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来たる10月14日,京都市アバンティホールにて平成15年度研究発表会を行います。これは,私どもの研究所における研究成果を広く一般の方々にも知っていただくための催しで,毎年行っているものです。どなたでもお越しいただけます(予約不要,入場無料)。
(研究発表)
伊東宏樹(森林生態研究グループ)
高畑義啓(生物被害研究グループ)
動物が森林の植物に与える影響にはいろいろなものがあります。大台ヶ原でも、ニホンジカ(以下シカといいます)が樹木の皮をはぎ取り、枯らしてしまうことがあります。樹木が枯れて林の中が明るくなると、ササがよく茂るようになります。ササが茂ると樹木の実生(種子から発芽した芽生え)が育ちにくくなります。ここで、シカやネズミがササを食べると、ササが減って実生がよく育つようになるかもしれません。しかし、シカやネズミは実生も食べてしまいます。どちらの影響が大きいのでしょうか?
実際に調査したところでは、樹木の種類によって結果が異なっていました。ササによる被陰とシカによる採食は、どちらも実生の死亡を増加させましたが、針葉樹のウラジロモミではシカの影響が、広葉樹のアオダモやブナではササの影響がより大きく作用していました。アオダモではさらに、シカがササを食べることによって実生の死亡が減ることがわかりました。一方、ネズミは種子か発芽直後の実生を食べることで実生の発生数を減少させていましたが、実生の生存への影響は大きくありませんでした。
古澤仁美(森林環境研究グループ)
大台ヶ原の森林の林床を一面に覆うミヤコザサ(以下ササといいます)は本来90~100cmの高さになる植物ですが、10cm位の高さで刈り込まれたようになっています。これはシカがササを餌にしているためです。このように森林の様子を変えるほどシカが増えてきたとき、森林の土壌にはどのような影響があるのでしょうか?
ササは土壌から養分を吸収して成長し、地上部(葉・稈)は毎年枯れて落ち葉(リター)の形で養分を土壌へ供給します。リターの供給量は土壌中の微生物の活動や養分量に影響すると考えられています。また、ササが林床を覆うことは、雨で土壌やリターが流されて森林から養分が失われることを防いだり、土壌の温度・水分環境を変えたりすると考えられます。シカはササの現存量を減らしてこれらのササの効果を変えているかもしれません。今回はこのようなシカとササが土壌へ与える影響についてお話します。
上田明良(生物多様性研究グループ現:北海道支所)
伊藤雅道(横浜国立大学)
ササが茂る大台ヶ原で、シカがササを食べることによって生じる虫などの小動物の数や多様性の変化を調べ、これらにとって最も良いシカの数について考えてみました。ササの茂り具合によって大きく影響を受けるものは、地表に棲むもの、地中に棲むもの、そしてササ自体に棲むものが考えられます。まず、地表性小動物食物連鎖の頂点にあるオサムシ科昆虫と徘徊性クモ類について調べたところ、その数と多様性はササが適度に茂っている、すなわちシカがある程度ササを食べている環境下で高くなりました。地中に棲むもののうち中型土壌動物(ダニ、トビムシなど)は、動植物遺体の分解者として土壌の生成と森林の物質循環に重要な役割をはたしています。その数と多様性はシカを除去することで高くなりました。ササ自体に棲むものとしてササの稈にゴール(虫こぶ)を形成するササタマバエ(仮称)およびその寄生者について調べたところ、ゴール数と寄生バチ2種のうち1種の寄生率は、シカがいると増加しましたが、もう1種のハチの寄生率は低下しました。以上のように、シカがいないと増えるもの、その逆や中間のものと様々で、全体に効く良薬(シカの数)はないことがわかりました。
日野輝明(野生鳥獣類管理チーム長)
大台ヶ原は、40年ほど前にはまだ、林床が苔むした鬱蒼とした森におおわれていました。ところが、いまでは、増えすぎたシカが芽生えを食べてしまうために新しい樹木がまったく育たないばかりか、樹皮までも食べてしまうために枯死する樹木も目立ちはじめ、すっかり明るい林に変わり果ててしまいました。このまま放っておくなら、ササ原に変わってしまうのは時間の問題でしょう。では、シカがいなくなれば、森林はよみがえるでしょうか。答えはNOです。なぜならば、シカも森林生態系の大切な一員だからです。適正な密度であれば、ほかの生物にとって力強い味方になることだってできるのです。森林を蘇らすためには、シカだけでなく、生態系を構成するさまざまな生物どうしの関わり合いを明らかにし、そのバランスを崩さないような方法で、生態系の健全性を取り戻さなければいけません。野外調査とモデル解析の結果、大台ヶ原の森林生態系を再生していくためには、シカの個体数調整と同時に餌であるササの刈り取りを行っていく必要があることがわかりました。
(特別講演)
鷲谷いづみ(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
昭和47年3月 | 東京大学理学部生物学科卒業 |
昭和53年3月 | 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士学位取得) |
昭和61年8月 | 筑波大学生物科学系講師 |
平成 4年9月 | 筑波大学生物科学系助教授 |
平成12年1月 | 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 |
現在に至る |
『日本の帰化生物』『保全生態学入門—遺伝子から景観まで』『オオブタクサ、闘う—競争と適応の生態学』『マルハナバチハンドブック』(共著)『サクラソウの目—保全生態学とはなにか』『生物保全の生態学』『よみがえれアサザ咲く水辺—霞ヶ浦からの挑戦』(共編著)『生態系を蘇らせる』『里山の環境学』(共編著)『タネはどこからきたか』『外来種ハンドブック』(監修)『自然再生事業—生物多様性の回復をめざして』(共編著)
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