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更新日:2010年6月1日

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自然探訪2008年11月 カジカエデ

カジカエデ(Acer diabolicum Blume ex Koch)

カナダの国旗に描かれているカエデの葉は、サトウカエデ(Sugar maple:Acer saccharum)、いわずと知れたメープルシロップを採取する木である。一般にカエデの仲間は、オオモミジなどを代表例として、切れ込みの深さや鋸歯の有無などの違いはあっても、人の手の平のような形状を思い浮かべるだろう。したがって、雪の結晶にも似たサトウカエデの葉の複雑な形状は、いかにも異国に育つカエデといった印象を持たせる。実際、北米大陸に分布するカエデの仲間には、この種の形状の葉を持つものが幾つかある。しかし、実はカエデ類の葉には、様々な形状がある。例えば日本のカエデでも、ヒトツバカエデは、その名の通り切れ込みのない単葉だし、ミツデカエデやメグスリノキは、三つの小葉からなる複葉である。意外かもしれないが、日本にもカナダ国旗にあるカエデの形状と極めて類似するカエデがある。カジカエデ(写真1)である。

カジカエデは、日本の固有種で、宮城県以南の本州、四国、九州の温帯地域に分布し、樹高が20mを超える落葉広葉樹である。名前の由来は、その葉の形状がクワ科のカジノキの葉に似ているところから来ているという。枝先に付く冬芽の数が8~12対と多いことが形態的な特徴に挙げられ、そこに着ける花の数も多い(写真2)。また、葉の大きさは日本のカエデ属の中では最も大きいと見られる。秋の紅葉期には、艶やかな赤色を呈するところから、近年、園芸用に植栽されることもあるが、まだまだ認知度は低い。

一方、カジカエデの種子は大きい。日本のカエデの中で最も種子サイズが大きいのはメグスリノキで、これは突出している(写真3)。次いでカジカエデで、これも他のカエデよりかなり大きい。面白いのは、この種子サイズの大きさの意味するところが、両種ではかなり異なることである。メグスリノキの場合、種皮はコルク質で厚く、容易には発芽しない。種皮の劣化を待って発芽するところから、埋土種子となって環境の好転を待つ戦略が取られているようだ。一方、カジカエデの場合は、他のカエデ属の種に比べても発芽条件はうるさくなく、簡単に発芽し、発芽率も高い。実際、カジカエデの母樹の近くには多数のカジカエデの実生群を見ることが出来る。つまり、最初から実生のサイズを大きくすることで、生存率を高めているように見える。また、両種とも共通して果実がビロウド状の毛に覆われているのも、偶然だろうが面白い(写真4)。

季節は秋、紅葉の季節だ。日本の昔ながらの伝統、もみじ狩りに出かけるのも風流である。その中で是非カジカエデを見つけて欲しい。

写真1
写真1

<写真2>
写真2


<写真3>
写真3

<写真4>
写真4

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