今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2023年5月 がんばれバンビ
更新日:2023年5月1日
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初夏はシカの出産の季節です。この新緑の時期は、シカにとって良質な食べ物が多いので、出産と育児で大変な母ジカにとっても、ぐんぐん成長する子ジカにとっても、適した時期です。
出産が近づいたメスは、群れから離れて出産にのぞみます。北海道では多くのメスが、出産場所には草丈が低くて傾斜が緩やかなところを選んでいるようです。出産中は、立ったり座ったりを繰り返しながら息むので、足場が良いところがいいのでしょうか。また、ある程度見通しがきいた方が、危険を察知しやすいということもあるかもしれません。
子ジカは生まれた時から危険がいっぱいです(写真1)。生後まもなくよろよろと立ち上がるようになりますが(写真2)、映画の“バンビ”から想像されるような華麗な動きを見せるまでには、4-5日かかります。それまでは、4本の足がまとまりなく動くような感じで歩き方もぎこちなく、走って逃げることもままなりません。後産(産後に排出される胎盤など)を狙ってカラスやキツネが集まってくることがありますし、子ジカも狙われます。近年は、クマが生まれたての子ジカを襲う事例もあるようです。母ジカは、子ジカを守るために安全な場所を選び、さらに周りの草や地面についた血液等の分泌物をなめとり、後産も食べて、出産の痕跡を消すのです。
子ジカは歩けるようになった後もしばらくの間、一日の大半を母ジカと離れて過ごします。倒木の陰や木の根元、ササやぶの中などにじっと隠れていて、生後数日間は人が近づいても動きません(写真3)。そのためこの時期の子ジカは捕まえるのが簡単です。体重計測やマーキングのため、捕まえる時には、丸まって隠れている子ジカの背面からそぉっと近づくのですが、触れそうな近さになると、心音が聞こえそうなくらい胸が上下しているのがわかります。つまり非常事態であることには気付いているのですが、子ジカはそれでもじっとして、隠れ続けるのです。そんな子ジカですが、母ジカが呼びに来ると、隠れ場所から飛び出して授乳をせがみます。授乳は1日数回行われますが、授乳がすむと子ジカはまた母ジカと離れ、じっと隠れて次の授乳を待ちます。
子ジカはこのように隠れて危険を回避する作戦をとっています。「親からはぐれた子ジカがいる」といって、山菜取りに行った人などが隠れている子ジカを持ち帰えろうとすることもあるようですが、必ず近くに母ジカがいるので、そっとしておいてくださいね。
(北海道支所 松浦 友紀子)
写真1 生まれたての子ジカ
写真2 初めて立ち上がる様子
写真3 山の中で隠れている子ジカ
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