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更新日:2014年1月6日

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自然探訪2014年1月 雪上の痕跡を読む

雪上の痕跡を読む

雪は、人間の生活に多様な影響を与えます。雪がもたらす功罪のなかで、恵みの一つは、無垢の雪原をつくることです。子供たちが遊びの軌跡を残すように、野生動物たちも、この雪原に行動の記録を残していきます。なかでも目に付くのは彼らの足跡です。大きさや、歩幅、歩行パターンから、容易に種の判別が可能な場合があります。たとえば、キツネは、直線の上を歩くような足跡を残していきますので(写真1A)、左右にぶれる犬とは比較的容易に区別できます。農作物などへの加害が問題となっている外来種のアライグマは、大きさの異なる前後脚の足跡が隣あっていて、長い指が目立ちます(写真1B)。雪が深いときには、尾を円弧状に引きずった跡も残していきます。

動物が来た方向に足跡をたどると、動物がとった過去の行動の一端をうかがうことができるかもしれません。キツネが、ウサギの足跡を追った痕跡や、体を丸めて休んだ跡がみつかることもあるでしょう。また、キタリスが雪を掘ってどんぐりを食べた跡から(写真2)、彼らの食事内容を知ることもできます。こうした痕跡は、目にする機会の少ない野生動物、とくに夜行性哺乳類の生息や行動の確認に大いに役立ちます。

また、雪に刻まれた記録から、“事件”を推理することができるかもしれません。写真3は、広葉樹林でみつけたカケスの羽毛の散乱現場です。それは少し硬くなった雪の上に薄く積もった新雪に残されていました。カケスの胴体部の雪は5cm以上も沈み込んでいて上から相当強く押さえつけられたことがうかがえます(線Aはカケスの体の中央線)。カケスの翼は広げると約50cmですので、線Bに残る翼の先端跡がカケスのものと推定されます。一方、これにかぶさる形で、その倍の長さの翼の跡が残っていました(線C)。カケスが襲われたのは確かと思われますが、カケスが地上に降りている間に襲われたのでしょうか、それとも空中で襲われた後に雪に押さえつけられたのでしょうか。この場所以外に痕跡はありませんでしたから、大きな鳥はここから、カケスをつかんで飛び上がったと推定されます。カケスを襲った鳥は、現場に羽の一片も残しませんでしたが、翼の大きさと、この時期・場所を考慮すると、オオタカである可能性が高いと考えられます。

雪の研究で著名な物理学者中谷宇吉郎は、気象条件が雪の結晶構造に影響することから“雪は天から送られた手紙である”と述べました。この手紙は地上に降り積もって、広大な白いカンバスを私たちにもたらします。カンバスに描かれた絵を探し、それを読み解くのは、冬にのみできることの一つです。


写真1:雪上の足跡
写真1:雪上の足跡。A:キツネ、B:アライグマ、C:キタリス、
D:テン(種不明)、E:ユキウサギ。矢印は、進行方向です。

写真2:キタリスが雪をほり、ミズナラの種子を食べた跡
写真2:キタリスが雪をほり、ミズナラの種子を食べた跡。

写真3:カケスの羽毛が散乱する現場
写真3:カケスの羽毛が散乱する現場。A:カケスの体の中心線、
B:カケスの翼の先端部(AB間は約25cm)、
C:オオタカと考えられる翼の先端部(AC間は約50cm)。
手前に物差し代わりに剪定ばさみを置いています。

(すべての写真は札幌市で撮影しました。画像はコントラストなどを調整しています)


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