今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2018年3月 土の炭素地図
更新日:2018年3月1日
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最近ではスマートフォンを使って行き先を表示させるなど、地図の利用が身近になってきました。道路地図のほか、目的により実に多くの種類の地図があります。住宅地図のように生活に関わるものから、専門家の用いる海図、植生図、地質図など様々です。特に林業や農業にとって重要な地図の一つに、土壌図があります。土壌図は「土の種類(国内の森林では黒色土や褐色森林土など)の分布が記載された地図」で、その土地によく適した樹種や作物の選定に大いに役立ちます。
日本では明治以降、林野土壌図と農耕地土壌図の2種類が作られました。ただし、気候変動の影響や防災等新しいニーズに対して、これまでの土壌図では十分に対応できないこともあります。そのため、「土壌の特性地図」が注目されています。これは、アメダスの降水量分布のように、ある特定の物理化学量、例えば土壌の温度、水分量、炭素量、酸性度などの分布を示すものです。こうした土壌特性値の地図の整備は、実は今ようやくはじまったところなのです。
ところで、こうした地図はどのように作成されるかご存知でしょうか?道路や植物であれば、人が歩いて測量・観察して地図を作成していくことが可能です。しかし、土壌の場合、表面を見ただけで得られる情報は非常に限られています。なんともローテクですが、基本的にはその場で土を掘るしかありません(写真1、2、3)。例えば森林の土壌炭素量の場合、実際に森林の中に穴を掘って深さ別に土壌を採取し、実験室に運搬して分析機器で炭素濃度を測定する、という途方もない作業を全国の約2400地点で行っています(林野庁森林吸収源インベントリ情報整備事業)。
なお、2400地点といっても、地点ごとの間隔が5-15kmほどあるので、そのままでは粗い地図になります。そこで、実用的な地図にするため、統計的手法を用いてその「隙間」の炭素量を推定して、最終的に50m間隔の格子状の地図として完成させました。この土壌炭素量の地図(https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2017/20171226/index.htmlの図1が日本国内のものです)は、FAO(国際連合食糧農業機関)が各国のものを取りまとめ、地球の土壌有機炭素マップとして発表しています(図)。
皆さんが普段から踏みしめている土、同じように見えるかもしれませんが、実は非常に多様性に富んでいます。近所の散歩や、山登りなど、ちょっとした機会に「目では見えない足元の世界の地図」について思いをはせるのもよいかもしれません。
(立地環境研究領域 山下 尚之)
写真1:土壌を採取する調査地に向かう
写真2:土壌採取のための穴を掘る
写真3:土壌調査の様子
図:各国のデータを基に作成された世界の土壌炭素蓄積量マップ
(地表面から深さ0-30cmの土壌)
(http://54.229.242.119/apps/GSOCmap.html(外部サイトへリンク)より引用)
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