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更新日:2017年3月7日

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自然探訪2017年3月 1000年生きる木の抗菌効果?

1000年生きる木の抗菌効果?

東南アジアのボルネオ島や、スマトラ南部、南フィリピンなどの低地熱帯雨林に生育する「ボルネオテツボク(Eusideroxylon zwageri)」をご存知でしょうか?高さ50m、太さ2m以上にもなるクスノキ科の常緑高木で、フタバガキ科が優占する東南アジアの森にひっそりと生きているようでとても存在感のある種です。「テツボク」という名の通り、その幹は鉄のように硬く、比重が1より重いため一般的な樹木と違って水に沈みます。成長は森の中でも極めて遅く、密に詰まったその幹はキクイムシやシロアリ、木材腐朽菌に耐性があり、土に接した状態でも40年(湿度の高い熱帯で!)、乾いた状態では100年以上も腐りません。そのため、家の柱や船着き場、船底、屋根瓦などとして地域の人々によく利用されてきました。

成長はとても遅いのに大木になることから、ボルネオテツボクはとても長生きだと考えられてきましたが、季節性の不明瞭な湿潤熱帯では日本のように年輪による樹齢推定が難しく、実際にどれ程長く生きるかは謎でした。私が大学院生の頃に初めて行った研究は、そんなボルネオテツボクの樹齢を放射性同位体年代測定という手法で推定することでした。昔から人々に利用されてきたボルネオテツボクは、保護されている森でも選択的に抜き切りされていることが多く、私が調査を行っていたボルネオ島のマレーシア・サラワク州、クバ国立公園には巨大な切り株が多く残されていました。切り株の切断面の一番内側から採取した材を測定したところ、ボルネオテツボクは1000年以上生きる可能性があることがわかりました。フタバガキの樹齢が知られている中で最大570年ほどと言われているので、非常に長生きだということがわかります。その後、ボルネオテツボクは最大35%もの光合成産物を幹や葉を丈夫にしたり虫や菌を防いだりする物質の生産に利用していることがわかり、そのことが彼らの長生きの秘訣である可能性も示唆されました。

そんなボルネオテツボクには、忘れられない思い出があります。以前所属していた東北大学の教員宿舎に入居して初めての夏の出来事です。8月は中旬の1、2日を除いて調査出張が入っていた私は、久々に帰宅した夜、宿舎の部屋の電気をつけて驚愕しました。その春に張り替えられたばかりのまだ青かった畳はたくさんの湿気を含んでいたのかもしれません。暑い夏に窓を閉め切って出かけていたせいか、畳の部屋しかない宿舎の、畳一面カビでした。その日は既に遅く、非常に疲れていたため、仕方なく部屋に置いてあった合皮のソファの上で眠りました。次の朝目覚めてあたりを見渡すと、一つ奇妙な光景が目に入りました。一面のカビの中、畳の上に置いてあったサラワク土産のボルネオテツボク製の豚の置物の周りだけ、綺麗に円を描くようにカビが生えていないのです。これがまさにボルネオテツボクのもつ抗菌効果ではないか?と感動しつつ、その日のうちにまた出張に出かける必要のあった私は、急いでカビ除去に取り掛かかってしまい、その様子を写真に収めなかったことが未だに心残りです。

 

(森林植生研究領域 黒川 紘子)

 

写真1:巨大なDryobalanops lanceolataに設置された林冠観測用のタワーもボルネオテツボク製です。
写真1:巨大なDryobalanops lanceolata(フタバガキ科)に設置された林冠観測用のタワーもボルネオテツボク製です(マレーシア・サラワク州、ランビルヒルズ国立公園)。
テラスまでは階段、そこから上は梯子で林冠までアクセスします。

写真2:クバ国立公園内のボルネオテツボクの切り株
写真2:クバ国立公園内のボルネオテツボクの切り株。顔が彫られていました。

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