今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2015年11月 あら、こんなところに鳥の糞
更新日:2015年11月2日
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車のフロントガラスに白い粘液質のものを見つけ、そんな台詞を口にしたこともあるかもしれません。しかし、これは大間違いです。白いのは糞ではなく尿です。
鳥の排泄物には白い部分と黒い部分があり、前者が尿で後者が糞なのです。哺乳類とは異なり、鳥の尿は尿酸という白い不溶性の物質で排出されます。ま、知っていたからって何かに役立つわけじゃないですが、豆知識なんてそんなものです。
さて、黒っぽい糞の部分は汚くてイヤだと思われるかもしれませんが、鳥の食物を知る情報源となります。なにしろ、空を飛んで移動してしまう鳥を観察し続けるのは難しいため、糞を分析するのは常套手段です。そのおかげで、どの鳥が何を食べ、どんな種子を散布しているのか、というようなことがわかります。
メグロは小笠原諸島にのみ生息する小鳥です。その糞からは、昆虫や種子、トカゲの骨などがいろいろと見つかります。そんな中、アリの頭がたくさん出てくることがあります。アリは蟻酸などの防御物質を出して捕食者から身を守るため、キツツキなどが好んで食べる以外は、鳥はあまり食物としません。小笠原には固有の鳥が4種いましたが、メグロ以外は絶滅しています。メグロだけが生き残ることができた背景には、他種が好まないアリまで食べる幅広い食性が貢献していたのかもしれません。
別の機会に、メグロと名前が似たメジロの糞を分析してみたところ、今度は中から小さなカタツムリがたくさん出てきました。不思議なことに、殻の中身は消化されずに残っていました。残念ながらすでに中身は乾燥していましたが、生きていてもおかしくないような残り具合でした。そこでメジロにカタツムリを食べさせる実験をしてみたところ、約15%が生きたまま糞から出てくることがわかりました。つまり、植物の種子が散布されるのと同じように、カタツムリも食べられながら散布されている可能性があるのです。
鳥の糞には様々な機能があります。種子や動物を運んで分布拡大を手伝ったり、植物の肥料になったり、時には病気の感染経路になったりします。糞の理解は生態系の理解につながります。
普段身近に見られる糞も、生態系の中で生物と生物をつなぐパーツの一つです。もし次に車の上で鳥の落とし物を見つけたら、掃除する前に少し中身を見てみてください。きっとそこから、様々な生物がつながる生態系の姿が垣間見えるでしょう。
図1:糞をしているメグロ
図2:イソヒヨドリの落とし物。白色部が尿酸。糞にはアカギの種子が見える。
図3:メグロの糞。中には、いろいろなアリの頭が含まれていた。
図4:メジロの糞。直径5ミリに満たないカタツムリが含まれていた。
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