成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発

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成長に優れた苗木の育苗技術の高度化

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成長に優れた苗木による施業モデルの構築

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成果リスト

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課題3:成長に優れた苗木による施業モデルの構築

(1) 将来の利用を見越した材質・加工特性評価

成長が早いスギの強度性能を解明

樹木の成長と木材の強度性能との関係

木口のヤング率分布図

図ー37 横断面におけるヤング率の分布

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木材の中で、幹の中心から10 ~15年輪までの若い時期に形成された部分を未成熟材部と言い、その外側の成熟材部と比較して強度性能が全般的に劣ります。例えば、材料のたわみにくさを示す指標であるヤング率は、未成熟材部の方が成熟材部よりも小さくなります(図37)。成長が早いスギでは、未成熟材部の幹(断面)に占める割合が多くなり、また年輪幅も広くなることから、木材の強度性能が低下する懸念があります。

成長が早いスギ

佐賀県では、スギ精英樹同士の人工交配によりF1個体を作出し、①成長、②材の強度、③雄花量、④挿し木発根率を総合評価してF1個体の選抜を行っています。エリートツリー等の成長に優れた苗木の植栽は始まったところであり、成木が得られないことから、これらのF1個体を中心として佐賀県に植栽された成長の早いスギ(樹齢30年、平均胸高直径26.8cm)を用いて強度試験を行いました。

成長が早いスギの強度性能

成長が早いスギから得られた枠組壁工法用製材(図38;断面寸法38mm×89mm)の強度試験を行った結果、枠組壁工法用製材のヤング率と曲げ強度(破壊時の応力)との間には相関が見られ、曲げ強度はほぼ全ての試験体で基準強度を上回りました(図39)。これにより、成長が早いスギから得られた製材品の強度性能は、利用上問題がないことがわかりました。

枠組み工法用製材写真

図ー38 成長が早いスギから得られた枠組壁工法用製材

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製材強度試験結果グラフ

図ー39 枠組壁工法用製材の強度試験の結果

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(2) 施業モデル構築のための評価支援ツールの開発と普及

3 階建ての施業計画支援ツール I-Forests の開発

施業計画支援ツール I-Forests

今回開発した支援ツール(I-Forests)は、植栽前の計画立案を支援するI-Forest.GE およびI-Forest.FVと、植栽後の下刈り要否を判断するI-Forest.CAの3つのツールで構成されています(表ー1)。エリートツリー等の成長の優れた苗木の成長は、地位の高い場所ほど早いことが期待されます。地位は、伐採前であれば林分調査により推定は可能ですが、伐採前樹高等の情報がない皆伐跡地では推定が困難です。また、市町村全域といった広範囲での地位を林分調査により推定するのは、労力・コストを考慮すると非常に困難です。このようなケースに対応するためにTWI等の地形指標から苗木の初期成長を推定するI-Forest.GEを開発しました。また、航空機レーザー計測等による伐採前の測量データがある場合は、I-Forestsの中核ツールであるI-Forest.FVの活用が有効です。I-Forest.FVは、森林の現況から再造林コストの試算、収穫予想を対話的に行い、植栽密度や下刈回数の低減といった低コスト・省力的な施業プランの検討を支援します。植栽後の下刈りの要否については、現場の状況によって変わります。そこで、観察時点のスギの樹高、競合植生のタイプや高さから、その年の下刈りの要否を判断するI-Forest.CAを開発しました。これらの3つのツールからなるI-Forestsをうまく活用すれば、立地とエリートツリーの特性にあった施業プランの作成と実行、そして修正が可能となります。

3つのI-Forests、および密度管理図に基づく土地希望価値基準判定ツール(LEVonSDM)の詳細については、それぞれ解説ページを用意していますので、下記の概要に貼られたリンク先をご参照ください。

表ー1 I-Forests の各ツールの特徴

今後の展開

今後は、開発したツールの普及を図るとともに、エリートツリーの特性や立地環境条件に関する新たな研究成果を反映したモデルの精緻化を継続し、またユーザーの意見を聞きながらより使いやすいツールの開発を行っていく予定です。

GIS と連携した施業計画支援ツール(I-Forest.FV)

ツール開発の目的

今回開発した支援ツール(I-Forests) は、植栽前の計画立案を支援するI-Forest.GE およびI-Forest.FVと、植栽後の下刈り要否を判断するI-Forest.CAの3つのツールで構成されています(表ー1)。エリートツリー等の成長の優れた苗木の成長は、地位の高い場所ほど早いことが期待されます。地位は、伐採前であれば林分調査により推定は可能ですが、伐採前樹高等の情報がない皆伐跡地では推定が困難です。また、市町村全域といった広範囲での地位を林分調査により推定するのは、労力・コストを考慮すると非常に困難です。このようなケースに対応するためにTWI等の地形指標から苗木の初期成長を推定するI-Forest.GEを開発しました。また、航空機レーザー計測等による伐採前の測量データがある場合は、I-Forestsの中核ツールであるI-Forest.FVの活用が有効です。

I-Forest.FVは、森林の現況から再造林コストの試算、収穫予想を対話的に行い、植栽密度や下刈回数の低減といった低コスト・省力的な施業プランの検討を支援します。植栽後の下刈りの要否については、現場の状況によって変わります。そこで、観察時点のスギの樹高、競合植生のタイプや高さから、その年の下刈りの要否を判断するI-Forest.CAを開発しました。これらの3つのツールからなるI-Forestsをうまく活用すれば、立地とエリートツリーの特性にあった施業プランの作成と実行、そして修正が可能となります。

森林資源情報や各種地理空間情報を活用

I-Forest.FV のイメージ

図ー40 I-Forest.FV のイメージ

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近年では、森林域における航空レーザー測量が進められ、その成果は都道府県等が整備する森林簿等のデータに反映されつつあります。また、様々な地理空間情報の整備と公開も進められています。本ツールではこれらのデータを活用し、地図上の任意の場所をクリックするなどの簡単な操作で、スギやヒノキの人工林や広葉樹林の分布、路網開設状況等に加えて、対象林分の林齢、材積等の情報を表示することができます(図40)。また、スギ、ヒノキの人工林については、丸太価格、労賃、植栽密度、下刈り回数等をユーザーが設定し、主伐収入と、シカ対策、植栽、下刈り、除伐といった再造林初期の経費を対話的に試算できます。さらに、従来のシステム収穫表と同様に、間伐や主伐のシナリオに応じて収穫量を予測することができます。このような一連の機能により、地域の森林の現況と植栽から収穫に至るまでの人工林施業全体を見渡しながら、今後の人工林の取り扱いや低コスト・省力的な施業プランを検討することができます。

初期保育に特化した施業計画支援ツール(I-Forest. GE & CA)

初期保育期間の成長量を予測する(I-Foret.GE)

I-Forest.GEの出力イメージ

図ー41 I-Forest.GE の入出力画面のイメージ

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I-Forest.GE は、ウェブブラウザ上で利用可能な地形指標に基づいた苗木および競合植生の成長予測ツールです。ウェブサイトにアクセスした後、TWIのgeoTIFF画像を読み込こむことで、成長予測モデルに基づく通常苗およびエリートツリー苗の成長予測を図示します(図41)。さらに、競合植生のタイプ・下刈り頻度を設定することで、苗木の被圧状況の経年変化を推定できるツールです。このツールはウェブブラウザ上で可動するため、パソコンだけでなくタブレットなどでの利用も可能です。またブラウザのキャッシュ利用により、施業現場などオフライン環境での利用も可能です。さらに成長予測モデルの将来的な更新に際し、他の地形情報などの活用にも対応できます。

現場で成長予測と下刈り要否を判断する(I-Forest.CA)

I-Forest.CA のイメージ

図ー42 I-Forest.CA の入出力画面のイメージ

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伐採前に植栽後の競合植生のタイプを予測することは容易ではありません。また、GIS などを使って事前にスギの成長を予測しても、現場では異なることがあります。I-Forest.CAでは、 九州地域でのスギの初期成長曲線を用いて、観察時点のスギの樹高、競合植生のタイプや高さを入力することで、その林地における翌年までの成長量を予測し、その年の下刈り要否および終了の判断ができるツールです(図42)。このツールは、iOSで動作可能で、現場でスマートフォンやタブレットに必要な情報を入力することで、その場所でのスギの成長の良し悪しなどを確認することができます。また、非常に簡単なシステムでできているため、対象地域や系統にあった成長式や競合植生タイプの情報に更新することでより精度の高いシステムにすることが可能です。

LEV に基づく林業経営判断を支援するツール LEVonSDM

LEVonSDeM は、土地希望価格(Land Expectation Value)に基づく林業経営判断をサポートするwebアプリケーションです。日本の代表的な林業樹種について、目標樹高、植栽コストを設定することで密度管理図から獲得材積が最大となる植栽密度を算出し、さらに伐採収支、連年成長量を設定することで正味現在価値(NPV)、LEVを計算します。それぞれの設定項目はスライダーで自由に変更でき、計算結果はインタラクティブに表示されますので、設定項目と林業採算性の関係性の把握に最適です。

エリートツリーを使った初期保育モデル

立地を選んで下刈り回数を削減する

表ー2 優良系統を使った場合の下刈り削減のイメージ
下刈り削減イメージ

下刈り要否の判断基準は、地位や競合植生のタイプによって異なります。これらの判断基準と九州での在来系統のスギの成長を照らしわせると4〜5回程度の下刈りは必要だと考えられました。一方、エリートツリー等の成長に優れた苗木は、立地条件の良い場所(従来のスギでも成長が良い場所)で、その成長能力を最大に発揮でき、これらの場所では下刈りを1〜2回早く終わらせることができそうです。つまり、I-Forestsなどを使って地位や伐採前樹高の高い場所などを抽出し、効果的にエリートツリーを活用することがポイントです。しかし、競合植生のタイプは、伐採前から予測することは難しく、植栽後には毎年、樹高や競合状態を観察しながら、その年の下刈りの要否を判断することが肝要です。その際に、ススキなどの非木本性か、アカメガシワなどの木本性なのかが判断基準になります。また一貫作業システムなどを組み合わせれば、植栽当年の下刈りを省略できる可能性があります。

植栽密度は議論の余地あり

現在、スギは2,500 本/ha程度で植栽されているケースがほとんどです。植栽密度の削減は、林冠閉鎖のタイミングが遅れることがわかりました。しかし、通常の下刈りは林冠が閉鎖する以前に終了するため、植栽密度の削減によって下刈り回数が変わることはないと考えられます。しかし、林冠閉鎖の遅れによって競合植生がより繁茂し、ツル切りの必要性や除伐コストが増加する恐れがあります。また、エリートツリー等の成長の良い苗木の一部では、従来系統より、樹冠幅が狭い傾向がみられました。そのため、現時点において、エリートツリーを活用したとしても積極的に植栽密度を減らすことは難しいといえ、今後エリートツリーの収穫期までの成長を考慮して判断していく必要があります。

再造林コストのシミュレーション

再造林コストのシミュレーション

本プロジェクトでは、再造林コストの3割削減を実現するための施業体系の提案を目標に掲げています。再造林コストの削減手法として、人力による地拵えから一貫作業システムによる機械地拵えへの変更、植栽密度の削減、成長に優れた苗木による下刈り回数の削減を取り上げました。植栽密度は、九州地方で多く実施されている2,500、2,000本/ha、及び一部で実施されている1,500本/ha、下刈り回数については、エリートツリーの早い成長下刈りスケジュールを考慮して2〜5回、苗木はスギコンテナ苗としました。表ー3にシミュレーション結果の概要を、図ー43に工程別シミュレーション結果と表ー4にシミュレーションを行うために使用した費用に関する積算根拠を示しました。従来からよく行われてきた施業モデルAとの比較では、再造林費用を3割以上削減するためには、植栽密度を2,000 本/ha以下まで下げることが必要であることが分かりました。下刈り回数は、植栽密度が2,000 本/haの場合は2回、1,500 本/haの場合は3回以下に削減する必要があることが分かりました。車両系を用いて皆伐を実施し、同時に機械地拵えを行う一貫作業システムの現場が、多く見られるようになってきました。そこで一貫作業システムを想定したモデルB1と比較すると、最も低コストのモデルD3で約35%の削減となりました。これらの結果から、従来から実施されてきた一貫作業システムによる機械地拵えや低密度植栽に加え、エリートツリー等の成長に優れた苗木による下刈り回数の削減によって、再造林コストを3割削減できる可能性があることが分かりました。

表ー3 再造林費用のシミュレーション結果(補助金無し)
再造林費用シミュレーション結果表

シミュレーション結果の現場への適用

林業経費シミュレーション結果グラフ

図ー43 再造林費用の工程別シミュレーション(補助金無し)

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今回は10 のモデル(A からD3)を想定し、費用をシミュレーションしました。これから再造林を行う現場で、どのモデルを選ぶのか検討する際に重要なことは、「将来どのような森林に仕立てたいのか」、「植栽地はエリートツリーの適地なのか」ということです。将来の目標林型により施業体系は大きく異なります。特に施業体系に大きく影響を与える植栽密度の設定は重要です。また、エリートツリーを適地以外に植栽した場合、植栽前に期待した初期の樹高成長が得られず、下刈り回数の削減ができないことも考えられます。今回示した施業モデルに限らず、再造林を考える際には、現場の状況を正確に把握することが重要です。

表ー4 費用に関する積算根拠
費用積算根拠表

今後の課題

今後は、現場に最適な施業体系の提案ができるよう継続的に現場のデータを収集し、地位に対応した植栽試験の成績に注視する必要があります。特に低密度植栽における除伐やツル伐りの掛かりましについては、新たな研究が必要となります。さらに成林後の樹形や風害等のリスク評価が可能なシステムの構築を目指します。