今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2024年12月 都市における「第2の森林(もり)」
更新日:2024年12月2日
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『森林・林業基本計画』(林野庁、令和3年)(注1)で掲げられたポイントの1つにある“都市等における「第2の森林(もり)」づくり”は言い得て妙、私はとても気に入っている表現です。この「第2の森林(もり)」とは、中高層建築物や非住宅分野等での新たな木材需要の獲得を目指し、木材を利用することで都市に炭素を貯蔵し温暖化防止に寄与する、という考え方を言い表したものです。
ここ数年で、都心周辺ではいくつかの木造ビルが建てられてきました。例えば、写真1のビル(注2)には1,990m3の木材が使われており、使用量だけで言えば、9ha(およそ東京ドーム2個分の広さ)の森林面積分の木材に相当(全国平均を2.2m3/haとして計算)します。
木造ビルの外観だけを見せられて森林(もり)ですといわれても違和感を覚える方もいるでしょう。自然観の違いもあるとは思いますが、多くの日本人にとって、森林(もり)は自然そのものをイメージする、ことと思うと、たとえ木質感が前面に出ている木造ビルであっても、これで自然とのつながりを感じとってもらうことは容易ではないと思います。
では、ここに何を足せば良いのでしょうか。答えは写真1のビルの中に入ることができれば分かります。それは“グリーン”という視覚的要素が欠けているのではないか、と思っています。同ビルの要所要所にはプランターが備え付けられており、とりわけ8階リラクゼーションルームには豊かな緑の植栽と香り空調、森林環境音を備えているなど、安らぎを感じることができます。その空間に身を置いて、自然を感じ取ってもらい、このビルに使われている材料はどこからきたのか、その一連のストーリーを思い浮かべてもらえれば、森とつながることができると考えます。
この体験をビルの中に入らずとも得られないものでしょうか。たとえば木造ビルが建ち並ぶ街全体として表現できればどうでしょうか?写真2は木造ビルではありませんが、都心にありながら、低層ビル群の曲線美と屋上緑化により丘陵が小気味良く、高層ビル群は自然と繋がっている印象を受けます。この景色の中に木造ビルが加わればよいのではないかと考えます。現状では、にわかにビルの木造化が進むことは容易ではないかもしれませんが、部分的な木質化であれば取り入れることができるのではと思っています。
「第2の森林(もり)」づくりは緒に就いたばかりで、もうしばらくは試行錯誤が続くと思います。ただ、前提として、我々の生活の全ては自然の恩恵の上に成り立っていること、我々も自然の一部である事を認識して日々を暮らしていくことが重要なのではないかと思います。この思想が環境保全や循環型社会の実現の根幹に必要であることとあわせて、木材利用を通じた新しい価値観とともに、都市に「第2の森林(もり)」が育っていくことを願っています。
(注1)「森林・林業基本計画」(林野庁)(2024.11):
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/plan/(外部サイトへリンク)
(注2)「Port Plus®」(2024.11):
https://www.oyproject.com(外部サイトへリンク)
(構造利用研究領域 野田 康信)
写真1:木造ビル「Port Plus®」(神奈川県横浜市中区)の外観
写真2:麻布台ヒルズ(東京都港区)の中央広場に向かう眺望
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