群
写真4:太陽から来る光の量を測る日射計 写真5:台風の被害により倒壊したタワー
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