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更新日:2024年9月2日

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自然探訪2024年9月 外来種のリスはどこから来て、どこへ行くのか

日本に定着した外来種のなかで、生態系や経済、人の命や健康に対して大きな被害を及ぼすおそれのある種は特定外来生物に指定され、輸入や飼育、譲渡(売買を含む)、運搬等が禁止されています。

ここで紹介するクリハラリス(別名タイワンリス)は、東南アジアから中国、台湾を原産地とする樹上性の外来リスです(写真1、2)。1930年代に台湾から伊豆大島の動物園に持ち込まれた個体が逃げ出して増え、そこから人の手を介して日本各地に広がり野生化したと考えられてきましたが、近年、DNAの研究により、上記以外の時期やルートで原産地から日本に持ち込まれ、逃げたり放されたりした事例もあったことがわかっています。

クリハラリスが特定外来生物に指定されたのは2005年です。環境省によると、2023年の調査時点で、少なくとも12都府県37市町において生息が確認されています(※1)。各地で防除が行われており、最近では根絶の成功事例もあります。

では、野生化した外来リスはどのような問題を引き起こすのでしょうか?第一は「生態系被害」です。クリハラリスは雑食性で、種子や果実、鳥類の卵、昆虫などを食べることで森林生態系に大きな影響を及ぼします。在来種との間では食物や営巣場所をめぐる競合が懸念されますが、交雑はしません。第二は「農林業被害」です。かんきつ類などの果物や野菜のみならず、造林木やシイタケのほだ木(原木シイタケ栽培用の小丸太)を食害し、経済的な損失を与えます。公園等では食害によって枯れた枝が落下するなど、人身事故のリスクが高まります。第三は「生活環境被害」です。電線や光回線のケーブルをかじることでしばしば送電や通信の障害を引き起こします。もちろん、その復旧には時間と労力と費用がかかります。

森や公園で野生のリスを見かけたとき、在来種なのか外来種なのかを見分けるにはどうすればよいでしょうか?確認したいのは腹部の毛色です。在来種のニホンリス(九州を除く本州以南に分布)では腹部が純白ですが、外来種のクリハラリスでは腹部が茶色や灰色です(写真3)。また、クリハラリスは、ケタケタ(コキコキ)といった特徴的な鳴き声を出すこともポイントです。本種の鳴き声は当機構のウェブサイトで聞くことができますので、ぜひお確かめください(※2)。

野外でリスを見かけたらよく観察してみてください。もしそれが外来種であれば、これ以上増えて拡がるのを防ぐために、地域の行政機関(県や市区町村の外来種担当)へのご連絡をお勧めします。

外来種問題では、早期発見・早期対策、つまり数が少ないうちに十分な対策をとることが鉄則です。そのためには外来種を効率的に見つけ、数を減らす技術が欠かせません。当機構は、行政機関や学術団体と連携して、外来種防除に関する研究を行っています。

(※1)(国研)国立環境研究所 侵入生物データベース(2024.7)
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/image/map/10060d.jpg(外部サイトへリンク)

(※2)(国研)森林機構 森林総合研究所 九州支所トピックス(2024.7)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/kys/shishoshokai/topics/index.html

 

(九州支所 森林動物研究グループ 安田 雅俊)

写真1:野生のクリハラリス
写真1:野生のクリハラリスでも、人馴れしている場合には人の近くまで寄ってくることがあります。餌を与えないようにしましょう。静岡県浜松市で2019年2月に撮影。

写真2:樹上で追いかけ合っていた2頭のクリハラリス
写真2:樹上で2頭のクリハラリスが追いかけ合っていた。
神奈川県横浜市で2024年5月に撮影。

写真3:ベイト法で発見したクリハラリス
写真3:ベイト法(栗の実などの餌で誘引して外来リスを確認する方法)で発見したクリハラリス。腹部の毛色が純白でなければ外来リスの可能性が高い。
熊本県宇城市で2023年4月に撮影。

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