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更新日:2015年8月28日
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最近、国会中継やNHKのニュースを聞いていると「シーエルティー」という言葉を耳にすることがあります。今年(2014年)の3月3日の参議院予算委員会の議事録を確認すると「シーエルティー」について次のような発言があったことが分かります。
「我が国でもこれ(シーエルティー)を普及させることによって木材の需要を大きく伸ばす一つのものになり得るんではないかと、一生懸命推進しているところでございます」(農林水産大臣)。
「今後、建築物の実証や建築基準の見直し等を進めて、シーエルティーの活用、普及に努めてまいりたい」(内閣総理大臣)。
今回の特集では、総理大臣も口にし、地方創生の切り札としても期待されている「シーエルティー」について解説します。とりあえず、「シーエルティー」とは合板を10倍ぐらい巨大化したものとお考え下さい。
井上 明生 研究コーディネータ(木質資源利用研究担当)
「CLT」って何でしょう。ひとまずインターネットで検索してみてください。ヒット数はなんと3500万件、トップは「CLTとは日本CLT協会…」です。察しの良い皆様は、何かの略称かなと想像されたと思いますが、まさにその通り。CLTはCross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)の略称で、「シー・エル・ティー」と読みます。
Cross Laminated Timber を直訳すると、交差積層された木材、となります。うまくイメージできたでしょうか。さて、CLTを説明するために、集成材と合板についてまず説明しましょう。集成材は、厚さ数cm、幅10数cmの板材(ひき板)を、木材の繊維方向(木が伸びる方向とおおよそ同じです)をそろえて積層し、接着剤で貼り合せた木質材料です(図の右 集成材)。長さ方向に強く、厚い材料を製造でき、木造建物の柱や梁として使用されます。合板は、厚さ数mm、幅約90cm、長さ約180〜270cmの薄い板(単板)を、木材の繊維方向を直交させながら積層して、接着剤で貼り合わせた木質材料です(図の中央 合板)。大きく、変形に強い面材料を製造でき、木造建物の壁や屋根の材料として使用されます。
CLTは、これら集成材と合板を掛け合わせたような木質材料です。つまり、ひき板を幅方向にたくさん並べて大きな面をつくり、接着剤を塗って、その上にひき板を直交させて積層します。この操作をくりかえすと、厚く、大きな面材料であるCLTの完成です(図の左 CLT)。国内では現在2.7m×6m(約10畳分)のCLTを製造することが可能です。
CLTの大きな特徴は、立てれば柱と壁、寝かせれば床と梁の役目を果たし、非常にシンプルに建物を建てられることです。積木やブロックで家やビルをつくる感じに似ています。柱を立てて、梁をわたして、壁、床を張ってという建築工程が、CLTをつなぐだけになりますので工期を短縮できます。ヨーロッパや北米ではすでに戸建住宅だけでなく集合住宅の建設にも使用されていますが、日本国内においても新しい木質材料として注目されており、国産材を利用したCLTの開発が進められています。
CLTの日本語での名称は、平成25年12月に制定された日本農林規格(JAS規格)により「直交集成板」となりました。
また、CLTの構成材料となるひき板は「ラミナ」と呼ばれます。
CLTは元々スイス、オーストリアで、大規模な木造建築を作るために1980年代から開発されてきた木質建材で、特徴はその大きさにあります。これまで大規模な木造建築物では、建物を支える柱や梁などには大きな木材や集成材が使用され、そこに合板などの板状の材料が釘打ちされて、床や壁が組み立てられてきました。CLT構法の場合は、柱や梁は不要になり、大きなCLTだけを用いて、箱のように組み立てていくだけで簡単に建物ができ上がります。強度性能や耐震性、耐火性など一定の性能が認められたことから、欧州では、コンクリートの代替材料として使われるようになり、ここ数年で競うように木造の高層ビルが建てられています。その中心は3〜5階建ての中層集合住宅ですが、中には9階建てや10階建てのマンションやオフィスビルもあります。
これら中高層ビルの木造化が進んできた背景には、環境負荷の低減、持続可能社会への転換といったエコロジー的価値観が、ビル建築物にも求められるようになってきたことがあげられます。また、CLTの登場によって、木造建築物の建設コストが経済的に見合うものとなってきたことも一因です。CLT構法は鉄筋コンクリート(RC)造と比較して、軽くて取り扱いやすく、工期の大幅短縮が可能です。RC造と同程度のコストなら、木造を選択する方がイメージアップにつながることや、他社に先駆けて市場の主導権を握ることも、欧米のビル木造化の大きな動機付けとなっています。
欧州におけるCLTの利用の仕方は、必ずしも全てCLT構法だけによる木造建築というわけではなく、既存の集成材との組み合わせや、木造ではないRC造や鉄骨造にCLTの床や壁を貼る方法など、多種多様です。またCLTの面的な大きさと加工性の良さの特徴を生かすという意味では、曲面の屋根のような意匠性を持つ建築物への応用が独特です。例えば2014年6月に改装したチューリッヒ動物園のゾウ舎には、曲面加工されたCLTが屋根の下地材として全面に使われています。このドームはRCの支柱や集成材の柱で支えられ、屋根の最外層には5層の単板積層材(LVL)が張られているなど、木質材料に限らず様々な材料を適材適所に使い分けていることがわかります。
最も建築事例の多い4、5階建てのCLT中層アパートにしても、地下や1階部分、エレベータの周囲はRC造となっています。またCLTは屋外に暴露される部位には使用できないため、外壁の最外層には別の板材を張るなど木造感を出そうとする工夫がみられます。つまり、欧州ではCLTを使えるところに上手に使うというスタンスであり、全てをCLTで賄おうとしているわけではないということです。
日本でCLTをどのように使っていくかは、これからの課題ですが、単に既存の建築材料の代替としてだけではなく、これまでにない多様な空間デザインや木質感を活かせる新たな使い方を提案していくチャンスでもあります。
続きは 季刊森林総研 No.27 特集:CLT開発の現状 地方創生の切り札 をご覧下さい!
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