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パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子01
パネリスト(左から):研究ディレクター(気候変動研究担当)平田泰雅、近畿大学農学部 教授 松本光朗氏、植物生態研究領域 チーム長 壁谷大介、林木育種センター育種部育種第一課 課長 栗田 学、複合材料研究領域 領域長 平松 靖、木材加工・特性研究領域 チーム長 柳田高志

 

Q1:山に栄養塩(灰)を戻すとの話がありましたが成長量に応じた収穫でも栄養不足になるのでしょうか。持続可能な栄養不足にならない収穫量はどの程度でしょうか。例えば、・年間成長量の10%以内とか ・ヘクタール当たり10t/年など。

A1:多くの森林では窒素・リンなどの栄養分が不足しがちです。これは、人間が肥料をまく農業とは異なり、森林への栄養分の供給方法が降雨などによる大気からの供給か鉱物の風化による供給に限られているからです。
特に植物の成長にとって重要な窒素を例に考えた場合、スギの葉量を1haあたり14トン、生葉の窒素濃度を1.4%とすると、1haあたり196kgの窒素が生葉に含まれていることになります。バイオマス燃料として枝条を持ち出す場合には、この量が森林から失われることになります。これに対し、降雨などの形で大気中から森林内に共有される窒素の量は、東京近縁の比較的供給量の多い森林でも1haあたり年間26kg程度ですので、枝条を持ち出すことのインパクトの大きさが判ると思います。
「成長量に応じた収穫」とは、おそらく択伐施業かと思いますが、この場合燃料として足りるだけの枝条を集めることは難しいでしょう。やはり無理に持ち出すよりも林地に残すか、持ち出すのであれば灰などの形で林地に戻す工夫が必要ではないかと考えます。(壁谷大介)

 

Q2:集成材の性能について接着剤の耐用年数はどこまで検証されているのでしょうか。建築物の50年程度の利用が求められますが、実年数での検証はされていないと思うのですが。

A2:国内の築後25~51年経過した集成材建築物を対象とした調査が2007~2009年にかけて国土交通省の事業で実施されています。その調査の概要は「築後25~51年経過した建物における集成材柱の耐久性調査(木材保存、36巻6号、p.254-259、2010年、(公社)日本木材保存協会発行)」に記されています。また、「木造建築物の耐久性向上のポイント((一社)木を活かす建築推進協議会発行・編集)」には上記で調査した国内の建物の一部のほか、米国で調査した建物の写真も掲載されています。集成材を構造材として使用する際に注意すべき事項は製材と同様です。(平松 靖)

 

Q3:様々な観点の話題提供、ありがとうございました。木材建築の点検の話や、未利用木材で葉っぱの持ち出しの話は、気付きを与えていただきました。木材を燃やした後の灰の利用に関しては、法律的には、廃棄物扱いになってしまっていると聞いたことがあります。その点で、法律整備の進捗はあるでしょうか?

A3:木造建築の維持管理は重要な課題であると考えています。建物内で木材が使用される環境(温湿度)を整え、結露等を抑制すること、それらをモニタリングできるような技術開発が重要であると考えます。「木造建築物の耐久性向上のポイント((一社)木を活かす建築推進協議会発行・編集)」が参考になります。
木質バイオマス発電所等で発生する燃焼灰は、通常であれば産業廃棄物になってしまいます。ただし、環境省通知は、木質専焼の燃焼炉から発生した灰は、有効利用が確実な場合に限り産業廃棄物に該当しないとしています(平成25年6月28日、環廃産発第1306282号)。また、肥料として利用する場合も、肥料取締法の一部を改正する法律が令和2年12月1日に施行され、草木灰を含む燃焼灰を肥料と配合することが可能とりました。【参考】山田毅、平井敬三、木質バイオマス燃焼灰の現状と林地還元に向けた取り組み、日本エネルギー学会機関誌えねるみくす、100(1):55-61(2021)(平松 靖・柳田高志)

 

Q4:日本は森林資源が充実しているというお話がありましたが、実際に健全な木材生産に係わっている森林は何割ぐらいでしょうか?

A4:日本の人工林はおよそ1,000万haあり、50年生以上を超える林齢の人工林が約500万ha存在しています。このうち、令和2年度には8万haの人工林が伐採され、3.4万haが造林されました。また、36万haの人工林で間伐が実施されています。
1,000万haの森林を50年に一度伐採して更新する場合、毎年20万haの伐採が必要になりますが、それから考えると、本来の40%の森林が木材生産に利用されていることになります。また、伐採までに間伐を2回行うとすると、予定の90%の森林で間伐が行われていることになります。
なお林野庁では、将来的に1,000万haの人工林のうち660万haを木材生産を重視した森林(育成単層林)とすることを計画しています。これらの森林を50年で伐採すると仮定すると毎年約13万haの伐採および26万haの間伐が必要となります。(壁谷大介)

 

Q5:また、吸収源にカウントされていない森林(国土保全等には役に立っている森林)はどのくらいでしょうか?

A5:吸収源としてカウント出来るのは、1990年時点で森林でなかった土地への植林(新規植林・再植林)と森林の生態学的、経済的及び社会的な機能を持続可能な形で満たすことを目的とする管理と利用が行われている森林が対象となります。森林管理の現状等を踏まえ、各国が具体的に規定し、条約事務局に報告、国際審査を受けることになっています。
我が国は育成林と天然生林についてそれぞれ規定しています。育成林とは、人為により植林・保育などの管理がされている森林で、間伐等の適切な整備が行われている育成林については、吸収量が算入可能です。天然生林とは、主として自然の力を活用することにより管理されている森林で、保安林の指定など保護・保全措置が講じられた天然生林については、吸収量が算入可能です。この規定により、国土保全等に役立っている森林は保安林指定されており、カウントされています。(平田泰雅)

 

Q6:現在、荒れている森林を木材生産とCO2吸収源の確保ができる健全な森林にするための政策は進んでいるのでしょうか?

A6:林野庁では、「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」を通じて間伐や成長に優れた苗木を活用した再造林の促進を目指しており、森林のCO2吸収量の確保・強化に務めています。また森林管理経営制度により、これまで管理が滞っていた森林について、市町村が仲介役となることで意欲のある事業者が代替して経営を行う体制作りを目指しています。さらに森林環境環境税・森林環境譲与税を活用することで、森林の多面的機能を発揮する森づくりの促進を目指しています。(壁谷大介)

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