今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2024年3月 水生昆虫の腸に棲むカビ
更新日:2024年3月1日
ここから本文です。
近頃、腸内フロラ、ビフィズス菌、腸活など、腸に関する話題が多いですね。人に限らず昆虫にも腸の中にカビやバクテリアやアメーバなど様々な微生物が棲んでいます。ここでは特に、カゲロウ、カワゲラ、トビケラ、ハエなどの水中生活する幼虫(水生昆虫)の腸内で付着生活する特別なカビを紹介します。これらは全世界でも約300種しか知られていない小さなグループで日本からの記録は23種です。
私がこの特別なカビの仲間を初めて見つけたのは大学時代、体育館裏の側溝にいたボウフラ(蚊の幼虫)からでした。また、当時は三宅島まで出かけて行き古タイヤに溜まった水のボウフラからも採集しました。現在では、森林河川での調査も行っています。特に最近、筑波山からは新種や日本初記録種を発見しました(写真1、2)。その結果、日本で腸内カビの種の多様性が一番高いのは筑波山になりました。現在7種が(も)知られています。以前は札幌の4種でした。でも、植物や昆虫の種の多様性に比べるとまだまだ少ないと言えますね。
面白いことに、一匹の虫の腸に2種類以上のカビが同時に感染していることがあります(写真3、4、5)。各地で調査していると、同じ種類の虫を解剖してもカビの種類が1種しかいなかったり、1種でも感染数が多かったりと採取場所により異なっています。つまり、この違いは虫が生息できる環境の幅が広く、虫に依存するカビの方はもっと狭い環境に適応しているという事なのだと思います。カビに限らず昆虫に寄生したり依存したりする生物に注目すると、その種数は少なくてもより細かく環境を調べられるかもしれませんね。
水生昆虫は、春の羽化を目指して2月、3月が成長の真っ盛り。早春が調査の本番です。見つけるためにはひたすら虫を採集して解剖します。何十匹解剖しても見つからないこともあります。調査はなかなか地道で大変ですが、見つけるとその美しさに見とれてしまいます。さて、水生昆虫に注目してお話ししました。しかし、実はダンゴムシの腸にもカビは居ます。未知との遭遇はまだ続きそうです。
(森林昆虫研究領域 佐藤 大樹)
写真1:筑波山の渓流。数百mの流れが様々な昆虫の腸内微生物の多様性を支えている。
写真2:スタキリナ・フィロリコラ(Stachylina philoricola)。
筑波山で発見された新種。世界でまだ筑波山からしか記録がない。
羽を思わせる美がある。アミカの幼虫に寄生する。
写真3:ハルペラ・メルシナエ(Harpella melusinae)。
丸まった胞子がかわいらしい。世界各地で知られる普通種。
ブユの幼虫の腸に寄生する。
写真4:ペンネラ・アングスティスポラ(Pennella angustispora)の胞子。
先端に一列に並んだ粒状の構造にはあらかじめ次に付着するための糊が入っている。
機能美。ブユの幼虫の腸に寄生する。
写真5:シムリオミケス・ミクロスポルス(Simuliomyces microsporus)。
枝分かれが美しい。画面左側の太い部分はアメーバの仲間
(パラモエビディウムの一種、Paramoebidium sp.)の袋状構造であり
その上にカビが張り付いている。袋状構造の中身はのちに分裂して
多数のアメーバになる。ともにブユの幼虫の腸に寄生する。
写真3から5までのカビとアメーバが一匹のブユの腸に同時に感染している場合がある。
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.