令和6年版 研究成果選集 2024

森林総合研究所では、森林・林業・林産業という幅広い分野から、毎年数多くの研究成果を挙げています。その中から、今後、利活用が期待されるテーマを選び、このたび「令和6年版 研究成果集 2024」として発行、掲載しています。         令和6年版 研究成果選集 2024を一括ダウンロード（PDF：8,570KB）

 

重点課題1 環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発

ア 気候変動影響の緩和及び適応に向けた研究開発

• 熱帯低地林における択伐後の地上部現存量と細根現存量の回復状況を明らかに（PDF：824KB）
  熱帯林の伐採からの回復過程を明らかにするため、ボルネオ島の森林を対象に地上部と地下部現存量を調べた結果、択伐からの経過年数が長いほど、いずれの現存量とも伐採履歴のない原生林の値に近づくことが明らかになりました。
• 違法伐採対策を最優先する場所はどこ？—カンボジアREDD+プロジェクトへの貢献—（PDF：1,600KB）
  REDD+プロジェクトの森林減少・劣化抑制効果を高めるために、違法伐採が住民の生計維持に影響しやすい区域を予測する手法を開発しました。これにより、どこから優先的に違法伐採を予防していくとよいか地図化できるようになりました。

イ 森林生物の多様性と機能解明に基づく持続可能性に資する研究開発

• 北日本天然林の多様な樹種が健全に生き永らえる寿命を明らかに（PDF：528KB）
  北日本の主要樹種を対象に健全に生き永らえる年数の目安を推定し、700年以上生きる長命グループ（ミズナラなど）、100年をなんとか超える短命グループ（シラカンバなど）、中間のグループ（ブナなど）に区分できることを明らかにしました。
• 植物に有毒なアルミニウムを無毒化するタンニンの生合成経路を一部再現（PDF：727KB）
  酸性土壌では、主にアルミニウムが植物の生育を阻害します。アルミニウムを無毒化する加水分解性タンニンの中間代謝産物を、本来タンニンを蓄積しない草本植物ベンサミアナタバコの葉で作らせることに成功しました。
• 保持林業の実証実験—初期の成果から人工林における保持林業を提案—（PDF：616KB）
  北海道の大規模実験の成果から人工林で保持林業を実施する場合、単木保持では広葉樹を10本 /ha以上、できれば50本/ha以上残すこと、群状保持と単木保持は組み合わせると効果的であることを提案しました。

ウ 森林保全と防災・減災に向けた研究開発

• きのこ原木の放射性セシウム濃度の効率的な予測には統計情報の活用が重要（PDF：860KB）
  きのこ原木の放射性セシウム濃度の指標となる当年枝データを解析し、濃度予測値は調査区によらず一定のばらつきをもつとみなすことができ、予測のため当年枝を採取する個体数は少数でもよいことが分かりました。

• ドローンを活用した新たな技術により国内最大級の雪崩の発生要因を推定（PDF：1,106KB）
  雪崩災害の翌年以降に行ったドローンによる積雪分布調査から降雪や吹雪の積雪分布への影響の傾向を見いだして、大規模雪崩発生当時の積雪状態や流下しうる積雪層の厚さを推定できました。

重点課題2 森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発

ア 林産物の安定供給と多様な森林空間利用の促進に資する研究開発

• ドローン空撮画像から下刈りの要否を判断（PDF：1,437KB）
  ドローンを活用した苗木と雑草木との競合評価手法を開発しました。ドローン空撮画像から90%程度の精度で苗木を自動抽出し、雑草木との競合状態を判定することで、下刈りの必要な場所を地図上に示せます。
• 地形条件と道路の幾何構造から見る路網整備の難易度を地図化（PDF：1,367KB）
  林業専用道と森林作業道について、路網整備の難易度を明示する地図表現手法を開発しました。
• 環境配慮意識と生態系サービス保全の関係性を解明（PDF：1,154KB）
  森林がもたらす生態系サービスの保全と木材生産を両立していた地域を特定し、聞き取り調査を行ったところ、環境への配慮に高い意識を持った林業事業体が伐採に携わっていることが分かりました。
• 多様な林業労働力の確保に向けた施策の動向と促進対策の課題（PDF：947KB）
  近年の施策を通じて多様な林業労働力を確保しようとする動きが活発となる中、多様な労働力確保をより推し進めていくためには、労働者の特性に応じた安全な環境整備や評価が重要です。

イ 生物特性を活用した防除技術ときのこ等微生物利用技術の開発

• 東日本のナラ枯れの被害域拡大を引き起こしているカシノナガキクイムシの由来を遺伝情報から明らかに（PDF：768KB）
  ナラ枯れ被害発生に関わるカシノナガキクイムシのDNA分析の結果、東日本には複数の遺伝的に異なる集団があること、近年の被害域拡大は地元ではなく近隣被害地から移住した集団による可能性が高いことが分かりました。
• 日本に自生する白トリュフを継続的に発生させることに成功（PDF：1,114KB）
  日本に自生するトリュフの栽培化を目指した研究に取り組み、2022年11月に続いて翌年11月にも栽培試験地内で白トリュフであるホンセイヨウショウロを発生させることに成功しました。

ウ 木材利用技術の高度化と需要拡大に向けた研究開発

• スギ大径材からの心去り平角の製材において、新たな設備投資を伴わないコスト低減策を提案（PDF：784KB）
  スギ大径材から心去り平角を2本製材する場合、後に製材する心去り平角は修正びきをしなくても目標寸法に製材できることを明らかにし、新たな設備投資を伴わない製材コスト低減策を提案しました。

• 安全で快適に歩ける木の床の条件を人の生理面から明らかに（PDF：1,144KB）
  歩きやすい床の条件について、4種類の木の床を歩行したときの足の筋肉の活動量を測定することにより調べた結果、床の表面性状や剛性、歩行時の履物の有無が複合して歩きやすさに影響することが分かりました。

エ 木質新素材と木質バイオマスエネルギーの社会実装拡大に向けた研究開発

• リグニン由来化合物からバイオプラスチック原料を大量に生産する技術を開発（PDF：947KB）
  バイオプラスチックや強力接着剤の原料になる2-ピロン -4,6-ジカルボン酸 (PDC)を、リグニンから製造されるバニリン酸を原料として、世界最高収量（100 g/L）で発酵生産する技術を開発しました。
• 関東に分布するヤナギで、豚ぷん堆肥の施用効果を実証（PDF：1,011KB）
  関東に分布するオノエヤナギとタチヤナギの2種について、地域で安価に入手できる豚ぷん堆肥の施用により、ヤナギの栽培実績のある欧州での目標値（10 t/ha/年）を上回る栽培が可能なことを実証しました。

重点課題3 多様な森林の造成・保全と持続的資源利用に貢献する林木育種

ア 林木育種基盤の充実による多様な優良品種の開発

• 画像認識でクロマツ雌花の開花ステージを判定（PDF：1,463KB）
  連続的に変化する雌花の発達段階を示す開花ステージの判定について、人の目視ではなくAI（深層学習）の画像認識を用いて判定したところ、正解率97％に達する精度の高いモデルが作成できました。
• 下刈りコスト削減に資する初期成長に優れた第2世代品種の開発（PDF：845KB）
  スギとカラマツのエリートツリーの中から初期成長に優れた品種を開発しました。カラマツについては、東北地方で初の品種開発です。これらの品種は下刈りコスト削減に資する優良品種として期待されています。

イ 林木育種技術の高度化・拡張と特定母樹等の普及強化

• 絶滅危惧種オガサワラグワ培養苗の新しい馴化手法の開発（PDF：1,870KB）
  小笠原諸島の森林を守るために、絶滅危惧種オガサワラグワの保全に取り組んでいます。本研究では、野生復帰の実現に向けて、効率的に培養苗を鉢上げできる飲料用ペットボトルを利用したPB馴化(じゅんか)法を開発しました。

• 系統選択に役立つ「エリートツリー特性表（九州育種基本区・スギ）」を公表（PDF：1,286KB）
  九州育種基本区の特定母樹に指定されているスギエリートツリーについて、これまでに得られたデータを解析して系統ごとの成長・材質・繁殖の特性を評価し、「エリートツリー特性表」として取りまとめ、公表しました。