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更新日:2025年5月1日

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自然探訪2025年3月 冬のお花見と雄花の不思議な色変わり

もうすぐ桜のお花見のシーズンがやってきますが、桜の芽も開いていない冬の頃から気の早いお花見をしている人達がいます。春のお花見とは雰囲気は異なり、防寒着で身を固めた人が双眼鏡で次々に樹を眺めながらAとかBとか叫び、それを別の人がノートに黙々と書き留めていきます(写真1)。この様子は、まるで市場のセリといった方が近いかもしれません。

実は、眺めている対象はスギの雄花です。スギの雄花は前の年の夏から作られ始め、葉先近くに集まって房のように着きます(写真2)。秋の終わりごろ(11月中旬)には黄色っぽく色も付きますので、樹全体が見渡せる位置から見ると、たくさん着いているか少し着いているかが判定できます。そんな真冬のお花見(スギ雄花芽の調査)を、日本各地のスギ林で実施して、花粉が飛ぶ前に花粉情報として公表しています注1)

ヒノキも花粉症の原因となりますが、雄花はとても小さく、房状にもならないので、よく近づかないと雄花が着いているかわかりません(写真3、4)。さらにヒノキの雄花は季節によって色変わりをします。秋の終わり頃は白っぽく、葉とのコントラストがはっきりしていますが、真冬になると黒っぽくなり、近づいても着いているのがほぼ分からなくなります。この雄花がいつ頃までは見えるのかを知りたくて、採種園(タネを取るために特別に造られた果樹園のような林)で調べてみました。採種園には、各地から集められた性質の優れた樹(精英樹系統に)が規則的に植えられ、下枝まで花が着きやすいように樹高も低めに管理されています。

細かく調べてみると、早く黒くなる系統と、遅くまで白い系統がありそうです(写真5)。黒くなる程度も違います。遅くまで白くてあまり黒くならない系統が見やすいので、さらに詳しく調べているところです。ヒノキはスギと異なり、咲く直前(関東では例年3月下旬)になって雄花の中でようやく花粉が作られますので、真冬の色変わりは花粉の色ではありません。花粉ができて咲く前になると、真冬の地味な色とは打って変わって、鮮やかになります。これも系統によって、黄色、オレンジ、ピンク、赤と多彩です(写真6)。よく見ると綺麗ですので、機会があればマスクをして見てみてください。

注1) 環境省令和6年度スギ雄花花芽調査の結果等について(外部サイトへリンク)

(森林植生研究領域 倉本 惠生)

 

写真1:冬のお花見
写真1:冬のお花見(一人がスギの樹を見上げて着き具合を評価し、
別の人が評価値をノートに記録する)

写真2:スギの雄花
写真2:スギの雄花(米粒大の雄花が房状に着く。
黄色く色づくので、遠目に着いているのが分かる)

写真3:ヒノキの雄花
写真3:ヒノキの雄花
(慣れると白い粒状のものが見えるが、遠目にはほとんど分からない)

写真4:ヒノキの雄花(近接)
写真4:ヒノキの雄花(近接)
(枝を手元まで寄せると、着いているが分かる。葉先の白い粒状のものが雄花)

写真5:晩秋から真冬のヒノキ雄花の色の変化
写真5:晩秋から真冬のヒノキ雄花の色の変化(A、Bはそれぞれ別の系統)

写真6:咲く寸前のヒノキ雄花
写真6:咲く寸前のヒノキ雄花(それぞれ別の系統、A、Bは写真5と同じ系統)

 

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