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更新日:2017年4月4日

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自然探訪2017年4月 泥炭(でいたん)

泥炭(でいたん)

泥炭は石炭の一種、高校の授業でそう習いました。その時は、泥なのに石炭というのがどうにも理解できませんでしたが、そう感じたのも無理はありません。ストーブで燃やすいわゆる石炭と泥炭では見た目が全く違うからです。文字通り石炭が石のように固いのに対して泥炭はやわらかく、少し分解が進んだものは泥のようにも見えます。石炭は、堆積した植物遺体が地下で熱や圧力を受け変質(石炭化)したもので、少なくとも数百万年以上の長い時間がかかっています。泥炭がそう簡単に石炭になるものではないようです。

泥炭とは、過湿な条件のために植物遺体の分解が抑制され、厚く堆積したものです。泥炭を形成する代表的な植物としては、ミズゴケ、ヌマガヤ、ヨシなどがあります。世界の土壌アトラスをみると、泥炭はユーラシア大陸やアメリカ大陸北方の北極圏を中心に分布していることがわかります。こうした地温の低いところでは分解が抑制されるため、泥炭ができやすいのは確かです。しかし、熱帯にもかなり分布していることが示されており、低温は泥炭生成の絶対条件ではないことがわかります。また、泥炭は土壌の一種として扱われますが、その生成過程からも明らかなように、ほとんどが有機質で、一般の土壌では主要な構成要素となる鉱物質をあまり含みません。土壌としてはかなり特異なものといえるでしょう。

泥炭が堆積しているようすを野外で見たことがある人は少ないかもしれません。でも、その地上部ならば多くの人が目にしているはずです。それは、尾瀬ヶ原や釧路湿原などに代表される「湿原」の景観です。こうした湿原の地下には数メートルもの厚さで泥炭がたまっていることもめずらしくなく、ときには十メートル以上堆積しているところもあります。これらの泥炭の多くは、最終氷期とよばれる寒冷な時代が終わった約1万年前以降に堆積したことがわかっています。

ぬかるむ泥炭地は開発を進めるにはとてもやっかいなところでした。しかし、近年はその価値が見直されつつあります。泥炭はほとんどが有機物でできていますから、その中に膨大な量の炭素を貯め込んでおり、地球温暖化防止の観点から保全することが求められているのです。また、分解不良で植物の遺体(化石)がよく残っていることに加えて、比較的静かに順序正しく堆積しているので時間指標の火山灰をはじめとする地層の変化がよくわかり、過去を精度よく記録したタイムカプセルとしての機能を持っています。これらを詳しく調べることで、過去の植生や環境を高い精度で復元できる可能性があります。美しい景色だけでなく、泥炭地にはこうした目に見えない重要な価値があるのです。

 

(立地環境研究領域 池田 重人)

 

写真1:湿原(鳥海山山麓)
写真1:湿原(鳥海山山麓) 地下には3m近い泥炭層がある

写真2:海岸にある泥炭露頭(サハリン)
写真2:海岸にある泥炭露頭(サハリン) ツツジ科の低木が地表を覆う

 

写真3:写真2と同じ泥炭露頭の断面
写真3:写真2と同じ泥炭露頭の断面 地表からの泥炭層の厚さは約3m

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