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更新日:2022年6月1日

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自然探訪2022年6月 森と川をつなぐ多様な川虫たち

日本の山林の中には血管のようにたくさんの渓流が流れています。山林を流れる渓流は階段状の構造になっていて、水深が深く流れが緩やかな淵と、水深が浅く流れが速い瀬が交互に連なっています(写真1)。瀬は傾斜があり大きめの石の上や間を水が勢いよく流れます。一方で、淵は深く流れがゆるいため、川岸の木や斜面から川に降って流れてきた落ち葉などが沈んで堆積した落ち葉だまりができます。このように渓流の中には様々な環境があり、それぞれの環境に応じて非常に多様なたくさんの虫たち(川にすむ虫ということで川虫と呼びます)がすんでいいます。川虫の中でも見た目が特に多様なのがカゲロウ類やトビケラ類の幼虫です。

カゲロウ類の幼虫は姿かたちがさまざまです。流れの速い瀬の石の表面にすみ、石の下や間に入って流れを凌ぐ生活をするヒラタカゲロウの仲間は、狭い隙間に入りやすいように平べったい体をしています(写真2 左)。淵にすむカゲロウの中で特徴的なのはモンカゲロウの仲間です。モンカゲロウは淵の川底に浅いトンネルを掘りその中で生活をし、掘りやすいようにクワのような前足や細長い体をしています(写真2 右)。

トビケラ類はチョウやガに近いグループで、幼虫の体の形はみんな似ていてイモムシのようですが、つくる巣が多様です。淵の落ち葉だまりにすむカクツツトビケラの仲間は、落ち葉を四角に切りとったものを絹糸で組み上げて四角柱状の巣をつくり、ミノムシのようにその中に入って動きまわります(写真3 左)。シマトビケラの仲間は、砂利や植物片などでできた筒状の巣をつくりますが、こちらは瀬の石に巣を固定して動かないようにします(写真4)。

このように体形や巣が多様なカゲロウ類とトビケラ類の幼虫ですが、食べるものもさまざまです。淵にすむカクツツトビケラはたまった落ち葉を食べます。それらが落ち葉を食べるとかたい葉脈だけが残ったすけすけの葉になります(写真3 右)。一方で同じ淵にすむモンカゲロウは、落ち葉や他の虫の死骸などが細かくなって川底にたまったデトリタスと呼ばれるものを食べます。瀬にすむヒラタカゲロウは石の表面の微細な藻類などを顎で削り取って食べます。巣を石に固定するシマトビケラは、巣の入り口に絹糸でできた網をつけて(写真4)、そこにひっかかった流れてきた落ち葉や藻類のかけらを食べる面白い生活をしています。また、カゲロウやトビケラは成虫になると翅をもち河畔林に飛んでいきます。その途中で鳥やクモなどに食べられることで森林にすむ生き物の糧にもなり、川と森をつなぐ役割も担っているのです。

ここで紹介できた虫たちは川虫の中のごく一部です。渓流にはもっといろんな見た目や生活をしている虫がいます。山林に行く機会があれば、渓流の石や落ち葉をひっくり返して彼らの生活をのぞいてみるのも楽しいですよ。

 

(森林昆虫研究領域 田村 繁明)

写真1 山林を流れる渓流
写真1 山林を流れる渓流。

写真2 ヒラタカゲロウとモンカゲロウの仲間の幼虫
写真2 ヒラタカゲロウ(左)とモンカゲロウ(右)の仲間の幼虫。

写真3 カクツツトビケラの仲間の幼虫と葉脈だけが残った落葉
写真3 巣に入ったカクツツトビケラの仲間の幼虫(左)と
それらに食べられて葉脈だけが残った落葉(右)。

写真4 シマトビケラの仲間の幼虫とその巣
写真4 シマトビケラの仲間の幼虫(左)とその巣。
矢印は巣の入り口につけられた食べ物をひっかけるための網。

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