研究紹介 > トピックス > 研究広報特設サイト > 2022年度 森林総合研究所公開講演会「ネットゼロエミッション達成のための森林の役割」 > ここまでできた林業の機械化と効率化
更新日:2022年11月1日
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植物生態研究領域 チーム長 壁谷大介
Q1:大型機械、さらにはIC技術により効率化の副作用として、大規模皆伐、無理な林業作業道により大雨による土砂災害を誘発しているとの意見が、最近多く見られる。
温暖化の影響でますます大雨が予想されている中で、効率化と自然災害防止(本来の森林が持つ機能の一つ)をどのように両立させていくのか。
A1:林業のコストを下げるためにはある程度の規模での施業が必要となりますが、何よりもまず災害につながらないことを考える必要があります(災害で発生する人的・物理的コストを勘案すると、施業で得られる利益を遥かに超えることが予想されます)。このため、まずは林業を行っても大丈夫な区域を選定して、その中で効率的な林業を目指すことが重要ではないでしょうか。災害に結びつく可能性のある区域については、防災機能を最大限発揮できるような森林として管理をしていくことも重要だと考えます。
また、高齢林化により立木のサイズが増大すると、伐採・搬出に係わる林業機械の大型化が必要となり、それに伴い作業道・林道の拡幅が必要となります。その結果、降雨等の影響をより受けやすくなる恐れもあることから、適切な林齢(適切な立木のサイズ)の時点で伐採を行うことが防災の観点からも重要です。
Q2:林業の施業形態として、大規模林業と自伐林業のような小規模林業があると思います。また、大規模林業に関しても、ある程度の規模面積で一斉主伐してしまう方法と、抜き取り間伐(主伐)する方法があると思います。小規模林業や抜き取り間伐は、機械化や効率化が難しそうに思うのですが、そのような林業をターゲットにした取り組み事例は、ございますでしょうか?
A2:近年幾つかのメディアでも取り上げられている小規模林業「自伐型林業」ですが、私の認識の範囲では「更新」についてあまり意識が払われていないように思います。スギやヒノキなどの樹種がちゃんと成長するためには、ある程度の明るさが必要です。次世代の健全な更新を期待するのであれば、一定量の面積の伐採が必要となりますし、育成複層林を仕立てるには、かなりの技術と徹底した管理が必要です。
また発表でも話しましたが、林分の成長速度は林齢と共に鈍っていきますので、自伐林業で本当に長期間にわたり林業収益が安定して得られるかは、今後の推移を見守る必要があると思います。さらに立木が大径化すると、伐採時の危険度が高まることに加えて、搬出により多くの労力が必要(機械が大型化しそれに伴い作業道の拡幅も必要)になることも考慮する必要があるでしょう。
ちなみに青森県の下北半島においては、耐陰性が高く天然更新の可能性もあるヒバ林の択伐施業が検討されています(育成途中の立木を保育・利用の目的で部分的に伐採する間伐に対し、十分に成長した立木を利用目的で部分的に伐採するのが択伐です)。皆伐—再造林に変わる林業のモデルケースと捉えてみると面白いかも知れません。
Q3:ご講演では森林の二酸化炭素の吸収量を維持増進するために、日本では森林の若返りを促進するべきだとのお話でしたが、これは伐採に伴う二酸化炭素の排出も考慮に入れてのことでしょうか。あるいはそれを無視してのことでしょうか。また、松本光朗教授の講演や論文では、少なくとも2050年までの期間では、伐採と若返りを促進するよりも、伐採面積を増やさない方が、全体として二酸化炭素の正味の吸収量を大きくするという計算結果が示されていますが、それとの関係はどのように考えられるのでしょうか。
A3:今回の発表では、伐採・搬出および製材に関する二酸化炭素の排出は考慮しないかたちでお話ししています。林業の各ステージにおける二酸化炭素排出については、伐採・搬出に用いる機械(建設重機)や運搬に用いる自動車の脱炭素化など、林業の枠を越えたレベルでの解決が必要になるからです。逆に、社会全体での脱炭素化が進むことで、伐採・製材に伴う二酸化炭素排出というデメリットがなくなり、高い生産性を持つ森林でCO2を吸収しながら、木材を利用することで長期間街中でCO2を固定するという林業のアドバンテージがより大きくなる可能性が期待できるのではないかと思います。
松本先生の発表でも、森林の伐採と木材を促進するシナリオの方が、将来的な緩和効果への貢献が高くなる可能性を示しています(2010年~2050年 の40年ですと、森林はまだ元気に成長を行っている林齢です)。同様の傾向は海外の研究例でも示されているようです。
Q4:効率化とは、低コストで森林経営をすることだと考えますが、機械化は、導入及び更新コストが経営を圧迫する大きな要因ともなっています。その枠組に関して経営に資する根拠を研究して欲しいです。
機械化は必ずしも経営に資するものではなく、機械化が有効な森林は、大規模、均質化した場所と考えています。経営的に不適な地域が日本では多いのではないでしょうか?
A4:ご指摘の通り、単に機械を導入するだけでは林業の低コスト化は難しく、効率化・低コスト化のためには事業規模にみあった機械の導入が不可欠です。逆に林地の集約化・団地化を進めて、ある程度まとまった事業規模で林業を行うことで機械化のメリットを生かせるでしょうから、森林管理経営制度の活用を含めた林業の改革が必要となってくるのではないかと思います。
なお、今回の発表では時間の都合で触れることはできませんでしたが、機械導入のコストを考慮した低コスト化林業に関する研究も進められていますので、森林総研のwebサイト等も参照頂けますと幸いです。
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