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有効な活用が期待される里山
日本の伝統文化を継承し、世界文化遺産に指定された数々の史跡を今日まで保全して来た関西地域は、卓越した自然観を背景とした社会の営みが、その領分をわきまえ、自然の有様と融合しながら形成されてきたものと想像されます。まさに、関西地域を舞台として自然と人とが共生してきた歴史が演じられてきたと言えます。しかし、その過程では、都市化とそれに伴う産業の創出並びに人口圧によって、自然生態系、中でもその面積の大部分を構成する森林生態系は、他地域に比べて波瀾万丈の分断化の時系列を辿ることとなったと思われます。すなわち、関西地域はわが国における先進開発地域であり、遷都や巨大寺院の建立に伴う木材需要に対応した森林の過度の伐採、製塩・窯業等の産業用並びに人口増加に伴う家庭用燃材採取などが相乗的に働き、古くから森林資源に対する開発圧が進展しました。そのため、資源の保続的観点から、早くから人工林化が進められ、優れた先進ブランド林業地を生みだしました。しかし、この反面、地域の貴重な自然生態系の断片化・孤立化が進み、昨今言われている生物多様性の低下が危惧される状況をも招来しているように見受けられます。こうした状況下にあって、関西地域でも特に都市化・工業化が進んだ地域では、現存する森林の環境資源・文化資源としての機能の高度発揮への期待が高まっております。一方、先進林業地として多様な林業経営方式が展開されてきた関西地域においても、時代に沿った生産技術の体系化や経営管理方式の確立が望まれています。戦後、拡大造林政策の元で植林され、膨大な蓄積量を抱えることになる並材生産林の取り扱い、先進林業地を含めた未経験の病虫獣害の発生や伐出作業の機械化、材価低迷に基づく手入れ放棄による放置人工林の問題など、多くの問題を抱えているのが現状です。
一方で、都市住民の森林との関わりを求める意識の高揚とボランティア活動等の組織化が促進され、都市住民との交流を通じての森林の環境資源、保健休養、教育・文化資源としての機能発揮への期待が高まる一方です。
これらの問題を解決するためには、地域特性に応じた森林のもつ諸機能の解明とそれらに基づく機能の総合発揮のための評価手法の開発と管理・計画手法の開発研究の深化が求められています。
このような地域特性に対応した研究を実施するために、平成11年度も3大課題の下で「風致林・都市近郊林生態系の機能、都市近郊林の水土保全機能、森林の風致及び環境形成機構、断片化した森林生態系の維持・遷移機構の解明」、「多様な森林施業技術及び森林の生物害管理技術の高度化、持続的林業経営方式の体系化」、及び「地域森林資源管理手法と森林資源の総合的利用、地域森林・林業と気候変動の関連解明」などに関する調査研究を実施し、それぞれに有効な知見、提言に関わる成果を得ております。本年報は、平成11年度の当支所における研究課題一覧表、試験研究の概要、主要な研究成果、研究資料、及びその他関連資料を取りまとめたものです。これらの成果が皆様の業務にいささかでもお役に立てば幸甚に思います。
平成12年10月
森林総合研究所関西支所長 真島征夫
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