今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2024年10月 暖かいけど雪が降る地域の森林で行う融雪水の観測
更新日:2024年10月1日
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人間活動によって大気中に放出された物質が大気中を移動して、森林に流入することで森林生態系にどういった影響があるのかを調べるために、森林に降る雨(雪)から始まり、森林から出ていく渓流水に至るまでの水や物質の動態を、いろいろな地点で長期モニタリングしています。
その一つの観測地点に、北陸地方の石川県白山市にある森林流域があります。こちらは石川県林業試験場の構内にあり、石川県立大学と共同で観測を行っています(写真1)。北陸地方は温暖ですが積雪のある地域で、世界的にも特異な気候です。そのため、「雪解け」と皆さんが思い浮かべるような、春先に雪が一気に解けて、川の水量が一気に増えるような寒冷な積雪地域とは異なる雪の融け方をします。また、冬期でも雨の日が多いのも特徴の一つです。北陸地方はご存知のように日本海側に位置しています。日本海側の地域は特に北西の季節風が卓越する冬期に、アジア大陸からの越境大気汚染物質の流入が夏期に比べると多くなります。この冬期に流入した物質の動態を調べるにあたり、雪というハードルが出現します。森林に降った雪に含まれる物質の行方をどうやって追跡するのか?まずは積雪からの融雪水を採取することから始めます。そこで、決まった面積あたりの積雪層から地中に入る水と物質の量を測るために、森林内に大型の「融雪ライシメーター」という装置を設置しました(写真2a、写真2b)。
大型融雪ライシメーターによる融雪水の研究は、寒冷な森林で始まりました。豪雪地帯で有名な新潟県にある森林総合研究所の十日町試験地でも長年、融雪ライシメーターによる観測が行われています。積雪量は異なりますが十日町試験地も温暖な積雪地域に該当する事から、十日町試験地の協力を得て2022年から石川県でも、融雪ライシメーターを使った観測を始めました。融雪ライシメーターは積雪層中の水移動の特性が考慮されており、大きさは3.6メートル四方にもなります。この大きさの木枠を林内に組み、今回は箱型にしたシートを被せることで、枠の下端に設置した雨樋に集まった融雪水が、各種測器や採水装置が入った観測小屋に流れる仕組みになっています(写真3)。このようにして行われる融雪水の観測と同時に、降水(雪)や土壌水、地下水、渓流水など様々な種類の水の観測を連動させることで、越境大気汚染物質の森林内の動態を明らかにすることができます。
最近では、地球温暖化の影響で寒冷積雪地域でも冬期に雨が降る事(Rain-on-snow)があり、融雪洪水などを誘発しています。世界的にも特異な日本海側の温暖積雪地域での融雪ライシメーターによる観測も、寒冷積雪地域の温暖化影響の予測に重要な観測の1つとなっています。
(立地環境研究領域 伊藤 優子)
写真1:積雪期の観測にスノーシューを履いて雪中行軍。
写真2a:林外に設置した大型融雪ライシメーター装置(積雪前)。
写真2b:林外に設置した大型融雪ライシメーター装置(積雪後)。
写真3:林内の融雪ライシメーター(奥)と測器等が入っている観測小屋
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