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更新日:2011年3月1日

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自然探訪2011年3月 寝姿丸見え -キバシリ(Certhia familiaris)のねぐら

キバシリ(Certhia familiaris

私たちと同様に、鳥も睡眠を必要としています。昼間に活動する鳥は、ほぼ日没から日の出までをねぐら(寝る場所)で過します。寝ている間は、外敵への対応がおろそかになりがちですので、ほとんどの鳥が外敵から見えにくい場所をねぐらとします。ヒヨドリやエナガなどは葉が覆い茂った木やつるが複雑に絡まったところを、またキツツキ類やカラ類は樹洞の中をねぐらにします。しかし、ここに紹介するキバシリは、一風変わった場所で夜を過ごしています。
キバシリは、ヨーロッパから極東までのユーラシア大陸の温帯域に広く分布する小型の鳥類です(全長は12 cmくらい、体重は10 g前後)。背中や翼の色は茶色を基調とし、白い斑点や縦班がぼやけた感じで散らばっています。彼らは木の幹上を活発に移動して、樹皮上の昆虫や樹皮の隙間に潜むクモなどを採ります。小さい体と樹皮に溶け込むような羽色が、この鳥を見つけにくくしています。
森林の鳥のねぐら調査は、積雪期が最適です。雪は、林床のササを完全に覆い、結果として落ち葉を踏む音やササをかき分ける音を消してくれ、そして林内を自由に歩き回れるようにしてくれます。厳冬期の日没時間が迫るころ、森の鳥たちは相変わらず餌を採ることに余念がありません。林内は雪明りでまだ明るく感じますが、ほどなくキツツキ類がねぐらに入り、続いてカラ類もねぐらに入ります。しかし、キバシリはなお採食し続けています。さらに薄暗くなり、ただでさえ目立たないキバシリが、いっそう見つけにくくなったとき、キバシリの体がふっと幹に吸い込まれたかのように消え、今まで聞こえていた声も絶えます。
よくみると、幹にあいた半球状の窪みに体を入れてじっとしていますが、背中は完全に露出しています。とはいえ、夕闇の中では樹の色と相まって、もしねぐらを知らなければ、キバシリと特定することは困難なように思えます。文献によれば、キバシリは、頭を肩のほうに回し肩のあたりの羽毛にうずめて寝るとのことですので、ここに示した写真は、まだ警戒している姿勢のようです。
ねぐらは、ミズナラ、シラカバなどで見つかりましたが、多くは、樹皮が剥がれた場所にありました。また、穴の方向は、ばらつきはありますが、平均するとほぼ南側を向いていました。
気温がマイナス20度近くなる夜間に、小さな体を外気にさらしても凍死することはないのでしょうか。吹雪のときでも同じように背中を露出したままねぐらにいるのでしょうか。そしてなにより、丸見えの状態でねぐらに入っていて、外敵に対する備えは十分なのでしょうか。まだまだ、謎の多いキバシリのねぐら入りです。

キバシリ:写真1
ねぐらに入ったキバシリ。半球状の穴に体を入れ、夜を過ごします。(写真は、明るさを調整しています)

キバシリ:写真2
キバシリのねぐら穴(上と同じ部分を昼間に撮影)。矢印部分がねぐらの窪みです。

キバシリ:写真3
ねぐらに入ったキバシリ。キバシリのねぐらの多くが、樹皮のない部分にあります。頭を上に向けているのは、警戒中の姿勢のようです。

キバシリ:写真4
キバシリは、繁殖習性もちょっと変わっています。多くは、樹皮が剥がれかかった隙間に、巣材をいれて卵を産みます(写真の樹皮下に巣材の小枝がみえます)。

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