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森林が作る炭素の隠し金庫 −森の土−
  高橋 正通(立地環境研究領域 養分環境研究室長)

1. 森林土壌の炭素蓄積
   樹木は光合成により二酸化炭素(CO2)を固定し,多量の炭素を蓄積しています。樹木を見上げるとその大きさが実感できます。一方,足下に目を向けると地上部を支える根が地下深くに張り巡らされています。さらに,土壌にも有機物が含まれています。深さ1m程度の土壌に含まれる炭素量を調べると,意外に大きいことが分かります。

 最新の集計を見ると,地球全体で2011Gt(ギガトン=109トン)の炭素が土壌に蓄積しています。その量は植物に貯蔵されている炭素量(466Gt)の4倍近くに達するものです。土壌の炭素蓄積を無視して,陸上の炭素循環を論ずるのは片手落ちといえるでしょう。

 日本の森林土壌にはどのくらい炭素が蓄積しているでしょうか。おおよそ54億トン(5.4Gt)と推定されています。より正確な推定を行うため,北海道の土壌炭素蓄積の詳細なマップを作りました(図1)。同様の手法で全国的な土壌炭素地図を作製し,炭素蓄積の精度を高める研究を進めています。

図1. 土壌炭素の分布図(北海道の例)

2. 森林施業で土壌有機物は増えるか減るか?
   施業などの森林の取り扱いの仕方で森林土壌の炭素量はどのように変化するかを考えてみます。人類は森林を伐採し,農地の拡大を図ってきました。森林を伐採すると落葉など新たな有機物が供給されなくなる一方,土壌有機物の分解が続くので,土壌炭素蓄積量は減少します。1960年代以降,熱帯の発展途上国を中心に森林の伐採と農地へ転換が進み,土壌からの炭素放出が続きました。

 一方,荒廃地に植林を行うと(新規植林),落ち葉や枯死根などにより土壌有機物量は再びゆっくりと増加します。荒廃地への植林は,樹木による炭素吸収だけでなく,土壌への炭素蓄積も期待できます。
 
図2. 植林に伴う土壌への炭素蓄積

   有機物の少ない畑に植えられたスギやヒノキ林を調査し,土壌炭素の蓄積速度を調べました。落葉などの地表の有機物は,炭素換算で毎年スギは38g/m2,ヒノキは13g/m2の割合で増加していました。また,鉱質土壌の地表0〜5cmにおける炭素の蓄積は毎年14〜21g/m2程度でした(図2)。地上の樹木による炭素蓄積速度より遅いですが,土壌中にも確実に炭素が増加していました。しかし,必ずしも土壌炭素の増加に結びつかない場合もありました。熱帯のタイにあるチーク若齢林では地上部への炭素蓄積は順調に増加していますが,土壌からのCO2放出(土壌呼吸)はいまだに大きいことが分かりました(図3)。土壌炭素の蓄積には気候や植生,地質条件などが大きく影響します。
図3. タイの若いチーク林の年間炭素動態
炭素:t ha-1 y-1,カッコ内現存量:t ha-1
   日本で一般的に行われているような森林を伐採後,植林し,再び森林に戻すような再植林の場合,土壌有機物は変化するのでしょうか。森林を伐採すると未利用の枝葉や根株が林地に残されます。これら未利用有機物(枝条)と土壌有機物を併せると伐採現場には一時的に多量の有機物が蓄積します。植林した樹木による炭素の吸収量に対し土壌や残存有機物の分解量が吸収量を大きく上回らなければ,伐採の影響は少ないでしょう(図4)。しかし,実証データに乏しいため,正確な土壌炭素変動の観測地を設け,定期的に調査を行っています。
図4. 伐採後の土壌炭素量変化(モデルによる推定

   土壌中の炭素蓄積の大きさを考えると,その変化は大気中の二酸化炭素の放出や吸収に密接につながります。しかし,森林による吸収量や排出量のカウントに土壌の炭素動態を加味するためには,今後,正確な計測方法と信頼度の高いモデルの開発が求められています。

平成14年度 森林総合研究所 研究成果発表会
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