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更新日:2021年2月1日

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自然探訪2021年2月 東南アジア熱帯林の沈香木(じんこうぼく)(ジンコウ属、ジンチョウゲ科)

沈香木(じんこうぼく)と聞いてもピンとこない方が多いのではないでしょうか。でもこの木の香りに触れたことがない方はほとんどいないはずです。沈香木は、お線香やお焼香の香り、生薬の原料として私たちの身の回りで使われています。しかし、すべての沈香木が良い香りを持っているわけではありません。実は、この香りの元になるのは、黒っぽい樹脂が木部に沈着した沈香木だけです(写真1)。この樹脂は病害虫などが侵入した際に沈着するのですが、ごくまれにしか起こりません。古くから樹脂が沈着した部分を燃やすととても良い香りがすることが知られ、人々に利用されるようになりました。また、この部分は比重が重くなり水に沈むことから「沈水香木」から「沈香」と呼ばれるようになりました。最高品位のものは伽羅とも呼ばれ、薫香原料だけでなく香水原料として中華圏やイスラム圏での人気が高く、高額で取引されています。日本では飛鳥時代にはすでに知られ、仏教儀式などに用いられるだけでなく、沈香の産地や品質などによる微妙な香りを聞く香道も発展しました。

沈香木は植物学的にはジンチョウゲ科に分類されます。この科にはジンチョウゲなど良い香りを持つ植物がほかにもあります。沈香木の仲間(ジンコウ属)は主に東南アジアの熱帯林地域を中心に分布し、約20種が知られています。インドネシアやマレーシアの熱帯雨林には、沈香木の一種のマラッカジンコウ(Aquilaria malaccensis)が広く分布し、樹高が40m近くになります。花は白っぽく目立ちませんが芳香があります。果実は親指の先ほどのサイズに成長します(写真2)。この樹種の樹皮は白っぽく、樹冠の下には黄色や緑色のしなやかな肌触りの葉が落ちているので慣れるとすぐに見つけることができます。

沈香は熱帯の貴重な産物として高値で取引されてきたため、過剰な伐採により天然資源が大きく減少しています。保護林内でも一獲千金を狙う盗伐者のターゲットとなり、違法に伐採された大木を見かけることがあります(写真3)。一方、天然資源の枯渇から沈香木の植林が試みられ、植栽方法などの研究が進められています(写真4)。植林地では木部に人工的に薬剤や菌を埋め込み、樹脂の沈着を促す施業が行われています。このような技術により、人工林からも沈香が採取出来るようになりつつありますが、品質はまだまだ天然物には及びません。また、伐採により沈香木がほとんど失われてしまった熱帯林にも沈香木の苗木を植える活動も始まっており、今後の資源量の回復が期待されています。


(植物生態研究領域 田中 憲蔵) 


写真3 盗伐されたマラッカジンコウの大木
写真3 盗伐されたマラッカジンコウの大木。
材内部に沈香はなく、そのまま放置されています。

写真1 樹脂の沈着が見られる沈香木の材
写真1 樹脂の沈着が見られる沈香木の材。
矢印の黒っぽいところが樹脂沈着が見られる部分で、
薫香原料などとして利用されます。

写真2 マラッカジンコウの果実
写真2 マラッカジンコウの果実

写真4 沈香木のポット苗(左)と植林地(右)
写真4 沈香木のポット苗(左)と植林地(右)
全天環境では半数以上が枯死することもあります。
活着後の成長は比較的良好で、右写真は植栽後7-10年が経過しています。

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