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更新日:2024年6月3日

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自然探訪2024年6月 北方林の火災と永久凍土

2023年の春から秋にかけて、カナダの東部から北西準州では大規模な森林火災が多発しました。NASAなどが発表した推計値(*)では、焼失面積は約1840万ha(18.4万km2)、なんと、日本の国土(約37.8万km2)の半分に匹敵する森林面積が焼けたことになります。

北方林、亜寒帯林などと呼ばれる地域では、暖流の影響が及ぶ北欧を除けば、年降水量は200~500mm程度です。平年より積雪が少ない、さらに春先の高温と乾燥が重なると、その年の森林火災発生リスクが大きくなります。北方林では数十年から百数十年のサイクルで大規模森林火災は繰り返されていますが、近年は間隔が短くなってきたという報告もあります。

周極域に分布する北方林では、火災後の植生遷移に共通点があります。最も目立つのは、火災翌年の夏には大群落を形成するピンク色の花、アカバナ科のヤナギランが一面を覆う光景でしょう(写真1)。ほぼ同時に、周辺から種子供給がある木本の実生も発芽しますが、黒く焦げた林床に広がるのは苔類のゼニゴケや蘚類のウマスギゴケの仲間です。その蘚苔類(せんたいるい)のマットに樹木の実生を見つけることができます(写真2)。これはアラスカ内陸部の例ですが、火災前は北向き斜面の永久凍土上に成立したトウヒの純林でしたが、火災後20年もすると見違える林になってしまいます(写真3)。

北方林を大まかに区分すると、非凍土域の森林は約30%で、残る70%の北方林は、何らかのタイプの永久凍土上に分布します。ほぼ全面に永久凍土が存在する地域の北方林(20%)、その地域の半分以上に凍土が不連続分布する地域(20%)、凍土は局所的にのみ存在する地域(30%)などです。

永久凍土地帯で森林火災が発生すると、地表面付近の熱収支が激変するために、火災後に凍土面が急激に沈下します。火災の翌年には1~2mも沈下します。その後、20~40年を経て植生が回復すると、次第に凍土面が再上昇し、それまで拡張していた根系は低温に晒され、凍土の中にパックされてしまいます。そうなると光を巡る競争ではなく、夏季に融ける表層土壌で水平に広がる根系を維持できた個体が生き残り(写真4)、地上部の景観は疎林になります。

これまでの気候下では、火災後に沈下した凍土は、数十年程度で火災前の深さまで再上昇するとされています。しかし、予想を上回るスピードで温暖化が進行すると、凍土面が回復する前に次の大規模森林火災が発生し、凍土が戻らなくなるのでは、という懸念がアラスカ内陸部などでは出てきています。

(*) NASA earth observatory , Tracking Canada’s Extreme 2023 Fire Season:https://earthobservatory.nasa.gov/images/151985/tracking-canadas-extreme-2023-fire-season(外部サイトへリンク)

 

(生物多様性・気候変動研究拠点 松浦 陽次郎)

写真1:中央シベリアのカラマツ林の火災跡地
写真1:中央シベリア(北緯66度-東経98度付近)のカラマツ林の火災跡地。
ヤナギランのピンク色の地表面が、延々と続いていた。

写真2:火災後3年目の林床
写真2:火災後3年目の林床(アラスカ内陸部、北緯65度-西経147度付近)。
ゼニゴケやウマスギゴケの間に、ポプラ、カンバ、トウヒの実生が出ている。

写真3:火災後の植生回復
写真3:火災後の植生回復。青い屋根の小屋の見え方に注意。
火災から18年経過するとトウヒの若木が目立ってくる。

写真4:永久凍土の連続分布域に成立したカラマツ林の地下部
写真4:永久凍土の連続分布域(北緯64度-東経100度付近)に成立した
樹齢約100年のカラマツ林の地下部。表層から40cmで凍土面に達していた。
白いテープの長さは2m。

 

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