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更新日:2015年4月1日

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自然探訪2015年4月 樹木の芽生え ―千里の道も一歩から―

樹木の芽生え ―千里の道も一歩から―

4月に入ると樹木が芽吹き始め、山は何とも柔らかな黄緑色に染まります(写真1)。「山笑う」とも称される景色の変化には目を奪われますが、その足元では樹木の赤ちゃん、芽生えが地面から顔を出しています。ただし、その姿かたちから何の子供か言い当てられる人はなかなかいないでしょう。草だと思ってしまう人も多いかもしれません。生まれたばかりの芽生えは、その親とは全く違った雰囲気を持っています。まず、幹の色は茶色ではなく緑色です。これは幹がまだ木化していないためで、草の茎と同じようにみえます。次に、葉の特徴が大きく異なります。樹木が生まれて初めてつける葉を子葉と言います。ブナの場合は、子葉はうちわのような形をしていて、葉脈はあまり目立ちません(写真2左)。一方で成木の葉は先端がとがった卵型で、葉脈がはっきりと確認できます。子葉の次につける葉を本葉と言いますが、本葉になると成木の葉とかなり似通ったものになります(写真2右)。

芽生えの大きさは、種子の大きさによって大きく異なります。例えば、シラカバの小さな種子からは、高さ1センチくらいの芽生えが現れます。一方で、トチノキの大きな種子からは、40センチにもなる芽生えが現れます。これは大きな種子には芽生えが大きくなるための栄養が沢山含まれているためです。シラカバのような樹種は小さな種子をたくさん作る戦略、トチノキのような樹種は大きな種子を少しだけ作る戦略を取っていると考えられています。

多い年には1平方メートルに100本も発生する芽生えですが、秋にはその多くが死んでしまいます。病虫害などがその主な原因になります。うまく生き延びた芽生えでは葉が変色していたり、虫に食われていたりしており、世間の荒波を潜り抜けてきた様子がうかがえます。ただし、その後の成長も楽なものではありません。運よく日あたりが良い場所で発芽した芽生えは1年に数十センチも大きくなりますが、暗い場所で発芽した芽生えは10年たっても高さ20センチにも至らないことが普通です。そのような芽生えは、林冠を形作っている成木が倒れて林床に光が届くまで、病虫害を防ぎつつ何十年も耐え忍ぶことになります。また、順調に成長している芽生えでも、ブナのような高木樹種では親木になるまでに50年ほどもかかります(写真3)。自然の林の中で次世代を残すことができる親木にまで成長するには、千里、万里の道のりを一歩ずつ進んでいくしかないのです。

 

写真1:ブナ林の新緑
写真1:ブナ林の新緑
   
写真2(左):ブナの芽生え 写真2(右):本葉
写真2:ブナの芽生え。写真右では子葉の上に本葉が出ている。
   
写真3:親木にまで成長したブナ
写真3:親木にまで成長したブナ

 

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