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・優良苗の活用事例がまとまりました。 ( エリートツリーを活かす育苗と育林、施業モデル 、 クリーンラーチ・カラマツ類の優れた成長を活かす育苗と育林、施業モデル 、 エリートツリーで下刈省略 ~試験研究事例集~ 、 優良種苗のよりよい育成・利用に向けて )
・林業の省力化・低コスト化に貢献するツール群(I-Forests)を公開しました。 ( I-Forests 紹介ページ )
・上記の結果の組み合わせにより、30%以上の低コスト化の可能性を示すことができました。 ( 成果紹介ページ )
・発表業績をまとめました。 ( 発表業績のページへ )
👉 スギコンテナ苗育成の留意点として形状比(苗高/ 根元径)が高いことによる植栽後の成長不良が指摘されてきました。そこで、エリートツリーから採取した種子で1年生コンテナ苗を育成し、苗木の出荷規格とその後の樹高、形状比を比較したところ、苗木の形状が初期成長に及ぼす影響は小さく、従来の流通苗同様の苗木形状で良好に成長しました。
👉 1成長期で播種から出荷までを行う1 年生スギコンテナ苗の育成について、基本培土をヤシガラとした場合を事例とし、その元肥の施肥濃度を検討しました。調査の結果、育苗環境ごとに得苗率が高い元肥の施肥濃度が存在しました。また、育苗環境の温度により肥料混入量の調整が必要なこともわかりました。
👉気温を元にしてスギコンテナ苗の生育状況を予測できると、苗木生産事業のための各種作業に必要な人員の確保や苗木の需給調整を効率的に行うことができると考えられます。そこで、種子発芽時期および苗高成長と温度との関係を調べました。今回の成果から、気象庁が公開している気温データによる作業計画の策定が可能になると期待されます。
👉酸化型グルタチオン(GSSG) は、多くの植物の成長促進に有効なことが認められていますが、その造林地への施用効果について検討しました。GSSGを含む肥料で育苗したスギの苗木は、植栽後の生存率が高く、樹高成長もGSSG を与えない場合に比べて早くなりました。
👉非破壊的に測定できる種子品質を表す指数であるSQI によって、苗木の成長が異なることが明らかになってきました。SQI を基にして種子品質グレードを定めると、同じグレード内での成長のばらつきは小さく、得苗率の向上が期待できました。また、エリートツリー由来の種子品質は良く、従来の精英樹や少花粉系統の実生苗に比べて、苗の成長が早いことも分かりました。
👉スギエリートツリーの苗木は、初期の樹高成長に優れていることが期待されます。そこで、試験地に植栽されたスギエリートツリーのさし木苗の系統ごとの樹高成長を調べました。各系統の樹高成長には差がありましたが、いずれの系統も既存の系統に比べて遺伝的に樹高成長が優れていることがわかりました。
👉スギ苗木の樹高成長は、マクロな立地環境要因とともに、ミクロな要因の影響を受けます。試験地に植栽されたスギエリートツリーのさし木苗の樹高成長とミクロな要因との関係を検討した結果、樹高はTWIの影響を最も強く受けていること、また、その関係性は系統によって違うことがわかりました。
👉スギエリートツリーのさし木苗の初期成長を知るため、試験地の苗木の樹高と苗木の精密な植栽位置から得られるTWIを説明変数として、植栽場所における初期の樹高成長(1年次から8年次)を表現するモデルを検討しました。
👉植栽したスギの樹高成長は、スギの梢端部が埋もれた時に顕著に低下することがわかっています。そこで、スギが競合植生に覆われなくなる樹高を調べました。また、下刈り終了後に再び木本性の競合植生に覆われないのかについて調べ、競合植生のタイプごとに、下刈り要否を判断する樹高の目安を明らかにしました。
👉植栽場所に応じた下刈りスケジュールを選択することが、植栽木の成長を低下させずに下刈り回数を削減する鍵です。立地や系統によってスギの成長は異なります。スギ植栽木の成長の良い立地を選び、特定母樹など成長に優れた苗木を利用することで、下刈り回数を削減できる可能性があることがわかりました。
👉スギの系統と立地によって、下刈り回数が異なるかどうか検証しました。初期成長の早い系統を植栽することで、下刈りを早く終了できる可能性がありそうです。特に、特定母樹などの成長能力をより発揮できる立地の良い場所では、競合植生との競争に有利で、下刈り回数を削減できる可能性があることがわかりました。
👉植栽木や競合植生の高さは、同じ造林地のなかでも地形などの影響を受けています。そのため、下刈り要否の判断をする代表地点を決めることが困難でした。そこで、ドローンを使って、造林地内の植栽木や競合植生の高さの分布や、下刈り判断の目安となる競合状態(C1〜C4)を把握する方法を開発しました。
👉植栽密度を下げると、林冠閉鎖のタイミングが遅れることがわかりました。競合状態に基づく下刈り判断基準を用いると、下刈りは林冠閉鎖前に終了となるため、下刈り回数が増加する可能性は小さいと考えられますが、下刈り終了後のツル植物の繁茂や除伐コストが増加する可能性があります。
👉高下刈のポイントは、雑草木を高い位置で刈払うことで、植栽木への被圧強度を下げながら、林地にシカの餌となる雑草木の一部を残すことになります。植栽1 ~ 2年目の高下刈は、普通下刈と比べて1.5 倍くらいの作業効率となりました。シカ被害は減少しましたが、実用化のためには、十分な効果を発揮させる条件を明らかにする必要があります。
👉コウヨウザンは、成長が早くスギと同等の材質を示すことから、西日本の新たな造林樹種として期待され、各地で試験的な植栽が行われていますが、場所によってはノウサギの激しい食害が報告されています。しかし、苗木が成長してある程度のサイズになると、被害を受けにくくなります。ここでは、被害の程度に合わせた様々な防除方法を紹介します。
👉成長に優れた苗木を用いた場合、低密度植栽や下刈り回数の省略により初期保育の低コスト化が期待できる一方で、年輪幅が広くなることなど成長の速さが木材の強度性能に影響を及ぼし、木材の価値が低下することが懸念されます。そこで、成長が速いスギの強度性能を調べた結果、利用上の問題がないことがわかりました。
👉エリートツリー等を用いた施業支援する3 種類のツール;I-Forests を開発しました。TWI 等の情報から林地の生産力を推定し図化するI-Forest.GE。森林簿や航空機レーザー計測の情報を基に計画立案を支援するI-Forest.FV。植栽地の下刈りの要否を判断するI-Forest.CA。これらのツールを上手に活用することにより、再造林コストの削減に寄与できます。
👉エリートツリー等の初期成長の良い苗木は、従来の苗木と比較して、立地を選択することによって、下刈りを1〜2回削減することができそうです。一方、初期成長の良い苗木は、樹高に対して樹冠幅が細い傾向があり、現時点ではエリートツリーの活用によって積極的に植栽密度を減らすことは難しいといえそうです。
👉I-Forest.FV のコスト計算機能を使い、下刈り回数、植栽密度等の条件により、再造林費用がどこまで削減可能かシミュレーションしました。その結果、従来から実施されてきた一貫作業システムによる機械地拵えや低密度植栽に加え、エリートツリー等の成長に優れた苗木による下刈り回数の削減によって、再造林コストを3割削減できる可能性があることが分かりました。
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