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更新日:2024年4月1日

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自然探訪2024年4月 樹木はどこまで高くなれるのか? ~小笠原諸島での研究例~

木はどこまで高くなることができるのでしょうか?私の研究のテーマは、木の高さがなぜ制限されるのか、またはどのように決まるのかについてです。これは森林研究の中でも重要なテーマの一つで、木の高さが制限される生理的なメカニズムについては、まだ統一的な説明はありません。木の高さが制限される仮説の一つに、「水分通道制限仮説」があります。木が高く成長するにつれて、土壌から葉への水の移動に対する水力抵抗が増加し、それに伴って葉の水ポテンシャルが低下します。水ポテンシャルの低下による葉へのストレスによって気孔が閉じます。その結果、光合成が減少するので、樹高成長が制限されるという説です。10mの木が水を吸い上げる様子を人間で例えるなら、3階建てのビルからストローを下ろし路上にあるジュースを飲むのと同じような状態です。これはとてもしんどい作業です。実際に木の気持ちを体感なさりたい方は、ホームセンターでストロー程度の径のチューブを10m購入し、ジュースを飲んでみられるとよいでしょう。水分通道制限の他に、栄養不足、呼吸の増加、風速による損傷など、木の高さを制限する要因は多岐にわたります。私は、特に水分通道制限の増加が木の高さを制限する要因である、すなわち、水を飲むのがしんどくなることで樹高が制限される、と考え研究を行っています。

研究の調査地である小笠原諸島は、かつてどの大陸ともつながったことのない小さな海洋島です(写真1)。これにより、初期に漂着した生物は天敵や競争者の影響が小さい環境で独自の進化を遂げており、樹木は約70%が固有種です。島の樹木の高さは、湿潤な谷から乾燥した尾根に向かって20メートルから1メートル未満に徐々に低下します(写真2)。尾根は火山起源の浅い土壌のため乾燥しやすく樹高の低い種が優占し、谷は土壌が深く湿潤なため樹高が高い種が優占します。このような森林構造は世界的にも非常にユニークで、木の高さがどのように決まるのかを研究するモデルサイトとなっています。

私たちが行った葉の炭素安定同位体比や水ポテンシャルの測定により、尾根部では土壌乾燥による水分不足によって、谷部では樹高は高くなるものの樹高の増加によって水分通道が制限され(水を飲むのがしんどくなり)、樹高が制限される可能性が示されました。今後も小笠原諸島を舞台に、木がどこまで高く成長できるのか探求いたします。

(植物生態研究領域 才木 真太朗)

小笠原諸島の尾根部から見渡した様々な樹種が混在して生育している山肌と真っ青で澄んだ海
写真1:尾根部から見た小笠原諸島の海岸。

土壌が深い谷部に生育する高さ15mの小笠原固有樹種のテリハハマボウと、土壌が浅い尾根部に生育する高さ80cm程度のテリハハマボウ
写真2:谷部から尾根部にかけてテリハハマボウ(固有樹種)の樹高が低下する様子。
黄色の矢印の長さは写っている人物の身長を示す(身長約170cm)。

 

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