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年報第41号 研究資料

竜の口山森林理水試験地の林分構造

後藤義明(防災研究室)

1. はじめに

竜の口山森林理水試験地は1937年1月に設置されて以来、わが国の寡雨地域を代表する試験流域の一つとして、今日まで60年以上にわたって、降水量と流域の水流出量が継続測定されている。関西支所防災研究室における森林と水流出に関する研究は、この試験地での試料を基盤として進められてきた。この60年の間に流域の植生は変遷を繰り返しており、植生の変遷に伴う水収支や流出特性の変化が解明されてきた。森林の構造・動態に関する資料は、森林理水試験地の基礎データとして重要であると考えられる。本報告は、森林総合研究所指定研究「森林理水試験地における植生調査」により、当試験地における現在の森林の状態を把握するために行った調査結果をまとめたものである。

2. 試験地の概要

竜の口山森林理水試験地は、岡山県の北部、旭川左岸の丘陵地にあり、隣接した北谷(22.6ha)と南谷(17.3ha)の2流域からなる。当試験地では北谷を基準流域、南谷を処理流域とする対照流域試験法がとられている。地質は北谷の約1/3が石英斑岩などの火成岩であるのを除き、硬砂岩と粘板岩からなる古成層である。土壌は未熟なやや粘性の植質壌土に分類される。年平均気温は14.3℃であり、年降水量は平均で約1,200mmであるが、1994年までに1,000mm以下の寡雨年が8回観測されている。降水量の季節分布を見ると、冬季は少なく積雪はほとんどないのに対し、梅雨と台風の影響で6、7、9月に多くなっている。一般に湿潤なわが国の他の地方と比べると降水量は少なく、夏季には著しい乾燥状態になることも多い(谷・阿部 1985)。

試験地設置当初の植生は、南谷の大部分が100~120年生の天然生アカマツ林で、一部には伐採跡地があった。北谷は100~120年生の天然生アカマツ林のほか、一部に25年生のアカマツ林があった。これら両谷のアカマツ林は1944~1947年に皆伐された後放置され、ササや低木類が繁茂する状態となった。北谷にはその後も手が加えられることはなく、アカマツ、コナラ、ヒサカキなどからなる混交林が成立した。その後1980年ころをピークとする松くい虫被害でアカマツはほぼ全滅し、現在は広葉樹林となっている。これに対し南谷には1954~1956年にヒノキが植栽されたが、1959年9月に山火事の類焼を受け、南谷のほぼ全域が焼失した。火事の翌年の1960年には南谷全域にクロマツが植栽されたが、クズ等のツル植物の繁茂や1974年に発生した小規模な山火事のため、1975年ころにはクロマツ林は全体の約70%を占める状態になっていた。このころのクロマツの樹高は8.1~9.5mで胸高直径は9~11cmに達し、林冠はほぼ欝閉していた。1974年の火災跡地には1976年にヒノキが植栽された。その後1980年ころをピークとする松くい虫被害で南谷流域のクロマツはほぼ全滅し、現在は広葉樹林となっている(藤枝・阿部 1982、谷・阿部 1985)。

3. 調査方法

1995年撮影の空中写真及び現地調査により試験地の林相区分を行い、これをもとに林相区分図を作成した。この林相区分図をもとに、各植生タイプごとに調査区を設け、胸高直径3cm以上の立木について、胸高直径、樹高、樹高1割直径を測定した。調査区数は2~3個所とし、調査区の大きさは10m×10mとした。これらのデータをもとに、試験地の材積及び地上部現存量を推定した。材積は林野庁計画課編の立木材積表より求めた。地上部現存量は、本来は個々の調査地で伐倒調査を行って推定すべきであるが、当試験地は森林公園に指定されており林木の伐採等ができないことから、西岡ら(1982)が大阪府箕面山のアカマツ林で求めた以下の式を用いて推定した。

W = WS + WB + WL (1)
WS = 0.02182 (D0.12H)0.9548 (2)
WS = 0.02644 (D0.12H)0.9688 (2)'
WB = 0.01262 D0.12.364 (3)
WL = 0.005921 D0.12.288 (4)
U = 4.537WL0.9971 (5)
U = 9.560WL0.9543 (5)'
U = 17.51WL0.9058 (5)"

ここで、Wは地上部現存量(kg)、D0.1は樹高1割直径(cm)、Hは樹高(m)、WS、WB、WLはそれぞれ幹、枝、葉の幹重(kg)、Uは葉面積(m2)を示す。また(2)式はアカマツについて、(2)'式はアカマツ以外の樹種について用い、(5)式はアカマツについて、(5)'式はアカマツ以外の常緑樹について、(5)"式は落葉樹について用いる。

4. 結果と考察

空中写真の判読および現地調査により、主に樹高や種組成をもとにした試験地の林相区分を行ったところ、北谷は3タイプ、南谷は無立木地を含む4タイプの林相に区分できた(図-1)。これらの各林相タイプに調査区を設け毎木調査を行った結果を表-1に示した。ヘクタール当たりの材積、現存量ともに南谷に比べ攪乱の少ない北谷で大きく、逆に立木密度や出現種数は南谷で大きくなっている。表-2には毎木調査の結果得られた各林相タイプの種組成を、図-2には樹高階分布を示した。

攪乱の少なかった北谷では、各林相タイプともコナラが優占種となっている。北谷1は1980年以前にはアカマツが優占していた部分で、松くい虫被害によりアカマツが枯損した後、広葉樹類が高木層を占めている。現在はコナラが優占しているが、北谷2や3に比べ他樹種の混交率が高い。ここでは4m以下の低木類が最も多くなっている。北谷2及び3ではコナラの生育がよく、高木層では20mを越すコナラが優占しており、北谷3の最高樹高は 26mに達している。北谷2ではコナラ以外の樹種が少ないが、北谷3では亜高木層にコナラやカスミザクラの他、ヤブニッケイやクロガネモチ、ソヨゴなどの常緑広葉樹も多く生育している。北谷2、3ともに樹高階分布を見ると三山型になっており、階層分化が進んでいる様子がうかがえる。

graph
図-1 竜の口山森林理水試験地の林相区分図
(林相タイプの番号は表-1参照)
表-1 各林相タイプの概要
林相 面積 調査区内 立木密度 材積 現存量 葉面積指数
タイプ ha 出現種数* 本/ha m3 m3/ha t t/ha ha/ha
北谷  
1 3.14 8.5 2550 215.6 68.7 181.7 57.9 4.3
2 5.32 7.0 3200 791.7 148.8 554.8 104.3 7.3
3 8.82 7.7 2567 1728.2 196.0 1208.9 137.1 7.8
全体 17.28   2759 2735.5 158.4 1945.5 112.6 7.0
南谷  
4 15.09 12.5 7250 1442.5 95.6 1231.6 81.6 7.6
5 4.83 4.0 3400 375.6 77.6 301.9 62.6 3.8
6 2.30 11.5 2650 79.3 34.5 99.7 43.3 4.4
7 0.39 無立木地
全体 22.61   5835 1896.4 83.9 1633.2 72.2 6.3
* 100m2当たりの平均出現種数

南谷は北谷に比べ攪乱が多く、比較的若い森林で占められている。南谷5は1976年に植栽されたヒノキ林で、ヒノキの樹高は現在約8mに達している。コナラやカスミザクラの侵入が見られるが、ヒノキ以外の樹種は少ない。南谷4及び南谷6では、北谷に比べコナラは少なく、多種が混交してい状態である。樹高階分布ではいずれも4m以下の低木が最も多い一山型の分布をしており、階層分化は進んでいない。最高樹高も10m以下で、高木層は未発達である。南谷6は松くい虫の被害以前に、ツル植物の繁茂等によりクロマツが枯れていた部分で、現在でも南谷4に比べ林木の生育は悪く、現存量も南谷4の約1/2になっている。竜の口山の山頂付近には展望休憩舎がおかれ、林木は切り開かれ草地となっている(南谷7)。

1978年時点での材積は、北谷が2,339m3、南谷が981m3であった(藤枝・阿部、1982)。北谷では1978年以降一部でアカマツが枯れた以外は大きな植生の変化はなく、森林の材積も徐々に増加している。これに対し南谷では、全体の約70%を占めていたクロマツが全滅し、その後成立した広葉樹林が旺盛な成長を続けており、この20年間で約2倍の材積になっている。南谷では今後も材積は増加していくものと考えられる。

表-2 各林相タイプの種組成
  種名 平均樹高 平均DBH* BA**合計 BA割合
m cm m2/ha %
北谷  
1 コナラ 8.97 16.4 9.05 58.45
カスミザクラ 7.81 8.9 1.59 10.29
ネジキ 4.01 4.8 1.12 7.22
ネズミサシ 10.72 16.7 1.10 7.08
ヒサカキ 3.51 3.5 0.98 6.35
ソヨゴ 9.27 14.1 0.78 5.04
その他 5.50 5.1 0.86 5.56
2 コナラ 10.67 15.6 23.18 83.41
カスミザクラ 8.54 9.8 1.33 4.78
ヒサカキ 3.60 3.9 1.26 4.52
ソヨゴ 4.57 6.0 0.73 2.64
マルバアオダモ 4.97 4.5 0.71 2.55
ネジキ 5.27 4.4 0.23 0.82
その他 5.12 4.7 0.36 1.29
3 コナラ 11.98 20.5 21.28 69.94
ソヨゴ 6.76 8.5 4.49 14.38
ヤブニッケイ 7.91 10.6 0.86 2.75
カスミザクラ 6.91 7.7 0.83 2.66
クロガネモチ 13.52 17.0 0.76 2.37
ヒサカキ 3.96 4.6 0.74 2.37
その他 5.57 5.2 1.71 5.48
南谷  
4 リョウブ 5.52 7.9 12.09 39.54
カスミザクラ 5.70 10.1 4.61 15.06
クスノキ 8.93 19.0 4.26 13.94
ヒサカキ 3.40 4.0 3.18 10.41
ソヨゴ 3.35 5.4 1.66 5.44
シラカシ 8.53 15.7 0.97 3.17
その他 5.18 5.0 3.81 12.45
5 ヒノキ 7.29 10.0 19.08 93.50
コナラ 5.53 4.1 1.09 5.32
その他 4.43 3.9 0.24 1.17
6 アカメガシワ 6.18 11.3 6.58 52.96
ナナミノキ 4.53 8.0 1.75 14.05
ヤブニッケイ 5.28 8.8 0.79 6.33
ニセアカシア 5.10 13.5 0.72 5.76
ヒサカキ 3.09 3.8 0.51 4.11
エノキ 7.42 11.2 0.49 3.96
その他 4.44 4.0 1.59 12.83
7 無立木地
*DBH:胸高直径
**BA:胸高断面積
graph
図-2 各林相タイプにおける樹高階分布

参考文献

  • 藤枝基久・阿部敏夫(1982)竜の口山試験地における森林の成立が流出に及ぼす影響.林試研報317:113-138.
  • 西岡正仁・梅原 徹・永野正弘(1982)箕面山サル生息地域周辺の森林における樹種別・器官別の現存量(資料).(昭和56年度箕面山サル調査報告書.箕面市教育委員会、大阪).117-139.
  • 谷 誠・阿部敏夫(1985)竜の口山森林理水試験地における研究の成果と今後の展望.林試関西支場年報26:59-64.

山陰地方におけるスギ人工林の成長
―篠谷山収穫試験地調査報告―

細田和男(経営研究室)

1. 試験地の概況

篠谷山スギ人工林皆伐用材林作業収穫試験地は、近畿中国森林管理局鳥取森林管理署管内、鳥取県日野郡江府町篠谷山国有林715林班い小班に所在する。山陰地方のスギ人工林の成長量、収穫量及びその他の統計資料を収集するとともに、林分構造の推移を解明する目的で1959年に設定された。スギ同齢単純林であるが、植栽時の苗に混入していたと思われるヒノキが若干数含まれており、その本数割合は71年生時点で2.1%であった。調査区の面積は0.2ha、海抜高560~620m、斜面傾斜角30度の北向き斜面で、土壌型はBDである。試験地の西南西およそ30km、茶屋地域気象観測所(海抜490m)における1989年から10冬期の平均最深積雪深は78cmであり、標高差から試験地の最深積雪深は150cm程度と推定される。これまでの試験経過は次のとおりである。

1928年12月 新植、haあたり3000本 1969年11月 第3回調査と間伐、41年生
1930年12月 補植、haあたり300本 1974年11月 第4回調査、46年生
1929~36年 下刈、年1回 1979年11月 第5回調査、51年生
1942年11月 つる切り 1984年10月 第6回調査と間伐、56年生
1951年 9月 つる切り 1989年10月 第7回調査、61年生
1956年12月 間伐 1994年 9月 第8回調査と間伐、66年生
1959年11月 第1回調査と間伐、31年生 1999年 9月 第9回調査、71年生
1964年11月 第2回調査、36年生  

前回調査より5年を経過したので、1999年9月に第9回調査を行った。調査内容は、胸高直径・樹高・枝下高・寺崎式樹型級区分の全数調査である。なお現地調査にあたっては、経営研究室 田中 亘 研究員の助力を得た。

2. 調査結果と考察

本試験地の71年生までの林分成長経過(表-1)を、山陰地方スギ人工林林分収穫表(大阪営林局、1969)と比較すると以下のような特徴がある(図-1)。

残存木(主林木)平均樹高は31年生時点で収穫表地位I等に相当したが、46年生以降II等に漸近しており、収穫表の樹高成長曲線とは異なる経過を示しているように見受けられる。しかしながら、試験地の残存木本数が収穫表I等のそれを大きく上回っているため、樹高の大きい方から収穫表相当本数の平均樹高を求めると46年生から71年生まで順に 24.7、26.7、27.9、29.0、30.5、31.2mとなり、収穫表I等をやや下回る程度で推移していると判断された。

残存木本数密度は、56年生以降収穫表I等の1.5倍以上で推移しているが、残存木平均直径は収穫表II等の水準を維持しており、直径成長が抑制される傾向は認められない。また試験開始以後、被圧や雪害による枯損はほとんど発生しなかった。結果として残存木材積は収穫表のそれより大きく、66年生時に本数率24%のやや強い間伐を施すまでは、収穫表I等の1.2~1.4倍で推移した。一方、同時期の累計間伐材積は収穫表よりも少なく、0.2~0.4倍にとどまっている。残存木材積に累計間伐材積を加えた総成長量は、収穫表I等をやや下回る程度で推移し、71年生現在1,242.0m3に達している。総平均成長量は、収穫表I等の場合40年生時19.6m3ha-1yr-1で極大となるが、試験地はこれよりも遅く56年生の調査時に18.5m3ha-1yr-1で極大となった。

このように、本試験地は同地位の収穫表と比較する限りにおいては、より高い密度で管理されてきている。しかし直径成長は旺盛であり、また過密による被圧枯死や形状比の上昇による致命的雪害は生じておらず、高齢に達しても安定的な材積成長を持続しているのが本試験地の特徴といえる。

本試験地は比較的林道に近いため搬出条件がよく、また多雪地帯のスギとしては形質も良好である。今後は上層木を含む間伐を反復しつつ、山陰地方におけるスギ長伐期林の成長指標として継続的にデータを収集する方針である。次回定期調査は2004年秋季を予定している。

表-1 篠谷山収穫試験地の林分成長経過
林齢 総林木 枯損木
平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計 平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計
(cm) (m) (m2) (m3) (cm) (m) (m2) (m3)
31 25.2 18.7 1,075 56.08 494.2          
36 28.8 20.4 900 60.85 567.6          
41 30.5 22.0 900 68.55 684.4 19.2 14.5 15 0.45 3.2
46 33.3 23.7 740 66.42 697.1          
51 35.3 25.4 740 75.21 837.2          
56 37.0 26.2 740 82.86 945.5          
61 39.0 27.4 640 79.44 937.3          
66 40.1 28.2 640 84.37 1024.1 35.3 15.9 10 0.98 6.7
71 42.1 29.4 480 70.00 879.1          
 
林齢 間伐木 残存木
平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計 平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計
(cm) (m) (m2) (m3) (cm) (m) (m2) (m3)
31 18.7 15.7 175 4.91 37.7 26.5 19.2 900 51.18 456.5
36           28.8 20.4 900 60.85 567.6
41 22.9 18.7 145 6.05 53.7 32.2 22.8 740 62.04 627.6
46           33.3 23.7 740 66.42 697.1
51           35.3 25.4 740 75.21 837.2
56 29.5 22.9 100 6.96 71.2 38.2 26.7 420 75.91 874.3
61           39.0 27.4 640 79.44 937.3
66 36.9 27.9 150 16.58 200.2 41.2 28.5 480 66.81 817.2
71           42.1 29.4 480 70.00 879.1
 
林齢 間伐率 収量比数 相対幹距 材積成長量
本数 材積 間伐前 間伐後 間伐前 間伐後 定期成長量 定期平均成長量 総成長量 総平均成長量
(%) (%) (%) (%) (m3) (m3yr-1) (m3) (m3yr-1)
31 16.3 7.6 0.71 0.65 15.9 17.3 494.2 15.9 494.2 15.9
36     0.68 0.68 16.4 16.4 111.1 22.2 605.3 16.8
41 16.4 7.9 0.73 0.66 14.8 16.1 113.6 22.7 719.0 17.5
46     0.68 0.68 15.5 15.5 69.6 13.9 788.5 17.1
51     0.71 0.71 14.5 14.5 140.1 28.0 928.7 18.2
56 13.5 7.5 0.74 0.69 13.8 14.8 108.3 21.7 1,036.9 18.5
61     0.70 0.70 14.4 14.4 63.0 12.6 1,100.0 18.0
66 23.8 19.7 0.71 0.62 14.0 16.0 80.1 16.0 1,180.1 17.9
71     0.63 0.63 15.5 15.5 61.9 12.4 1,242.0 17.5

注) haあたり。間伐率・収量比数・相対幹距・材積成長量は枯損木を含まず。残存木平均樹高を上層樹高とみなす。

graph
図-1 試験地の成長経過と収穫表I等との比較

スギ人工林の収穫量におよぼす間伐強度の影響
―滑山スギ収穫試験地調査報告―

細田和男(経営研究室)

1. 試験地の概況

滑山(なめらやま)スギ人工林皆伐用材林作業収穫試験地は、近畿中国森林管理局山口森林管理事務所管内、山口県佐波郡徳地町滑山国有林11林班り小班に所在する。スギ人工林の成長及び収穫に関して調査する目的で、1938年に設定された。海抜高590~670m、東向きの谷の最上部に位置し、斜面傾斜角は20度、土壌型はBDである。本試験地は間伐強度の異なる3つの試験区に分かれており、斜面の下方から順に強度間伐区(0.264ha)、弱度間伐区(0.200ha)及び無施業区(0.126ha)が配置されている。これまでの試験経過は次のとおりである。

1909年 4月 新植、haあたり4400本 1956年 9月 第4回調査と間伐、46年生
1910~11年 補植、新植の12% 1959年10月 第5回調査と間伐、51年生
1909~14年 下刈、各年1回 1964年12月 第6回調査と間伐、56年生
1918・21年 除伐 1970年 3月 第7回調査、61年生
1933年 除伐・つる切り 1974年11月 第8回調査と間伐、66年生
1937年 間伐 1984年10月 第9回調査と間伐、76年生
1938年12月 第1回調査と間伐、30年生 1991年 9月 台風19号による被害発生
1943年11月 第2回調査、35年生 1991年12月 第10回調査(臨時調査)、83年生
1948年 9月 第3回調査と間伐、40年生 1999年10月 第11回調査、91年生

1999年10月に第11回調査を行った。調査内容は、胸高直径・樹高・枝下高・寺崎式樹型級区分の全数調査である。なお現地調査にあたっては、経営研究室 田中 亘 研究員の助力を得た。

2. 調査結果と考察

本試験地の最近3回の調査結果を表-1に示した。枯損木と間伐木を除いた残存木(主林木)の平均樹高は91年生現在、強度間伐区が35.7m、弱度間伐区が33.8mであるのに対し、無施業区が27.6mであった。無施業区は試験開始以来ほとんど無間伐であり下層木が多く含まれるため、樹高の大きい方から強度間伐区と同じhaあたり本数を抜き出して平均樹高を求めると31.0mになった。紀州地方スギ林林分収穫表(大阪営林局、1952)は80年生までしか調製されていないが、外挿して比較すると、強度間伐区と弱度間伐区は地位I等、無施業区は地位I等とII等のちょうど中間に相当すると判定され、尾根に近いほど地位が劣る傾向がある。

本試験地は1991年9月に本数率9.3%の台風害を受けたが、今回調査時点でも前回被害木の掛かり木による二次被害や、強風による葉量の著しい減少に起因すると思われる枯損が多数観察された。特に1991年の被害率が3試験区の中で最も高かった弱度間伐区は、最近8年間で60.2m3ha-1、本数率10.5%の枯損が生じ、枯損木を除く定期平均純成長量は6.9m3ha-1yr-1にとどまった。しかしながら、強度間伐区と無施業区の定期平均純成長量はそれぞれ17.5、14.2m3ha-1yr-1であり、枯損木の多発にもかかわらず、収穫表I等に比べても旺盛な材積成長を示していた。

91年生現在における残存木の平均胸高直径は、強度間伐区が51.1、弱度間伐区47.3、無施業区37.5cmであった。密度が低いほど平均サイズが大きくなる傾向が明瞭に現れた。また枯損木を含む91年生までの総粗成長量は順に1,752.5、1,578.9、1,435.0m3ha-1であり、密度が低いほど大きくなった(図-1)。一般的には、極端に高密度または低密度に管理しない限り、密度の相違は総収穫量に大差をもたらさないといわれている。しかし本試験地の場合は、そもそも試験の開始時点において現存量に差違があったこと、またその後わずかながら地位の差が生じたため、総粗成長量や総純成長量にやや大きな差を生じたものと考えられる。

本試験地は台風害により林分構造が攪乱され、人工林収穫試験地として正常な資料が収集できなくなったため、今回調査をもって試験を終了する。全期間にわたる林分成長経過は、滑山ヒノキ収穫試験地(1985年1月廃止)とあわせおって報告する予定である。

表-1 滑山スギ収穫試験地の調査結果
試験区 林齢 総林木 枯損木
平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計 平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計
(cm) (m) (m2) (m3) (cm) (m) (m2) (m3)
強度間伐区 76 44.5 32.0 489 79.30 1,063.6 37.9 30.6 15 1.73 22.6
83 48.6 32.9 402 77.99 1,056.2 48.7 32.9 15 2.93 39.7
91 50.8 34.9 386 82.33 1,176.7 45.4 17.7 19 3.28 20.3
弱度間伐区 76 39.0 28.7 665 85.89 1,080.7 26.7 24.3 45 2.59 29.2
83 44.2 30.2 500 82.16 1,055.8 36.1 27.8 70 7.73 95.7
91 46.8 32.7 430 78.66 1,075.5 42.7 22.9 45 7.16 60.2
無施業区 76 32.9 24.2 944 88.66 976.8 21.3 19.9 32 1.18 11.5
83 34.4 24.6 905 92.90 1,031.4 25.0 21.8 111 5.71 58.4
91 36.6 26.9 794 92.20 1,129.4 27.4 20.5 71 4.41 43.0
 
試験区 林齢 間伐木 残存木
平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計 平均直径 平均樹高 本数 胸高断面積合計 材積合計
(cm) (m) (m2) (m3) (cm) (m) (m2) (m3)
強度間伐区 76 37.0 30.3 72 7.90 103.0 46.1 32.4 402 69.67 938.0
83           48.6 32.9 386 75.06 1,016.5
91           51.1 35.7 367 79.06 1,156.4
弱度間伐区 76 30.0 25.9 115 8.34 97.1 42.4 29.8 500 74.73 952.0
83           45.6 30.6 430 74.43 960.1
91           47.3 33.8 385 71.50 1,015.3
無施業区 76 14.9 16.4 8 0.14 1.1 33.5 24.5 905 87.34 964.1
83           35.7 25.0 794 87.19 973.0
91           37.5 27.6 722 87.80 1,086.4
 
試験区 林齢 間伐率 収量比数 相対幹距 材積成長量
本数 材積 間伐前 間伐後 間伐前 間伐後 定期成長量 定期平均成長量 総成長量 総平均成長量
(%) (%) (%) (%) (m3) (m3yr-1) (m3) (m3yr-1)
強度間伐区 76 15.2 9.9 0.70 0.64 14.2 15.4 106.4 10.6 1,283.5 16.9
83     0.63 0.63 15.5 15.5 78.5 11.2 1,362.0 16.4
91     0.66 0.66 14.6 14.6 139.8 17.5 1,501.8 16.5
弱度間伐区 76 18.7 9.3 0.74 0.67 13.6 15.0 74.9 7.5 1,197.8 15.8
83     0.63 0.63 15.8 15.8 8.1 1.2 1,205.8 14.5
91     0.65 0.65 15.1 15.1 55.2 6.9 1,261.0 13.9
無施業区 76 0.9 0.1 0.78 0.78 13.5 13.6 82.8 8.3 970.5 12.8
83     0.74 0.74 14.2 14.2 8.9 1.3 979.4 11.8
91     0.76 0.76 13.5 13.5 113.4 14.2 1,092.8 12.0

注) haあたり。間伐率・収量比数・相対幹距・材積成長量は枯損木を含まず。残存木平均樹高を上層樹高とみなす。

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図-1 総粗成長量の比較

嵐山国有林試験地におけるサクラの生育状況

深町加津枝・奥敬一・大住克博(風致林管理研究室)

1. はじめに

1982年の「京都市近郊国有林野の取扱について」を基本とする京都営林署(当時)第4次地域施業計画により、嵐山国有林は風致に最も配慮する国有林として位置づけられ、往時の嵐山の姿を80年後に復元することが施業の目標とされた。その基本方針は、サクラやマツの植栽時に陽光を確保するため一ヶ所当たり0.1haの群状択伐を行う、保育を行い林相を改良する、風化した急斜面の安定化と防災対策を行うことなどである。そして、同年より毎年2月25日が「嵐山植林育樹の日」と定められ、京都営林署と嵐山保勝会とが共催する植樹祭が開始された。

しかしながら、実際には1989年まで禁伐の措置がとられ、疎開地に限定された植栽が行われていたため、サクラやマツの生育に十分な陽光が確保できなかった。そこで、1990年からは植栽地に毎年0.05haの面積での群状択伐が行われるようになった。そして、これらの植栽地は京都大阪森林管理事務所(旧:京都営林署)と森林総合研究所関西支所による共同試験地とされ、ヤマザクラの成育状況等の風致施業に関する基礎的なデータが収集されることとなった。本報告では、嵐山国有林試験地における1990~1995年の植樹祭において植栽された合計6箇所の試験地内のヤマザクラの生育状況を明らかにする。

2. サクラの生育状況

植樹祭におけるヤマザクラの植栽地は、主に嵐山国有林の北東部、標高200m未満の作業道沿いに集中する。その多くは渡月橋周辺の北斜面に位置したり、周囲を樹高20m前後の高木の常緑広葉樹に囲まれているほか、傾斜30度以上の急傾斜地で土壌が貧弱であるなど、生育条件の厳しい場所が多い。

図-1は試験地ごとにヤマザクラ各個体の樹高の変化を、図-2は胸高直径の変化を示す。植樹祭が開始された1990年を試験地1とし、以後年代順に試験地の番号をつけた。試験地1、2の植栽はそれぞれ1990、1991年であったが、樹高と胸高直径の計測は翌年より開始した。それ以外の試験地では植栽年より開始した。植樹祭におけるヤマザクラの植栽本数は10本である。試験地3では植樹祭に加え、植樹祭と同年の作業道の建設時に6本の大苗が加わったため、合計16本のヤマザクラが植栽された。

表-1は、各試験地ごとの初年度の植栽本数に対する各年度のヤマザクラ枯死率を示した。試験地1、2、4では現在までの枯死率が20%以下であり、高い生存率を示している。これらが尾根部に位置することや、試験地1と4が隣接することによる開空度の向上など、比較的日照条件がよいことが要因として考えられる。試験地5では、植栽年の夏における干ばつにより10本中6本のヤマザクラが枯死した。また試験地6では、植栽後4年間に8本が枯死しており、これは主に植栽後のシカやサルによる被食、枝折れなどの被害、被陰による日照不足が原因と考えられる。その他の試験地において前年よりも樹高が低くなった主な原因はサルによる枝折れであった。

植栽時あるいは植栽翌年の樹高は330~740cmであり、500cm前後の苗が多かった。植栽時あるいは植栽翌年の胸高直径は3~7cmであり、5cm前後が多かった。そして、植樹時に樹高が高く胸高直径が大きい苗の方がその後の枯死率が低くなり、植栽後5年以降に胸高直径、樹高が大きく増加する傾向が見られた。

渡月橋周辺の北向き斜面、川沿い~中腹の森林での小面積皆伐に限定された以上のような植栽は、ギャップ依存種かつ陽樹であるヤマザクラの良好な生育、更新には不向きである。しかしながら、試験地1や試験地3などでは、現在の樹高が800cmをこえた個体を中心に開花が確認されることなどから、今後の風致施業、管理によって将来的には風致資源として重要な役割を果たす可能性があると考えられる。そのためには、被陰などによる日照不足やシカやサルによる被害を最小限に押さえることが重要である。とりわけ植栽後の2年以内での枯死率が非常に高くなっており、この時期での重点的な管理作業が求められる。そして、植樹が行われた試験地においてヤマザクラの成長を定期的、かつ長期に把握し、今後の具体的な風致施業のあり方、さらには風致計画を考える必要がある。

表-1 初年度の植栽本数に対する各年度のヤマザクラ枯死率(%)
  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目
試験地1 0 0 0 0 0 0 0 0   10
試験地2 0 0 0 0 0 20 0   0  
試験地3 25 13 0 0 0 6   0    
試験地4 0 10 0 10 0   0      
試験地5 60 0 0 0   0        
試験地6 0 70 0   10          

注) ブランクは調査がおこなわれなかった年を示す

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図-1 試験地1~6におけるヤマザクラの樹高の変化
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図-2 試験地1~6におけるヤマザクラの胸高直径の変化