今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2024年11月 ススキの荒廃地・土壌環境の改善能力
更新日:2024年11月1日
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ススキは十五夜のお月見にも飾られるなど日本ではなじみのある植物です。火山灰に由来する土壌でも良く育つことが知られており、火山の周辺や噴火した後の山でもよく見かけます。このような場所の土壌は酸性であり、地表に現れてから間もないため栄養の蓄積が少なく、多くの植物は生育が困難です。このような場所でもススキは生育でき、一年ごとに葉や茎を枯らし、土壌に豊富な有機物を供給します。また、良く根を張り、土壌をしっかりと掴みます。そのため、荒廃した土地では土壌の発達と保持の両方を担う重要な植物です。
火山などの自然由来の酸性土壌の他に、鉱山跡地などの人為的に土壌が酸性化してしまった場所でもススキが生育している様子が観察できます(写真1)。酸性が強いと土壌の中の栄養分が失われ、白っぽい土壌となります(写真2)。また土壌の主な構成元素であるアルミニウム等の金属元素がイオン形態となり、土壌の中の水分に溶け込むことによって、植物の生育が阻害されるようになります。アルミニウムや亜鉛、銅などは我々の生活を支える有用な金属材料である一方、生物体内に高濃度に存在すると生命活動に悪影響を与えることが知られています。ススキは古くから酸性土壌でも良く生育することが知られており、アルミニウムによる生育阻害に耐える機構(耐性機構)を獲得していると考えられています。
植物が有する金属元素に対する耐性機構は、根から吸収してしまった金属元素を体外に排出する排除機構と、吸収してしまった金属元素の毒性を軽減する化合物を産生する解毒機構の2つに大別されます。排除機構とは、そもそも金属元素を吸収しないことや吸収してしまった金属元素を積極的に排出するはたらき、一方、解毒機構とはクエン酸等の化合物を産生することで金属元素を解毒し、細胞の中にある液胞と呼ばれる細胞内小器官に保管するはたらきです。
植物は動物のように移動できず、発芽した環境に適応して生きていく必要があります。そのため、我々が思いもしない様々な機能を駆使して環境に適応しようとします。このような環境でも力強く生きようとする植物の力を利用して、荒廃した環境の緑化や森林化が期待されます。
(きのこ・森林微生物研究領域 春間 俊克)
写真1. 荒れ地に生育するススキ。
写真2:硫黄ガスで白色に風化した土壌。
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