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プレスリリース


2018年1月25日
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

小笠原諸島に固有の海鳥をDNA分析で発見 ―セグロミズナギドリとされていた小笠原の海鳥は全くの別種だった

ポイント

  • 小笠原のセグロミズナギドリは、これまで世界に広く分布する種の1亜種とされていましたが、小笠原諸島の固有種であることを発見しました。
  • この鳥の繁殖が確認されているのは、小笠原諸島の東島と南硫黄島という2つの島だけです。
  • 歴史的にはオガサワラミズナギドリと呼ばれていたこともある小笠原を代表する鳥であり、この和名の復活が期待されます。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、国立大学法人北海道大学、NPO法人小笠原自然文化研究所と共同で、小笠原諸島のセグロミズナギドリ1)が、他地域とは遺伝的に異なる固有種であることを明らかにしました。
この鳥は約100年前に発見され、当初は“オガサワラミズナギドリ”という名の固有種として分類されていました。その後、分類については十分な科学的根拠を伴わないまま議論され、最近では世界に広く分布するセグロミズナギドリの亜種であると考えられていました。小笠原諸島のセグロミズナギドリは南硫黄島と東島2)という2つの小さな無人島でしか繁殖が確認されておらず、外来動物であるネズミによる捕食や、外来植物による営巣環境の劣化が大きな脅威となっているため、環境省が絶滅危惧IB類に指定する希少種です。
今回、私たちはこの鳥のDNAを分析し、広域分布種セグロミズナギドリとは遺伝的に異なる固有種であるということを科学的に証明しました。この結果は新種発見に匹敵する意義を持ち、特に世界自然遺産地域小笠原における隠れた固有種の発見は、この地域の価値をさらに高めるものと言えます。この鳥の生態や分布についてはまだ不明な点も多く、保全のための研究を進める必要があります。
本研究成果は、2018年1月26日にOrnithological Science誌で公開されます。

背景

小笠原諸島の森林で繁殖するセグロミズナギドリ(図1)は、1915年に新種として発見され、その当時は“オガサワラミズナギドリ”という和名で呼ばれていました。しかし、この鳥の分類はその後に二転三転し、似た外見をしているヒメミズナギドリやセグロミズナギドリなど広域に分布する種と同種と考えられるようになりました。最近では大西洋やインド洋にも分布するセグロミズナギドリの1亜種とみなされることが多く、“オガサワラミズナギドリ”の名は使われなくなりました。しかし、いずれの場合も十分な科学的根拠はなく、この鳥の系統関係は謎に包まれていました。
一方、この小笠原の集団は、戦前には北硫黄島で繁殖していた記録があるものの、戦後は繁殖地が一切見つかっていませんでした。2007年にようやく南硫黄島と東島という2つの小さな無人島の森林内で繁殖が確認されましたが、分布の狭い集団であることから、環境省により絶滅危惧IB類に指定されています。この鳥の保全上の地位を明らかにするためにも、その系統的な位置を解明することが課題となっていました。

 

南硫黄島で繁殖するセグロミズナギドリの写真
図1.小笠原諸島の“セグロミズナギドリ”。南硫黄島の繁殖地で撮影。

内容

小笠原諸島の人の住む島で保護された個体と、南硫黄島の繁殖地で捕獲した個体の合計10個体からDNAを抽出し、世界各地のミズナギドリ類と比較しました。
その結果、小笠原の集団は海外に分布するヒメミズナギドリやセグロミズナギドリなどとは全く別系統であり、実は小笠原に固有の海鳥であることがわかりました(図2)。つまり、小笠原に固有の“オガサワラミズナギドリ”とされていた最初の分類が正しかったのです。また、小笠原の集団はハワイ諸島やフランス領ポリネシアなどに分布する種と近縁でした。これらの他地域の種とは80万年以上前に分化したと考えられます。
小笠原諸島ではセグロミズナギドリ以外に5種のミズナギドリ類の繁殖記録がありますが、そのうち小笠原でしか繁殖していない固有の種は、2012年に見つかったオガサワラヒメミズナギドリのみでした。今回の発見は隠れていた固有種の発見を意味し、世界自然遺産地域としての価値を高めるものと言えます。
なお、南硫黄島の試料は東京都による調査により得られたものです。

 

図2 小笠原の“セグロミズナギドリ”と他のミズナギドリ類の系統関係

図2.小笠原の“セグロミズナギドリ”と他のミズナギドリ類の系統関係。それぞれの種は学名(種小名)で表し、主要な種のみ和名を記した。*:和名がないため仮称を付した。

今後の展開

この鳥の既知の繁殖地が2カ所しかないのは、外来のクマネズミによる捕食が原因だと考えられます。繁殖地の南硫黄島と東島はネズミが分布していない、数少ない島ですが、他のほとんどの島には外来のネズミがいるため小型ミズナギドリが繁殖できません。
小笠原の集団が固有種であるということは、ここで絶滅すれば世界からこの種が消滅することを意味します。このため、繁殖地が限られているこの鳥の保全上の優先度は、これまで考えられていた以上に高いと言えます。絶滅を回避するには、捕食者となるネズミや環境を悪化させる外来植物を駆除し、積極的に自然再生を進めなくてはなりません。
近年、小笠原の無人島で新たな海鳥の分布の発見が相次いでいますが、これはこれまでに無人島の調査が十分に進んでいなかったことが一因です。無人島で繁殖するこの鳥の生態はまだ謎に包まれているため、保全を行うためには営巣に適した環境の解明など基礎的な研究を進める必要があります。
小笠原の集団はもともと“オガサワラミズナギドリ”と呼ばれ、小笠原を代表する鳥でした。この鳥が“セグロミズナギドリ”と呼ばれるようになったのは広域分布種の1亜種とみなされたためであり、1974年以降のことです。今回の成果により小笠原の“セグロミズナギドリ”は広域分布種セグロミズナギドリではないことが明らかになったため、もとの“オガサワラミズナギドリ”の名を回復することも検討する必要があります。ただし、現在は“セグロミズナギドリ”の名称が広く使われているため、混乱を招かないよう十分な議論が必要です。

論文

タイトル:Phylogenetic position of endangered Puffinus lherminieri bannermani
著者:Kawakami K, Eda M, Izumi H, Horikoshi K & Suzuki H
掲載誌:Ornithological Science, 17(1), 11−18(2018年1月)
研究費環境省環境研究総合推進費「小笠原諸島の自然再生における絶滅危惧種の域内域外統合的保全手法の開発」(4−1402)、文部科学省科学研究費補助金基盤A「生態系機能の持続可能性:外来生物に起因する土壌環境の劣化に伴う生態系変化」(18370038)

共同研究機関

国立大学法人 北海道大学
NPO法人 小笠原自然文化研究所

用語の解説

1)小笠原諸島の“セグロミズナギドリ”
体長約30cm、翼開長約70cm。上面が黒色、下面が白色の小型ミズナギドリ。海外のセグロミズナギドリに比べ、翼の下面の白色部が広い。小笠原では低木林などで繁殖していると考えられる。

2)東島
父島の東隣に存在し、海鳥等の生息環境保全のため林野庁により外来植物駆除事業が行われている。セグロミズナギドリと同じく世界的希少種であるオガサワラヒメミズナギドリの営巣が見つかっている唯一の島。

参考:「ついに発見!オガサワラヒメミズナギドリの営巣地−謎の希少鳥類は、小笠原の国有林に生き残っていた」(2015年3月24日、プレスリリース)
http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2015/20150324/index.html

 

お問い合わせ先

研究推進責任者:
森林総合研究所 研究ディレクター 尾﨑 研一

研究代表者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 川上 和人

広報担当者
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係 TEL:029-829-8372e-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp


 

 

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所属課室:企画部広報普及科広報係

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