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更新日:2010年6月1日

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自然探訪2010年2月 フユイチゴの仲間

フユイチゴの仲間

冬枯れの季節、林縁部の陽だまりの林床に濃い緑の葉を茂らせ、その中に目立つ真紅の果実を付けた植物が見られます(写真1)。冬苺(ふゆいちご)です。フユイチゴの仲間は、その名の通り冬に実を付けるキイチゴ類で、フユイチゴ(Rubus buergeri)、ミヤマフユイチゴ(R. hakonensis)がその代表的な種です。両種は、同じ場所に混生する場合があり、見分けが難しいが、よく見るとフユイチゴは葉の先端が丸みを帯び、両面にビロード状の毛があります。一方、ミヤマフユイチゴは葉の先端がとがり、毛も見られず、表面に照りがあります。また、フユイチゴの茎にはキイチゴ類の特徴であるトゲが少ないが、ミヤマフユイチゴには鋭い鉤状のトゲがあるなどの違いが見られます。花や果実を付ける花茎もフユイチゴは短く、その分、花・果実の数が少ないが、ミヤマフユイチゴは長く、多くの花・果実を付けます(写真2)。両種の分布域は広く、日本列島の暖温帯のほぼ全域に分布します。また、フユイチゴは朝鮮半島南部、中国大陸中南部、台湾にも見られます。

キイチゴ類は、その名の通り木本植物ですが、その地上茎の寿命は2~3年と短いのが一般的です。フユイチゴ類も同様で、寿命は3年程度です。両種は、毎年、株(母株:Mother)から新たな匍匐性の地上茎を伸ばし、その先端部で接地、発根し、新たな株(娘株:Daughter)を形成しますが、この段階では花も実もつけることはありません。地上茎が2年目になると,その途中から地上茎から花茎を伸ばし、その上に開花、結実します。結実後、この地上茎は徐々に枯れ始め、母株と娘株は物理的にも、生理的にも切り離されます。しかし、地上茎の一部は3年目まで生き残り、最終的に完全に枯死することになります。このようにフユイチゴの仲間は、種子繁殖と栄養繁殖を同時に行い、個体群の維持、拡大を図っています。

同じフユイチゴの名を持つキイチゴにコバノフユイチゴ(R. pictinellus)があります(写真3)。このフユイチゴは、前述の2種同様、匍匐性の常緑キイチゴですが、冬に果実を付けることはありません。コバノフユイチゴは、日本列島の多雪地帯の林床に広く分布し、雪の下で厳寒の冬をやり過ごし、雪解け後に開花、初夏に結実期を迎えます。つまり、フユイチゴ類が積雪地に適応・分化したものと考えられます。

ところで、餌が不足する冬期に真っ赤なフユイチゴの果実は鳥獣にとって魅力的な餌に違いありません。しかし、こうした果実がどのような動物によって食べられ、その種子が散布されるかについては、あまり明らかにはなっていません。ヒヨドリやタヌキといった鳥獣が有力な候補として挙げられていますが、今ひとつハッキリしません。冬空の下で、フユイチゴの果実の行方を観察記録することの辛さが、その原因の一つかもしれませんね。





写真1:フユイチゴ
写真1:フユイチゴ

写真2:ミヤマフユイチゴ
写真2:ミヤマフユイチゴ

写真3:コバノフユイチゴの花
写真3:コバノフユイチゴの花

 

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